第四章(5) 予想外のお客様
「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりでしょうか?」
働き始めて三ヶ月が過ぎたこの日、私は今まで以上に緊張していました。
「えっと〜、僕はこの特濃トマトパスタで」
「・・・・俺も」
「パスタですが、麺の硬さはどうなさいますか?」
「オススメはある?」
この質問に、私はそうですね・・・・と少しの間言葉を選んで、次のようにお伝えしました。
「お急ぎの場合でしたら噛む回数が少なくて済む柔らかめがよろしいかと。ごゆっくりお食事が楽しみいただけるという場合でしたら、硬めがよろしいかと」
「う〜ん、じゃあ僕は硬めで」
「・・・・俺も」
「ご注文の確認をさせて頂きます。特濃トマトパスタ、麺硬め、二人前でよろしいでしょうか?」
「うん」
「少々お待ち下さい」
お客様からしっかりと注文を取って、店長さんに伝えた私は、バックヤードで少しだけ椅子に座らせてもらうことにした。軽い気持ちで椅子に座った私だったけれど、いざ一度椅子に座ると、立てなくなってしまいました。
「メイさん、横になって休まれたらどうですか?」
リンゼイさんにそう言われてしまったので、私はお言葉に甘えてソファーで横になった。
硬めのパスタが茹で上がるまでの時間は約十分。それまでに、この緊張をほぐさなければ。
パスタを頼まれた男性客二人組。はじめに注文をした人に見覚えはないけれど、ボソッと注文をした人は私のよく知る人物でした。
見間違うはずがありません。公爵様でした。
まさか公爵様がこんな場所に来るなんて思ってもみなかった私は、少しパニックになってしまったのです。
カミラ!カミラ、助けて・・・・!
今すぐにでもそう言って助けを呼びたい、そんな気分でした。
「メイさん、パスタ出来上がったよ」
その声で、私は無理矢理気分を立て直しました。
私は御令嬢が嫉妬しているのかもしれない容姿を持った奴隷も同然の公爵婦人。バレてしまったのなら、死ねばいい。
そう思うと、少しだけ、動けるようになったのでした。
「お待たせいたしました。特濃トマトパスタ、麺硬め、二人前でございます」
私はお二人の前にお食事を並べました。
「ねえ、ここって、あとから注文追加したり出来るの?」
「はい、可能ですよ。こちらのベルを鳴らして、店員をお呼び下さい」
「ありがと」
「ごゆっくりどうぞ」
そう私が言うと、お二人は特に何も話すこと無く、パスタを食べ始めました。私はその様子を見て、少し安心しながら別のお客様のご注文を承るべく、移動したのでした。




