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マヨヒガの主様のお食事事情

マヨイは料理が食べたくなり姉の元に行こうとするが、そこに隼斗が現れて──





 くだものややさいはだいすき。

 おにくはなまのはたべたくない。

 すききらいはしたらいけないとなまのだけはいや。

 でもくんせいとか、ひがとおったものはすき。

 わがままかな?



 異形の子ども達は、皆総じて大食である。

 人間の大食漢の何倍以上も食事を一回にとる。

 人間の食事で問題ないものもいれば、人間の食事では満たされず「異形」としての食事をしなければ満たされないものもいる。

 中には偏食家と呼ばれる子らもいる。

 マヨイはそういった子どもの達の中でも「人間」の食事だけで満足するかなり珍しい存在だった。


 お供えものの果物や野菜などの収穫物をそのまま食べるのが以前の彼女だったが、現在は調理したものを口にすることを覚えており使い魔や兄弟達、神主にねだって料理をしたものを準備してもらうようになっていた。

 自分で料理をするのは得意ではないらしく、必ず他者に調理をしてもらっていた。

 実際彼女が料理すると大惨事になるので周囲から禁じられているのもある。

 結果、調理されたものを口にしたい時は、必ず誰かに頼む癖がついていた。



 ある日、マヨイは住処にある数々の果物、野菜、穀物類を箱に詰めていた。

 「姉」に料理を作って貰いたくなったのだ。

 料理が得意な「姉」は材料さえもっていけば好きな物を作ってくれるのを知っているし、色んなことを教えてくれるのも知っていた。

 だから、料理を作って貰うついでにお話を聞かせてもらおうと思ったのだ。

「何をしてるんだ?」

 後ろから声をかけられたので、振り返ると予想通り現在一緒に住んでいる隼斗がいた。

「う゛ーう゛ー」

 うなり声を上げながら舌を引っ込める。

「おねえちゃんに、おりょうり、つくってっもらうの。あとおはなししてもらうの」

 隼人は「おねえちゃん」と「おはなし」の箇所に眉をひそめた。

「何の話をするんだ?」

「隼斗さんがまんぞくするほうほうについてー」

 嬉しそうなマヨイの言葉を聞くなり、隼斗はがつんと頭を壁にぶつけだした。

「どしたの?どしたの?」

 がんがんと頭を打ち付け始めた隼斗の行動が理解出来ず、マヨイは隼斗を止めようとする。

 しかし、隼斗が頭を打ち付ける行動は止められなかった。

 しばらく打ち付けてから隼斗は冷静になったのか、しゃがみ込みマヨイの肩を掴む。

「――料理は俺がする。だから行くな」

「隼斗さんがりょうりしてくれるの?」

 首をかしげながら尋ねると、隼斗は大きく頷いた。

「――じゃあ! おねがい!!」

 マヨイは材料が詰まった箱を隼斗に手渡した。




 マヨイが「お姉ちゃん」の元に行くのを阻止できたことに安堵した。

 以前「お姉ちゃん」の元に行った際にどこから仕入れたのだと言いたくなる程の性的行為の方法を学んできたのだ。

 その上「お姉ちゃん」は自分を監視しているらしく、マヨイがいない間の売春と相違ない行為内容を余すことなくマヨイに伝えたのだ。


 自分から言うならともかく、見たこともない第三者にそのような口出しは二度とされたくなかった。

 確かにあの行為は酷く興奮したし、満たされたが余計な手出しはしないで欲しい。

 それに、できれば傍にいて欲しい。別に自分は体を売りたいわけではないのだ、孤独に耐えられないのだ、マヨイがいない恐怖に耐えきれないほど弱くなってしまっているのだ。


 だからこそ、できるだけマヨイが外出しないようにしたかった。

 そんな隼斗の気持ちなど気づきもせず、マヨイは楽しげに使い魔にぶら下げられていた。

 隼斗はそんなマヨイを見て、小さくため息をつくと箱からいくつかの果物を手に取った。

「……林檎、か」

 赤く熟した果実を見て呟くと、それをもって住処の奥にある台所へと移動した。


 皮をむき、スライスした林檎を鍋で煮詰める。

 焦げないように煮詰めながら、冷蔵庫を開ける。

 冷蔵庫の中には鶏の胸肉が入っていた。

 手に取ると、使い魔がホワイトボードを持って近寄る。

 ホワイトボードには「マヨイ様は生肉は食べれないが、火を通した物はお食べになる」と書かれていた。

 その言葉に、隼斗は少し考えデザートが食べれるようになるまでのつなぎを作ることにした。




 一人、部屋のベッドでじたばた遊んでいるマヨイは「姉」から貰った飴玉をなめながら待っていた。

 どんな料理をつくってくれるんだろう?

