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14.フラワーガーデン③

「変異体質?」


 メモというよりもはや暗号文とか古代人の記号めいた永井の殴り書きに頭を万力で締め上げられるような苦痛を覚えていたとき、永井はふとそんなことを話し始めた。


「そう。そういうヤツがいるってハナシ」


 爽のバニラを口に運びながら永井は言う。面倒な推理作業を自分だけ終わらせて永井はいつになくご機嫌だ。ご高説を披露するのは探偵役の特権である。黙られても面倒なので僕は冴えない助手役に徹することにした。


「前におまえが言っていたクラヤミにとってご馳走みたいな人間がいるって話?」


 晦虫は人の心の闇を喰らう。人の中にはごく稀に実体と空想の境が曖昧な特異体質がいて、それが晦虫にとってはこれ以上ないほどの美味、て話だったはず。そして、永井かふかはそれらと見分けられないぐらい似ている一方で晦虫を死に至らしめる猛毒を持っているのだ。


「バカメロスにしてはちゃんと話を聞いてるじゃない。一応褒めてあげる。ま、それよりはレア度は低いんだけどね、SSRとSRぐらいの差」


 永井は使い捨てのスプーンでアイスをかき混ぜるとまた口に中に放り込む。


「ねえ、好きなものがいつまでも食べられたらサイコーじゃない?」

「魔女が作ったお菓子の家じゃあるまいし…………」

「…………」

「まさか」いるのか? そんな人間が。


 にまにま嘲笑って肯定する顔は幼い兄妹を食い殺そうとする魔女そのものだった。


「クラヤミは大好物をできるだけ長く楽しみたい。でも、憎しみや怒り、妬みといった感情は強い分、長続きしないわ。次第に心が弱って結局我慢しきれなくなったクラヤミに全部食べられて終わりのパターンが多い」

「でも、例外がある?」


 永井は最初に晦虫のことを話したときにこう言った。

 何事も例外がある、のだと。


「普通の人間にとって毒でしかない感情を自らの意思で持ち続けたい人間がある程度はいる。ま、一種の変態ね。そんでそういう連中と食欲が自制できるクラヤミが寄生するととても厄介」


 いつまでも消えない負の感情を抱き続ける人間とその炎を享受する晦虫。炎が大きくなればなるほと影はより大きく、より濃くなる―――。


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