昔の話。
ノンフィクションですよ。
さて、これを読もうと思ったあなたは運が悪いとしか言いようが無い。
しばらく私、ふぐるまの昔語りに付き合って貰おう。
嫌かな?
嫌なら戻るなり右上の×をクリックするなりして早々に立ち去ってもらいたいものだね。
5行あげる。
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さあ始めよう。
私は妖怪が好きです。
『ふぐるま』で『文章』、と、来たならば何か思い当たる事が有るのではないでしょうか。
ああ、無い。有る、という声は殆ど聞こえませんね。
いえいえ良いのです。
文字も読めない幼少の頃から、母を自動音読機として使い『妖鬼化』を読破した話はまた別の機会にしましょうか。
そして私はUMAも大好きです。
ネッシー?ツチノコ?生ぬるい。
ジャノが象だなんて信じませんよ。
オゴポゴも、陸上のUMAならモギーでしょうか。
ローペンなんかにも、こう、ねえ?興奮しますよね?
ああ、同意の声のまた少ないことよ……。
幽霊も歓迎です。都市伝説だって。
しかし、一つだけあるのですよ。
オカルト関係で一つだけ許せないものが。
それは、『宇宙人』です。
そんな訳でUFOも大嫌いです。
見た目が気持ち悪いのか?
いやいやそんなものじゃありませんよ。
同属嫌悪?
失礼な。
もっと直接的な理由です。
幼い私のファーストコンタクト。第一種接近遭遇がトラウマだと言いたいのです。
当時は父と母と幼い私の三人で夕食、というのが日常でした。
非常に厳格な、いや、八つ当たりの激しい父の顔色を伺いながらする食事はイマイチ美味しくなかった事を覚えています。
しかしまあ、そのおかげで学んだ事も色々有りますのです。
そう、その日の父も機嫌が悪くありました。
ええ、鮮明に克明に覚えていますよ。テーブルクロスの模様から父の眉間に刻まれた皺の数まで。
些細な事で叱られながら食事を続けます。
母は特に何も言いません。
昔懐かし亭主関白ってヤツですよ。
黙々と私が食事を口に運んでいるとまあ突然、父が箸を止めました。
右手にお箸、左手はテーブルの上のお味噌汁を取ろうとした状態で、まるで父の時間だけが止まってしまったような格好で硬直しています。
母は特に気にする事無く食事を続けていたと思います。
幼い私は恐る恐る父を観察しました。
突然の出来事に戸惑いながらも、平和な晩餐中に起きたこの異常事態を分析しようと必死でした。
未成熟な脳をフル稼働させていると、またしても突然、父に変化が現れました。
まずは手がぶるぶると痙攣を始め、その小刻みな運動が父の体全体に移っていきます。
震えは徐々に強さを増して、父の手から箸が落ちます。
動揺します。
私の頭はパニックでくらっくらです。
父の頭ががくがくと揺れます。
前後左右。
激しく揺れる父の頭。
白目を剥いて、半開きの口からは食べかけの野菜がはみ出てきました。
動揺から恐怖へ。
感情のシフトチェンジが起きても未だ脳はこの状況に明確な答を導き出せていないのです。
そうすると人間はどうするのでしょう。
私は椅子から転げ落ちるように逃げ出し、淡々と食事を続ける母の陰に隠れました。
母の表情は覚えていません。
母は泣き叫ぶ私を無視して、一向に父の異常を解決しようとはしません。
そしてやはり唐突に父の震えが治まりました。
白目は治っていません。
恐怖に戦く私。
白目の父はあらぬ方向を向いたまま、しかし確実に私に向けて言い放ちます。
トラウマです。
「コノ体ハ我々宇宙人ガ乗ッ取ッタ」
その時の心境といったら……。
驚愕と絶望でぴたりと泣き止んでしまいました。
その頃から私はオカルト関係にただならぬ興味を持っていたので、父が何を言っているのかは理解しました。
でもまあ、理解しないほうが幸せでしたよきっと。
一家の大黒柱がある日突然宇宙人に乗っ取られてみなさいな。
無力な一幼児の力では何も出来やしませんよ。
時間にして10秒ほどでしょうかね。
父の黒目がくるんと、まぶたの下から降りてきました。
そして「我に返った」父は言うのです。
「ああ、宇宙人に取り憑かれてた」
今考えると母もグルだったのでしょうね。
それから何度も不定期に、父は宇宙人に憑依されました。
その度に宇宙人から私に、「冷蔵庫からビールをとって来い」「母の手伝いをしなさい」といった命令が下されました。
もちろん従わなければ父の命は無いのです。
ええ、はい。私は孤独に戦いましたよ。
因みに、一度だけ母も宇宙人による憑依現象の犠牲となりました。
白目で布団を敷きながら
「オ風呂ヲ沸カシナサイ」
泣きながら風呂場へ走りました。
以上、私が宇宙人嫌いとなった経緯です。
これを読んで下さった親御様方。
子供の心は繊細です。
ちょっとした悪戯がトラウマになるのですよ。
そして子供は案外根に持つのですよ。そういう悪戯に関しては。
将来こんな風にネットで暴露されたくなければ、努々子供をからかう事なかれ、ですよ。
どうもありがとうございました。
感想は……任せます。