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6話:寄付とワイン


「街に行こう、審問官」

修道院一のイケメン、バルトロ修道士のお誘いだ。茶色の長髪に整った顔、道を歩けば誰もが振り向く男。

「え? 街に?」

「そうだ。どうせ暇だろ」

どいつもこいつも二言目にはどうせ暇だろ、だ!これを言われてかつて暇じゃなかったことが一度もない。

「街の市民からの寄進を募りに行こう。修道院に金がないわけじゃないが、やはり街の経済と結びつかないとな」

「……ああ、そういうこと」

つまりは、街の人からお布施を集めようということらしい。そういえば以前、そんなことを言っていた気がする。

「でも、そんな簡単に集まるものかな」

「いや、簡単ではない。だからこうしてお前を連れていくわけだ。美人がいた方が集まりがいいだろ」

んもー、バルトロったら、口が上手いんだから。しょうがないわね~~~!


◇ ◆ ◇ ◆ ◇


それで今、大量のワインを運ばされている。

「やっぱり訓練しているやつは違うな!」

男連中が情けないだけだろう、修道騎士にでも頼めばいいのに。

「彼らは忙しいし、力持ちで暇なやつは君しかいない」

まったく、都合のいいことを言ってくれるわ。

酒樽を荷車に載せると、ようやく馬にバトンタッチだ。

この修道院には馬小屋がある。馬は全部で四頭いて、どれも雌だった。

彼女たちは私を見ると、一斉にヒヒンと嘶いた。私はそれが可愛くて仕方ない。みんなとても可愛いのだ。

馬は大好きだ、何が好きって、荷物を代わりに運んでくれるところが好きである。

さて、準備は終わった。いよいよ出発なのだわ。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇


ワインを市民に配る代わりに寄付を募る。これはバルトロの案であった、しかし実際にやってみて驚いたことがある。

私が思っていた以上に寄付が集まることだ。やはり私の容姿が良いからだよねぇ~。

いかにも純粋な乙女って感じの顔で立っていると、老若男女問わず、いろんな酒飲みが寄ってきてはお布施を置いていくのである。

お金はもちろんのこと、時には食べ物まで置いていってくれる人もいる。本当にありがたいことである。

「バルトロさんっ……また来てくださいね!」

「もちろんだよ。怪我は治ったみたいでよかった!」

「おいバルトロ!今度飲みに行かねえか!」

「ぜひ行きましょう!また困った事があれば言ってくださいね!

「いつも助かってますよバルトロさん」

「私は大したことはしてませんよ、配達ぐらいいつでもまた頼んでください」

私の美貌、いらなくない?もっと私もチヤホヤしてくれ!

顔もいいのに心まで良いのでは勝ち目がない。私はあまり街に出ないし。

そんな事を思っていたらばなんというか、冴えない男ばかりが口説き文句を垂れる。悪い気はしないがいい気もしない。

「ねえ、今からお茶でもどう?」

「一緒にお茶行きませんかぁ」

「ねえ彼女、いいお茶があるんだけど!」

「お茶ばっかりじゃないの!」

茶葉の営業なのかしら。

「まあまあ。別にモテたいわけじゃないだろ」

「そりゃそうだけど。でもチヤホヤはされたいじゃない?」

「意外としょーもないことを考えるんだな……」

「ほっときなさい!」

お茶のお誘いは職務中だし丁重にお断りした。

それでもしつこく食い下がってくるやつもいたけど、それは適当にあしらった。殴るなどして。

きっと主神クピドもお許しになられるだろう。顎に入ったけど。

そんな調子でしばらく街中を練り歩き、修道院に戻った頃には夕方になっていた。

結局、集まった金額は全部で金貨3枚弱分ぐらいであった、十分黒字である。

「お布施に黒も赤もない」

とはバルトロ修道士の言葉であるが、それはその通りであろう。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇


翌日のことである。朝から大忙しだ。

というのも、昨日ワインを飲んだ商人が是非とも修道院から仕入れたいと言ってきたのだ。しかも大量に欲しいとのことだ。

「そんな、売るほどは作っていませんので……」

院長がやんわり断ろうとすると、商人は言った。

「しかし東方ではここのワインが流通しているという話がありますが」

先日の星霜宗との取引について言っているのだろう。そこまでバレてちゃなんと言おうか。

「バルトロ修道士、君のせいだぞ!」

「申し訳ありません院長!」

とりあえず謝るバルトロであったが、彼も悪いと思っているのか、若干申し訳なさそうな顔をしている。

「とにかく!神聖な修道院から出ていってください!ここは商売をする場所ではない!」

なんとか無理矢理商人を追い出した後、私たちは相談を始めた。

「どうしよう、アーデルヘイト審問官!」

バルトロは私に泣きつく。知るか!

「バルトロ修道士、全く面倒なことをやってくれたな」

お前も星霜宗と取引しなかったらよかったけどな。

「しかし院長、私はあなたにも許可を取りましたよ!?」

「ぐぬっ、むむぅ……」

ワインを振る舞うこと自体は慈善事業としてもよかったようだが、如何せんワインが結構美味しかったものでこうなってしまった。

私はああじゃないこうじゃないと言い争う二人を他所に、部屋へと戻ることにした。

結局商人が諦めるまで、半月ほどかかったそうな。


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