悪夢~そして日常へ~
フエは見た、荒廃する世界の夢を。
そしてその夢で愛しい者が消えるのを見て目覚めたフエは──
フエは夢を見た。
何もかもが無くなる夢を。
荒廃した地平が何処までも続き、果てが見えない。
それでも誰かいるんじゃないかと思って走り続け、零の姿を視認する。
声をかけようと手を伸ばすと、陶器人形のようにヒビが入って壊れて、地面に落ちて塵になった。
怖くなって、また駆けだした。
すると、柊がいた。
駆け寄ると──
首がずるっと落ちてそのまま地面へと落ちた──
「──‼」
フエは目を覚ました。
悪夢から目を覚ます。
「……フエ?」
飛び起きたフエの様子に起きた柊。
そんな柊を見ると、フエは柊に抱きついた。
「フエ?」
「……柊さんが生きてる」
「私は生きてるよ、君と生きると約束したんだ」
「うん、うん」
フエは柊の心臓の鼓動に耳を澄ませる。
ドクドクと鳴る音に、少しずつ心の不安が消えていった。
その体の温もりにも──
「──で、フエが抱きついてベッドから起きられないんだが?」
フエは寝起きの零に抱き倒していた。
「お前が消える夢を見たそうだ、しばらくそうしてやってくれ」
紅が疲れたように言う。
「悪夢でも見たのか?」
「その通りだ、内容の詳細は語らなかったがな」
「とりあえず私は消えたと」
「どういう風に消えたかは知らないが、消えたらしい」
「他の者達は?」
「知らん。語ろうとしない」
紅ははぁとため息を出した。
「しばらくはこのままか」
「零さんだー、消えてないー」
「さっきからこればっかりだな」
「そろそろげんなりしてきたのだが」
「フエ、そろそろ離れなさい」
「や!」
紅は額に手を当てた。
あきれかえっているようだった。
「いい加減にしないと、柊にいいつけるぞ」
「むぅ……」
漸く零は開放された。
起き上がり、服を着替える。
「ほれ、飯だ」
「すまんな」
そう言って零は荒井の作った朝食を口にする。
食事が終わると、荒井は食器を洗い、片付け、エプロンを外して、コートを羽織る。
零もコートを羽織り、一階に向かう。
「あ、所長遅かったですね」
「ちょっとな、今日もいつも通り、一般人は高嶺と伊賀、異形関係は私、荒井、レオン、ニルスの四人で対応、以上!」
「「「了解!」」」
「おぅ」
「勿論だとも、所長殿」
くつくつと笑うニルスを荒井とレオンが睨み付けると、ニルスは肩をすくめた。
「余計な争い事はするな」
「ああ」
「分かりました」
「勿論だとも」
そして今日も、探偵事務所の扉は開かれる──
フエは異形の子で、何も恐れてないように見えますが恐れるものはあります。
大事な家族が死ぬ事、消えること、それが彼女は怖いのです。
誰にも言いませんが。
紅はなんとなく察している感じです。
ここまで読んでくださり有り難うございました。
次回も読んでくださると嬉しいです。