第十話
******
優香さんとえっちするには、平日の昼間しかない。
週明け、仕事をしていたわたしは、その結論に行き着いた。
休日に理沙ちゃんを誰かに預ける、なんてことはできない。なぜなら、理由がえっちしたいため、なのだから救いようがないし。理沙ちゃんが悲しむようなことだけはあってはならない。それに優香さんだって、一人娘を何日も預けるなんて、えっちに集中してくれないだろう。
だったら、普段から理沙ちゃんが幼稚園に通っている時間帯、そこが狙い目だ。
幼稚園から帰ってくるのが14時から15時程度と仮定して、朝から昼下がりまでがフリータイム。しかし、わたしにだって仕事がある。優香さんと理沙ちゃんを養っていくためにも、今の仕事を辞めるわけにはいかない。
というわけで。
有給を取ることにした。
無趣味のわたしには使う機会のなかったものだ。思う存分とってやる。優香さんとえっちするためだけに有給を使う。実に有意義な使い方だ。
即断即決のわたしは、すぐさま有給申請をすることにした。一応、優香さんの予定も聞いておいたほうがいいかな? 先走って有給を取っても、えっちできなかったら意味がない。女同士特有の、できない日、が重なってしまったら目も当てられないし。
会社からの帰り道。定時帰宅のわたしは、夕暮れに染まる帰宅路を歩んでいた。夏も近づいてきているので、陽は伸びている。
そして、優香さん宅の前には当然のように彼女が立っていた。最近では、仕事帰りに佇んでいてくれることが多い。嫁に帰りを待ってもらえているのって、すごく幸せだ。今日は理沙ちゃんも一緒になって待ってくれていた。
「おかえりなさい、香菜江さん」
「こんばんは、優香さん、理沙ちゃん。それと……た、ただいま」
まだ一緒に暮らしているわけではないので、ただいま、なんて言うのはちょっと恥ずかしいな。
引っ越し等の話も、きっちり整理しないといけないのに。まあ、焦る必要はないか。
「香菜江おねーさん、一緒にごはん?」
「あはは、そうしたいところだけど、今日は帰らないと。今度一緒に遊ぼうね」
理沙ちゃんは残念がっていたけれど、残念なのはわたしもそうだ。優香さんは、内心で寂しがっているわたしの気持ちを見抜いているのか、あがっていってもいいよ、みたいな顔をしている。誘惑に負けそうになるが、今日は我慢だ。明日に支障が出る。気持ちよく有給を取るためにも、今は仕事に集中しよう。
「そうだ、優香さん。来週って、平日お昼あいてますか?」
「え? まあ、お昼ならだいたいは。どうしたの、急に」
わたしが理沙ちゃんに目配せすると、優香さんも何かピンときたらしい。優香さんは、ちょっと話すことがあるから、と理沙ちゃんを家の中にうまいこと誘導していた。
「平日の日中なら二人きりでいられるかな、って思って……。有給、全然使ってないから、たぶん通ると思うので。どうでしょう?」
「うふふ、香菜江さんったら。そこまでして会いにきてくれるの?」
「わたし、真剣に考えたんですよ。理沙ちゃんが幼稚園に行っている間なら、子守りの心配はありませんよね?」
「うん、それはそうだけど。……そっか、わかったわ。来週ね、楽しみにしてる」
「そ、それと。体調とかも、大丈夫そうですか……?」
いくらなんでもダイレクトに、生理来ますか? とは尋ねることができなかったので、ぼかして聞いてみた。しかも、周囲に誰かいるわけでもないのに、耳打ちで囁いてしまった。優香さんは、わたしの聞き方で察してくれたみたいだ。一気に、頬を染めている。
「か、香菜江さんったら、そんなことばっかり」
「大事なことなんです、わたしにとって」
わたしの本気を汲んでくれた優香さんは深呼吸をして、動揺を静めた。
「来週なら、多分平気……。そうよね、香菜江さん、我慢してくれているんだものね。わかったわ、私もそのつもりで予定、開けておくから……」
優香さんが"そのつもりで"と言った瞬間、彼女がとんでもない色気に包まれているような錯覚をした。
だって、それはOKのサインだったのだから。
来週、優香さんと初エッチができる!
仕事の疲れなんて、完全に吹き飛んでしまった。
「ありがとうございます! それでは、また明日!」
「う、うん。気をつけて帰ってね」
優香さん、わたしの唐突なハイテンション状態に呆気にとられながら、手を振ってくれた。
当日はどんなことをしようか。やりたいことはいくらでも思いつく。優香さん、どこまで拒否しないでしてくれるかな。
貴重な二人っきりの時間だ、後悔のないようにせねば。家に帰ったら、たっぷり予習をしておこう。