君の為に~パウンドケーキを~
柊はフエが出かけてしまった事にふてくされていた。
そのことをやってきた康陽に言及されてふてくされてないと怒鳴る。
康陽はそんな柊を簡単に扱い、自分はケーキ作りを行うから帰るというと──
「おい、柊。何ベッドの中でふてくされてる」
「……フエが仕事だと出かけてしまった」
マヨイからの食材を持ってきた康陽に柊はそう返した。
「お前はガキか」
「ガキじゃない!」
康陽の言葉に柊は噛みついた。
康陽は方をすくめる。
「ガキじゃないなら待てるだろう」
「だって……フエは仕事だと言って『花嫁』といちゃついてくるのだろう?」
「うーん、語弊だな。いちゃついてるんじゃなくて話あって行動を共にしてるんだ」
「何故?」
「異形案件が山ほどこの世界にはあるからな」
康陽はそう言って冷蔵庫に食材を入れていく。
「食材は冷蔵庫に入れたからフエに伝えとけよ」
「……分かった」
「俺もかり出された蓮を待っている間に菓子を作る予定でな、暇じゃないんだ」
「待ってくれ!」
「ん?」
柊に呼び止められ、康陽は立ち止まり、振り返った。
「わ、私も菓子作りがしたい。彼女に食べて貰いたい」
「……いいぜ、俺等の部屋に来い」
「分かった」
「ちょっと待て」
布団から出た柊に康陽はストップをかける。
「ど、どうした?」
「その格好で料理する気か?」
「……駄目か?」
「駄目に決まってるちゃんとした服に着替えてこい」
寝間着姿の柊にそう言うと、柊はワイシャツとジーパンを引っ張り出し、それに着替えた。
「これでいいか」
「ああ、行くぞ」
「こ、これででいいのか?」
「いいんだよ。プレーンとレーズンの二種類でいいか」
二人はパウンドケーキを作っているようだった。
おっかなびっくりに作る柊と、着々と作る康陽。
しばらくするとケーキは焼き上がった。
「よしできたか」
オーブンから取り出して冷ますと、康陽は切り始め、一切れ口にした。
「うん、これなら大丈夫だろう」
そう言って四つあった内の二つを柊に渡す。
「持って行け」
「わかった、ありがとう」
柊は籠の中にパウンドケーキを入れて、部屋を後にした。
「さて、少しはマシな会話をしてくれることを願うぞ」
康陽はそう言って後片付けを開始した。
「……フエ」
柊はテーブルで紅茶を飲みながらフエの帰還を待った。
「ただいまー!」
「フエ!」
部屋の扉が開き、フエが入って来た。
柊は駆け寄り抱きつく。
「おおう⁈」
「良かった無事で……」
「大丈夫に決まってるじゃん、私最強の邪神よ? 異形の子よ?」
「君は君だ」
「もう、そういう柊さん大好き!」
フエは抱きつき返した。
「あら、甘い香りが……」
「こ、康陽とパウンドケーキを作ったんだ。プレーンとレーズンの」
「あら、康陽さんと」
「蓮の為に作るって言ってたから、私もフエの為に作りたくて……」
「柊さん、ありがと、一緒に食べよう?」
「うん」
フエは紅茶を新しく入れ、二人でパウンドケーキを食べ始めた。
「ど、どうかな?」
「うん、しっとりとしてて甘くて美味しい」
「ほ、本当か? よ、良かったぁ」
柊は安堵のため息を零す。
「料理は私がしてたもんね、いつも」
「うん」
「康陽さんの手伝いがあったから、上手にできてるね」
「こ、今度は一人で作れるようになりたい」
「あら、康陽さんに焼き餅?」
そう言うと柊は少しむくれた。
「だって……」
「康陽さんを頼って良いのよ、彼は蓮の番いだからね、精神的にも自立してるから」
「……フエは康陽がいいのか?」
「何でそんな話になるの⁈ 私にとって一番は柊さんよ!」
「ほ、本当か?」
「本当本当!」
「『花嫁』は?」
「……別次元ということで」
「浮気者ー!」
「どうしてこうなるのー⁈」
その後なんとかフエは柊を宥め、再びパウンドケーキを口にし始めた。
幸せそうな柊を見て、フエも穏やかに微笑んだ──
康陽と柊が、蓮とフエ、二人を思って作るケーキ。
きっと美味しいでしょう。
ケーキを食べてる途中で喧嘩? しちゃうのはフエと柊の関係上仕方ないですが。
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