第四章(12) 申し訳無さとカミラの言葉
「これは、貴方様の為でもあるのです」
わ、私の為・・・・?
「やり残しが無いようにする駄目です」
やり残し。そんなもの、私は持っていません。
やりたいことだって、カフェで働くことしか思い浮かばなかった。それもカミラのおかげで、今は叶っているけれど、本当にそれしかなかったのに。
「結婚に、希望を持っていたのではないですか?」
「・・・・!!」
私は、あの結婚式の前日、お母様からあの瓶を受け取っても何も思わなかった。今死ななければならないわけではないことに安心さえしていた。今までよりも自由になって、一年半も生きることが出来る。それだけで十分だと、あの時は思っていた。
だけど、結婚式の日、僅かだけど夢を見た。
『自分のことを必要としてくれる人がいるのではないか。その人が公爵様なのではないか。そんな人と一緒に生活出来るなんて、なんて幸せなのだろう?』
そんな夢を。
だけど、公爵様は私に何も求めなかった。公爵婦人の仕事すら与えてもらえなかった。
私は必要とされていない。
そう実感してからは、今までと何も変わらない生活を送った。これまでしてきたように、出来る事をするだけの日々だった。
「せっかく一緒の時間が増えそうなんですよ?結婚式の時に思っていたことを叶えましょう?」
この三ヶ月間、私は今までにないくらい幸せで、幸せ過ぎるのです。カフェで働くことが出来て、公爵様と一緒に夕食を食べる事が出来ました。どれも、叶わないものだと思っていたのに。
「そんな、贅沢は、言えません・・・・」
何より、怖い。これ以上幸せを知ってしまうと、死ぬのが怖くなりそうで。お母様に殺されたくなくても、私自身で死ぬ事も出来なくなりそうで。
「・・・・貴方様のお時間は確実に無くなっていきます。残念ながら、終わりも、来てしまいます」
そう、延長なんてされない。お母様は絶対に私が4ヶ月後に生きている事を許さない。そんなことは、わかりたくてもわかってしまう。
「大丈夫です。私がいます。貴方様は何も怖がらないで、一日一日を大切に生きて下さい」
カミラは私が死ぬのを確認するのが仕事のはずなのに。それなのにカミラは私のことを心配してくれて、励ましてくれる。
私はカミラが何を思っているのかはわかりません。何を主な仕事としてお母様に頼まれているのかも知りません。
けれど今、カミラの仕事に私が『私を殺す』という仕事を加えてしまったような気がして、申し訳なく思ってしまった。
「・・・・ありがとう」
だからせめて、カミラの言葉を信じてみよう、と思った。




