哀れな二人~マヨイと隼斗~
諸事情でマヨイの手助けが必要だった時、隼斗がマヨイに行かないでほしいと懇願していた。
その隼斗を引っぺがしクラルはマヨイに行くように言うと──
「マヨイ、行かないでくれ……!」
「う、ごめんなさい、いかないと」
「行かないでくれ……!」
隼斗がマヨイにすがりついていた。
それを見ていたクラルがマヨイから隼斗を引き離し。
「マヨイゴー」
「うん、ゴー!」
「マヨイぃいい‼」
マヨイは床に潜るように姿を消した。
隼斗はへたり込む。
「ところで、マヨイは何の用だったんだ?」
「知らずに引き離したんすか? 異形案件で負傷者というかちょっとアレなのが多数いてマヨイがいないと困るってフエが」
ロナクが説明すると、クラルは頷いた。
「お前はお前の我が儘で大勢の人間の命を見捨てるところだったんだぞ」
「……」
「それで、対異形組織の長だったとは笑わせる」
「‼」
クラルの言葉に、隼斗の顔色が悪くなる。
「貴様がそんな性根だから多くの職員が犠牲になったとは思わんのか?」
「ちが、ちがう……」
「なら、何故マヨイの仕事の邪魔をする。あの子の仕事は人の命を異形から救うもの
異形から人を守るもの、何故邪魔をする」
「……」
「答えられない程、壊れたか、あるいは現実逃避か、どちらにせよ良くない傾向だ」
クラルは手を隼斗の頭部へと伸ばした。
「あークラル、精神にちょっかい出さない方がいいぜ、マヨイが怒る」
「そうか、仕方あるまい」
クラルは手を引っ込めてその場を立ち去った。
「おにーちゃん、おはなしってなに?」
帰って来たマヨイをクラルは呼び出した。
「苦労していないか?」
「くろう?」
「お前はあの男──隼斗についてだ」
「うん、たいへんだよ、すぐなくし、マヨイがいなくなるといつもよりよけいにふあんていになっちゃうし」
「……本当に番いでよかったのか」
「それはこうかいしてないよ」
クラルの問いかけにマヨイはきっぱりと言い切った。
「マヨイはあたまよくないけど、それでもこうかいはしてないよ」
「いや、お前は聡い子だよ」
クラルはマヨイの頭を愛おしげに撫でる。
「おにちゃんは、隼斗さんのこと嫌い?」
「はっきり言って好かんな」
「なんで?」
クラルは頭を撫でるのを辞めて、腕を組んで答える。
「理解しようとしない現状を」
「げんじつとーひ?」
「そうだ、奴は現実から目を背け続けている」
「でも、しかたないよ、あんなことがあったんだもん」
「それでも前を見据えるのが人だ」
「……」
「康陽だったか? あの男を見てみろ、全て見据えた上で受け入れた上で蓮の番いになったと聞いた」
「うん! 康陽さんはりかいしてくれるよ!」
「だがあの男にはそれがない」
「……」
「覚悟もなく、ただお前が見捨てられなかっただけで番いになったと聞いた、本当にそれでよかったのか?」
「うん、いいの」
「何故?」
「……隼斗さんをこわしたのはマヨイがわるいんだもん、ようりょうわるくて、なかまをしなせちゃった」
「それはお前の所為ではない」
「ううん、マヨイのせい」
「マヨイ……」
クラルはそっとマヨイを抱き寄せた。
「お前が重荷を負う必要はないのだ」
「……ありがとう、おにいちゃん」
マヨイは離れた。
「もうもどらなきゃ、隼斗さんがまっている」
「そうか……」
マヨイはその場から立ち去った。
「哀れな二人か……」
クラルはぽつりと呟いた──
隼斗は前をもう向けなくなっているんですね、二度も大切なものが壊されたから。
二度目のを防げなかったことをマヨイは重荷に思っていて、隼斗を大切にしたいと思っているのがマヨイです。
クラルからすれば、哀れとしかいいようがない訳です。
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