新人と所長~荒井慎次の憂鬱~
荒井慎次は頭にきていた。
それは零の生活態度によるものだった──
「おい、所長ふざけてるのか?」
「ふざけてる? 何がだ荒井」
零が荒井に対して言うと、荒井は冷蔵庫を指指した。
「ろくな食材が入ってねぇ! あっても傷んでつかえねぇ! 食事する気はあるのか⁈ 俺にはないようにしか見えねぇが!」
「……」
荒井の言葉に零は視線をとおくへと向けた。
「それにシャワー浴びてもその長い髪乾かさずに寝ようとしやがるし、異形に狙われてるってのにパンツ一丁で寝やがる!」
「いや、それはいいだろう」
「良くねぇから俺は言ってるんだ!」
「慎次──零さんにソレ言っても無駄だよ、改善されたこと一度もなかったから、いやマジで」
フエが天井からぶらんと逆さになって現れるが、二人とも動じない。
「だったらレオンに食事とか作らせるとかあるだろう⁈」
「一回あるんだけど──これ食えるの? という代物ができあがったのでニルスに無理矢理食わせた」
「……そうか、彼奴メシマズなのか……」
「普段から自分で料理しないからねー……」
「スムージー飲んだし、私は出かけ──」
「ハイストップ」
フエが天井から回転して下りてきて、零の首根っこを掴む。
そして荒井にバッグを渡した。
「これで何か作ってちょうだい、私はその間フエさんお説教してるから」
「……分かった」
荒井はバッグを受け取ると中に入っている食材を取り出し、調理に取りかかった。
荒井が調理している横で、フエは零に説教を開始していた。
「まずね、ご飯スムージーだけってのがいけない。痩せたいの? 痩せる必要ないよね」
「朝は其処まで喰わんし……」
「って言って昼と夜も抜いて寝る事あるじゃん、三食キチンと食べなさい」
「ぐむぅ……」
「そんなんじゃ体壊すよ?」
「それは困るが……」
「それに髪の毛はちゃんと乾かす事、面倒なら私達呼んでいいから」
「いや、それで呼ぶのもどうかと……」
「んじゃ、慎次に言いなよ。彼奴おかん属性だから世話焼いてくれるし」
「誰がおかん属性だ!」
「あ、聞こえてた」
「聞こえてるに決まってるだろう、お前……」
怒鳴る荒井にフエは何処吹く風だ。
「──ほら、飯ができたぞ」
と、人間が食べる量よりも少し少ない程度の料理が出された。
「これ位なら食べられる」
「食べたら歯磨けよ」
「分かってる」
ミニハンバーグを零は一口で食べた。
白く柔らかなパンにジャムをつけ、サラダを食べて、そしてスープを飲む。
最期にデザートらしき林檎を飾り切りしたものを食べた。
「ごちそう様」
「洗ってくるから、歯磨きしっかりしろよ」
「それくらいはちゃんとやる」
「歯磨きだけは、ちゃんとやるんだよねー。虫歯怖いし」
「そうだな」
「なら他もちゃんとしろよ」
荒井が呆れたように言うと、フエは首を振った。
「そうしてくれれば苦労はない」
「くそが……」
カチャカチャと食器を洗い、拭いた荒井は、歯磨きを終えて、出かける準備をしている零を見る。
異形に対抗する為に、特殊な銃の手入れをしていて、しっかりとできている。
──何で他者を守ることには必死なのに、他の事になると駄目駄目なんだか──
「しまった、レオンとニルスに別件を任せていた、がまあいい、私一人で──」
「俺が行く」
「ん?」
「俺はアンタのボディガードとかも兼ねて此処に来るようフエに言われたんだ、異形くらいならなんとかなる、暴漢もな」
「……そうか、なら任せよう」
荒井はコートを羽織った。
いつの間にか居なくなったフエの事を考えつつも、今は零の護衛に集中するべきだと決めた。
そして二人は外に出た。
その日、異形の集団に襲われた零を見て「あ、こいつ一人にしたらやべぇ」と、荒井は零から目を離さない事を硬く誓ったのだった──
生活態度が破綻している零、だからフエ達が目を離さなかった理由の一つ。
これから慎次が零の日中のお世話をすることになりそうですね。
ここまで読んでくださり有り難うございました。
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