 ワクワクしながら待っていた。

「できたぞ」

 隼斗の声に起き上がり這いずりながらテーブルへと移動する。

 テーブルの上にはゆでた鶏胸肉をはさんだサンドイッチとサラダが並べられていた。

「たべていーい?」

 首をかしげながら聞くと、隼斗は少しばかり嬉しそうに笑って頷いた。

 使い魔がよそったサンドイッチに早速かぶりつく。


 鶏胸肉はしっとりとしていて美味しかった、なんのソースか解らないがソースとも相性がいいし、一緒にはさんでいる野菜も美味しかった。

 少しあぶられているパンも美味しかった。


 サラダを口に放り込む、真っ赤なトマトの酸味と甘みがとてもよかった。

 シーチキンとマヨネーズの相性は素敵だとも感じたし、レタスもしゃっきりしていてとてもよかった。


 ムシャムシャと隼斗の手料理を口にするマヨイを、隼斗はぼーっと見つめていた。




 正直に言って、マヨイの作法は作法をしらないこどものようでややみっともない食べ方なのだ。

 けれど、この上なく美味しそうに食べるその姿がとても愛おしかった。

 なにより、自分の手料理でそこまで嬉しそうにしてくれるのが隼斗にはこの上ない喜びだった。

「隼斗さんも、たべないの?」

 虚無のような真っ黒な目をぱちくりとさせてマヨイが尋ねてきたので、隼斗は「ああ」と生返事で答えて一つだけサンドイッチを口にした。

 自分の手料理なのに、やけに美味に感じられた。

 何となく飲み物が欲しくなって珈琲をいれると、マヨイもねだってきた。

「……苦いから止めた方がいいと思うぞ?」

「にがい?じゃああまいのほしいー」

 そういうので、ミルクと砂糖をたっぷりいれたものを渡すとマヨイは美味しそうにそれを飲み干した。


 口についたミルクをみて、体の奥がぞくぞくしたが、堪えることにした。


 そろそろデザートもよい頃合いだと判断した隼斗は席をいったんはずし、覚ましていたアップルパイを取りに行く。

 パイの甘い香りが漂う。

 うまくいったかと内心ほっとしつつテーブルに持って行き、ナイフで切り分けてマヨイに二切れほどよそう。

「あっぷるぱい! マヨイあっぷるぱいすき!」

 マヨイはそういってパイをほおばる。

「あまずっぱい~!!」

 そう言ってから少しだけ首をかしげた。

「……れいさんがつくってくれたあっぷるぱいとはちょっとちがうな?」

「……れい?」

 何処かで隼斗はその名前に聞き覚えがあった。

「たんていさんなのー。マヨイによくあっぷるぱいとかおかしつくってくれたの! れいさんのぱいはすっぱいのだったり、あかいのだったりいっぱいあったの!」

 楽しそうにいうマヨイの言葉に、隼斗はなんとなく敗北感を感じた。


 アップルパイに何種類も種類があるのか?                  

 いや、探偵で名前が「レイ」?まさか、あいつか?いやそんなまさか


 頭の中で様々な事柄がぐるぐるとめぐる。

「隼斗さん、またマヨイにおかしとかごはん、つくってくれる?」

 無邪気に笑うマヨイを見て、その考えを押し込めて笑い返すことにした。



 隼斗の手料理を食べ終えたマヨイは、隼斗に近づき笑いながらいう。

「隼斗さん、ありがとう?マヨイはおりょうりできないから、べつのことでおれいするね?」

「お礼?」

 マヨイの言葉に隼斗は首をかしげた。

「ねえ、隼斗さん」


「マヨイに、なにしてほしい?なに、されたい?」


 無邪気な声色、無邪気な声でそういわれた途端、隼斗の体の芯がざわめく。


 嗚呼、これは純粋にお礼をしたいという言葉なのに。

 酷く蠱惑的に聞こえる、嗚呼からだがぞわぞわする。

 いや、それとも入れ知恵?

 そんなのどうでも良い。


 隼斗は自分の表情が酷く醜い程に情欲に濡れているものに変動しているのが理解できた。

 でも、それを先ほどまでの表情に戻すことはできなかった。

 まるで懇願するような、哀願するような表情になっていた。

 そんな隼斗を、マヨイはいつもと変わらない幼く無垢の笑顔で見つめる。

 夜空の星を移したような闇の目が隼斗を写し出す。



 隼斗は欲を押さえることができず懇願した――



 ゆるやかな情交、それが始まり、隼斗は満たされる感覚に満足した──







隼斗、すっかりマヨイに依存です。

料理は得意なのでしょうね、マヨイは美味しいと言ってますし。

これで防げられたらいいですね。


ここまで読んでくださり有り難うございました。

次回も読んでくださると嬉しいです。

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