8.過去に求める
「なあ、お前ら、今日の放課後、ヒマか?」
唐突に。メッチャクッチャ唐突に、偉そうに言ってきた川成。
「ヒマっちゃあ、ヒマ」
「事と次第によるな」
答える俺と五木。
俺たちのヒマは、変幻自在の伸縮自在。部活やってないから、とりま時間は空いてるけど、内容によっては「俺、息するのに忙しい」って用事が生まれることもある。
「駅前のビルにさ、新しい店が入ったんだって」
「店? まさか、またカフェとかそういうんじゃないだろうな」
「俺、もう甘いの食いたくねえぞ?」
五木と俺の牽制。
川成はよく、「新しいカフェが出来たんだ。行こうぜ」で俺らを連れて行き、そして「次にカノジョと来た時のために」って言い訳して、「ここのパフェがどんなもんなのか、知っておかなきゃな~」と、見てるだけで胸焼けしそうなクッソあっまいパフェを注文する。(そして今の川成に、一緒にカフェに行くようなカノジョはいない)
もちろん、つき合わされた俺たちも「後学のために知っておけ」と、勝手にパフェ(とかケーキ)を注文されて食わされる目に遭う。(もちろん、その分の支払いは各自)
だから、行く先がカフェなら、俺たちのヒマは即座に消滅、閉店ガラガラさよ~なら~なんだが。
「ちげえよ。今回は、占いだよ、う、ら、な、い!」
「占いぃぃっ?」
これだよ、これ。
川成が出してきたチラシ。
アラビアンだかジプシーだか、よくわかんねえ衣装を纏った、化粧の濃そうなふくよか過ぎるおばさんと、その手前の水晶玉。そして。
[アナタの前世、占います]
「胡散臭え……」
それが、俺と五木の感想。
「なんなんだよ、前世占いって」
☆前世を知ることで、現世でどう生きるべきか、アナタの道標がそこにある!
☆前世を見つめ返すことで、現世の運が開けます!
☆今ならオープン記念特価! 半額キャンペーン実施中!
まあ、とにかく怪しさしかねえチラシ。
「おれの中学の友だちがさ、前世は織田信長だって言われたらしいんだ」
「……もう体験したやつがいるのかよ」
頭を抱え、ズルズルと机に突っ伏す。
「というか、織田信長って……」
「ソイツのカノジョは、紫式部だってさ」
前世が織田信長と紫式部。
どういうカップルになるんだ、それ。
小学生でも知ってそうな歴史上の人物を言ってくるあたり、この化粧ババア、かなり怪しいんじゃね?
前世織田信長なら「同じく転生してるであろう、明智光秀に気をつけよ」とか、前世紫式部なら「アナタは、これから小説を書くべきです。大成します」とか言われんのかな。
「でさ、ソイツが『これから俺とつき合うなら、せめて徳川家康ぐらいの前世持ちじゃねえとな~』とか言ってくるからさ。おれの前世が誰なのか、占ってもらいたいんだよ」
「なあ、そんな友だち、縁切ってもいいんじゃね?」
「激しく同意。それでお前が『前世は明智光秀です』って言われたら、ソイツ、どうすんだろな」
それはそれで、反応が知りたい。
「なんだっていいじゃん。なあ、一緒に占ってもらいに行こうぜ」
粘る川成。
「――仕方ない。行くか」
「五木、行くのかよ」
そんなインチキくさい占いに。
「ま、話のネタにな。どんな有名人を言ってくるか。ちょっとおもしろいじゃん」
「まあ、それは確かに」
信じる信じないは別として、笑いのネタにはなりそうだ。
「オレは、坂本龍馬とかがいいな~。『日本を洗濯するぜヨ』なんてな」
「うっわ、似てねえ~」
「そういう新里は、誰がいいんだよ」
「俺か? 俺はそうだなぁ……」
顎に手を当て、軽く首を傾げる。
「福沢諭吉……かな。一万円だし」
なんか、金持ちになれそうな気がするじゃん。
「渋沢栄一に替わるのに?」
あ、そだ。
「じゃあ、そっち。渋沢栄一に変更!」
「適当すぎだろ」
五木がツッコみ、川成が腹を抱えてゲラゲラ笑う。
