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7話:聖遺物


「見よ、これが愛の神龍クピドの爪だ!」

院長に連れられて、マリカと共に聖遺物を安置する宝物庫に訪れていた。

綺羅びやかな箱に入れられた巨大な爪を見せびらかされている。

「愛を司るドラゴン故に、爪先は丸くなっている」

「誰かがヤスリで削ったのでは?」

つい私は余計なことを言ってしまうのである。

「違う! これは愛の神龍クピドが自ら削ったのだ!」

「何故ですか?」

「それは愛ゆえに、鋭い爪では優しく触れても傷をつけてしまうからだ」

「なるほど……」

私が納得したフリすると、院長は満足したように頷く。

そんな私たちの様子を、マリカはニコニコと眺めていた。ほんとに自分で削ったの?

「さぁ、爪取れた事無いから……」

じゃあ何の爪だよこれ。聖遺物こんなんばっかりだったりしないだろうな。

「こういった霊験あらたかなる聖遺物を崇める者は、守られ浄められ癒やされるのである」

「はあ……」

「残念ながら、クピドの遺体は殆どが散逸してしまった。この修道院に残ったのはこの爪と、クピドの聖なる力を込めて作られた装飾品のみ」

そう言って、今度は二つの指輪を見せてくる。確かに何か不思議な力が宿っているような気がした。

「この一対の指輪で結ばれた者は、永遠の愛と命を手にするとされているのだ」

「本当だったら凄いですね」

「本当に決まっているだろう!」

マリカさん、これはどうなんですか。

「これは本物」

ああ、でしょうな……って本物!?マジで!?

「院長、これは大事に大事に保管しておいてくださいね」

「え、うん、なんだ気味が悪いな」

院長が次に取り出したのは錆びた剣である。

「これはクピドに止めを刺したとされている聖剣である」

捨てろそんなの!うちにあったらダメなやつだろ!

「クピドの血で錆びているのだ、血錆にさえも神聖な力が宿っている」

「そうなんですか……」

これはマリカ的にはアウトなんじゃないのか……?

「んー……43点!」

な、何が?


◇ ◆ ◇ ◆ ◇


どうやら院長は新しく修道院に入ったマリカに聖遺物を見せたかったようである。

無事目標を達成できてご満悦顔だ。

「マリカよ、そなたも修行を積んで立派な信徒になるのだよ」

信徒っていうか主神そのものなんだけどね。どうやら私以外には打ち明けていないようである。

「しかし院長、聖遺物を溜め込んで一体何の意味があるのでしょうか」

お墓でも作るわけでもないだろうに。

「よくぞ聞いてくれた審問官アーデルヘイト。より多くより高貴な聖遺物があることにより、奇蹟が多く起こり、修道院の名声が高まり栄えるというわけだ」

めちゃくちゃ世俗的なのだわ。

「名声が増えると巡礼者も増え、巡礼者が増えると寄進も増えるのである!」

金金金、聖職者として恥ずかしくないのかっ!というか、そんな事言ってたらマリカ怒るんじゃ……。

「なるほど、流石院長!私、この修道院に入ってよかったです!」

「だろ?」

うわっはっはと意気投合する二人。愛のドラゴンとはいえ、それはそれとしてお金が大好きなのであった。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇


「それで、新しい聖遺物を探すのですか?」

「んー……」

院長はマリカと二人で調子に乗って無茶振りをしてきたのである。新たな聖遺物を持って来いと。

そこで、修道騎士である銀の仮面のルーナに相談を持ちかけた。

「クピドや聖者たちの遺体の一部か、ゆかりの品々……他の修道院から盗むしかないでしょうね」

「盗むったって、犯罪でしょうが」

「盗まれるということは、大して大事に扱ってなかったってことですし、聖なる力を持つ物品が何の抵抗もしないのなら、それはクピドの思し召しではありませんか?」

こ、怖い!そんなスラスラと正当化の文句が出てくるとは!仮面で表情が見えないのでなおさら怖い!

「半分は冗談ですけど」

「冗談かい!……半分かい!」

「こういう神聖盗掠はよくあることですからね」

よくあってもらっても困るな……というか盗みはしたくない。なんかそれって、愛の信徒として失格なような。

「略奪愛という言葉もありますが」

「姦通と言うのよそれは」

「身も蓋もない、恋愛小説読んでるんじゃないですか?」

「純愛以外は読まないわ」

「そういえば、政略結婚での婚約者以外を好きになったら、これは純愛なんでしょうか?」

「難しい話ね……法的には不倫だけど、家が決めた結婚だから、感情的には……って何の話よこれ」

「愛の信徒らしく愛について語らいましょうよ」

すっかり話は関係ないところへと行ってしまった。

とはいえまあ、院長も明日には忘れているだろうから、気長に考えようかな……どっかその辺に落ちていたらいいのに。


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