残る不安~慎次が抱えるもの~
異形に取り込まれている人々を救出するべく力を行使する慎次。
無事取り込まれた人々を救出し安堵する──
「かなり数が多いな」
「俺がやる」
無数の目玉のと手を持つ異形がいる場所に、零と荒井、ニルスにレオンがいた。
荒井が一歩前に出ると、目玉より多くの数を持つ、黒い影の手が地面から現れ、引きずり込み始めた。
異形は耳障りな悲鳴を上げて、引きずり込まれまいと抵抗するが、全て引きずり込まれた。
影の手がもぞもぞとうごめき、ドーム状を形成すると、消えた。
そこから十数名の人達が現れた。
「あら、私何をしてたのかしら」
「ヤバい会社に遅れる!」
「パパ、ママ、どこー?」
その様を見て荒井は疲れたように息を吐いた。
「うん、17人。ちょうどだ、居なくなった人数とぴったりだ。荒井良くやってくれた」
「なんとか、な」
「警察には連絡を通して起きました」
「レオン助かる」
「一応異形対策機関にも連絡しておいたとも」
「……どう連絡したかがきになるな」
「普通に連絡しましたよ」
ニルスが肩をすくめて言うと、レオンがふぅと息を吐いて補足した。
「大丈夫です、聞いていましたから」
「そうか、なら良かった」
「信頼がないですなぁ」
「お前が信頼されていると思えるのか」
レオンがそう言うとニルスは肩をすくめた。
探偵事務所の自室に戻ると、零はソファーに座った。
「疲れた……」
「仕方ないな、何か食うか」
「甘い物が食べたい」
「ホットケーキでいいか?」
「うん」
荒井はホットケーキミックスの袋を取り出し調理を開始する。
ホットケーキを焼いていると──
「うー」
「ほっとけーき?」
「けーき、けーき」
「お前ら……」
エルとりら、マヨイがいつの間にかやって来ていた。
「もう少し焼かないとな」
「う!」
マヨイは瓶を取り出した。
「メープルシロップに、イチゴジャムか」
「うー!」
「マヨイはイチゴジャムか」
「わたしめーぷる!」
「わたしはいちご」
「分かった分かった。零、お前は?」
「メープル」
「分かった」
荒井はホットケーキをどんどん焼いていき、段重ねにしたものにメープル、イチゴジャムを乗せてやった。
「ほらたべな」
と、それぞれの目の前に置いていく。
「うー♩」
「おいしいー♩」
「おいしい!」
「うむ、美味いな……」
「それは良かった」
荒井は疲れたような息を吐いた。
「どうした、荒井」
「いや、何でも無い」
荒井はそう言って姿を消した。
「慎次、上出来じゃない、取り込まれた人全員救出なんて」
「ああ、俺もできたのが驚きだ」
住処に戻り、慎次はフエと話していた。
フエはにっこりと笑う。
「だから言ったでしょう、零さんが側にいれば安心だって」
「ああ……」
「なに、やっぱりまだ不満?」
「当然だ」
疲れたため息をつく慎次にフエは言う。
「あんまりため息をつくと幸せが逃げていくよ」
「……善処する」
フエの言葉に、慎次は疲れたように笑った──
力の暴走の過去が慎次を不安にさせていますが、「花嫁」である零が居れば平気とフエは言い切っています。
実際そうなので、零に全てがかかっていると言えます。
責任重大ですね、零は。
ここまで読んでくださり有り難うございました。
次回も読んでくださると嬉しいです。