第四章(6) 妻の為のケーキ By ハロルド・レイルズ
「まさかハルがケーキを買うとはね」
スタンは笑いながら俺に話しかけてきた。
「何か文句があるなら、素直にそう言え」
「全く無いけど〜。だって今晩は家に帰るって事でしょ?」
俺は何も言えなかった。
今日も仕事場にスタンが押しかけてきて、俺を無理やり連れ出した。
けれど、今日のお店はとても人気だった。
接客も完璧で、料理も美味しかった。
そして俺はいつの間にかケーキを購入していた。
「ねえ、僕もついていっていい?」
「はぁ?何で?」
「僕、一度もハルの奥さんにご挨拶してないから、良い機会だと思って」
挨拶なんて、必要ない。そういう名目で彼女に近づくつもり、という可能性も・・・・
「それに、奥さん、心配してると思うんだ」
「何を」
俺は今、幼馴染に彼女が取られないかと心配しているんだが?
「ハルこと。この一年間、仕事仕事で全く家に帰らなかった訳じゃん?安心させてあげないと困るのハルでしょ?」
「俺は・・・・」
困らない。その言葉は頭にはあったものの、発することは出来なかった。もしかしたら、本当に心配してくれているのかもしれないと、僅かだが思ったからだった。
「ハルの幼馴染である僕が、ハルの話をしてあげることも何か役に立つと思うんだけど?」
「・・・・わかったよ」
正直、来てほしくなかった。
だけど、こいつが何かやらかした時は俺が処分すればいいだけのことだ。
「やった〜!」
「・・・・夕方、俺の仕事場に来い」
「了解!さっさと仕事終わらせてくる〜!」
そう言うと、スタンは俺を置いて一人騎士団の事務所の方向へ走っていった。
『奥さんの為』
その言葉に、俺は負けた。
このままじゃあ、彼女が俺の弱点ではないか。
弱点なんかじゃない、絶対に。俺は、彼女は俺の・・・・。
いや、考える前に俺も仕事終わらないとな。
そう思い立った俺は、仕事場に向かって歩き始めた。走りたくてもケーキを持っているから走れない、ということがとても残念でならなかった。