なんだっていいじゃんよ。そんなの、ただの占い、余興、暇つぶしなんだからさ。
*
駅前のビル、二階。
[マンマ・フォルトゥナータの館]
うわ。胡散臭げ。
多分、俺や五木だけじゃなく、誘った本人、川成も同じ感想を抱いたらしい。だって、三人揃って、ドアの前で足がビクッと止まったし。「これ、ドア、開ける? どうする?」ってためらう視線を交わしあったし。
どこにでもある駅前雑居ビルの二階。中からは、アラブかインドかって音楽と、臭いかいい匂いが微妙なお香のニオイが漂ってくる。
そのくせ、店の看板、イタリア語っぽいロゴは、アロハ・オエ~って感じのハイビスカスっぽい花と蔓で縁取られていて。お前の流派はどこなんじゃいっていう、無国籍多国籍ごっちゃ煮状態カオス。
いくら、オープン記念セールの大特価! と言われても、これはさすがに……。
「――ようこそ、いらっしゃいました。迷える子羊よ」
キィッと開いたドア。「あと一歩遅かったー!」ってのが素直な感想。回れ右しかけたかかと。仕方なく、正面を向き直す。
「さあ、いらっしゃい。マンマがあなた達に進むべき道を示してくださいますよ」
にっこり笑って、俺たちの入室を勧める、ジプシーっぽい長いドレスのオバサン。進むべき道って。迷える子羊は、そのままグツグツ煮られて食われる運命……とかじゃねえだろうな。
「お邪魔、しま~す」
小声でなぜか頭を下げながらの入店。バタンと閉まったドアに、ちょっとだけ背中がビクンとなった。
薄い黄緑のソファに、いくつかの観葉植物と白い壁。
店の中は、もっと怪しい感じかと思ったけど、それは音楽とお香の匂いだけで、それ以外は特になんてことない空間だった。どっちかっていうと、病院の待合室に近い雰囲気。
「マンマはとても素晴らしい力をお持ちの方です。タロット、水晶、占星術、手相、四柱推命。様々な法を駆使し、貴方がたの過去、未来、すべてを見通し、これから何を成すべきか、道を示してくださります」
はあ。
「この地に居を構えたのも、何かの縁。故にその御力を、あまねくすべての方に振るいたいと申されておりますが、そうすると、マンマに過大な負荷がかかってしまいます。下手をすれば、マンマのその御力を損なうことも」
ほう。
「ですから、今日は前世占い、それも三つの質問のうち、一つにお答えするだけとさせていただきます」
三つの質問?
「一つ、己の前世が何者であるか。二つ、その前世から現世でどのような未来が待ち受けているのか。三つ、現世で成すべきことはなにか。この三つのうち、一つだけご質問ください。マンマが貴方がたのために、素晴らしい御答えを導き出してくださるでしょう」
「……なんか、結構もったいぶってんのな」
「だな。質問は一つだけって。気になったら次回も来いってことか?」
「オープン特価期間過ぎてからな。ぼったくられっぞ、それ」
説明ジプシーに聞かれないようにコソコソ話。
「ま、とりあえず、自分の前世が誰か聞いておけばいいんじゃね?」
「そうだな」
面白半分、からかい半分。
福沢諭吉、渋沢栄一。あとはそうだな、真田幸村とか伊達政宗もカッコよさそう。前田慶次なんてのもアリかな。イケメン~ってことで、沖田総司とか源義経もいいかもしれん。全部、アニメとかゲームの受け売りだけど。
「俺、高校の時にさ、前世占いでダレソレが前世だって言われたんだよね~」
いつかあるかもしれない合コンとかで、ネタとして話せるかもしれないし。それで、「あ、わかるわかるぅ。新里くんってダレソレっぽいもんね~、カッコいいし~」とかに持ち込めたら最高じゃん?
「では、お一人ずつ視ますので、こちらにどうぞ」
真っ白なパーテーションの向こうにある、ちょっと重苦しそうなカーテンの中へ。
さて。俺の前世はいったい誰なんだろうな。