33話:闘技大会 その5
ルーナの目配せの意味もわからず、拘束された状態で寝転んでいるとルーナに抱え上げられる。
「ちょっと、どういうこと、ルーナ!?」
ミカがこちらに突撃してくる。
「アーデルヘイトシールド!」
「うそでしょ!?」
ルーナは私を盾にした!何考えてんのこの子!?
「私達、友達でしょ!?痛いことはやめて!」
向かってくるミカに必死に懇願する私。我ながら情けない姿だ。
「大丈夫!殺しはしないから!」
そんな物騒なことを言いながら、容赦なく木製の月鎌を振るう。
当然のように、私の腹に衝撃が走った。
「ぐがっっ……!」
「やっぱりダメでしたか」
ルーナは残念そうに呟くと、私を放り投げた。地面に激突した衝撃で、胃液が口から溢れる。
「ごほっ……!げほ……!」
「そりゃそーだよ」
ルーナ、あとで、泣かす……と、ふと拘束が外れていることに気がついた。
おそらく私を盾にしている間になんとかしたのだろうが、盾にする必要あった?
「ひ、光の剣よいでよ!」
すかさず詠唱を行い、光の剣を召喚する。
そのまま、地面を蹴り、ミカに向かって突進する。
「え?」
予想外の出来事だったのか、一瞬呆けるミカ。しかし、すぐに我を取り戻し、応戦する。
「ぴょ、ぴょぉーん!」
光の剣は付呪の施されていない武器では防ぐことはできない、彼女はひらりと身を躱す。
しかし、後ろにはルーナが回り込んでいた。
「ぴょんっ!?」
そして、回し蹴りをお見舞いする。
「うぐっ!」
綺麗に決まり、吹き飛ぶミカ。だが、すぐさま受け身を取り、体勢を立て直す。
私も、彼女の追撃に備え、構えを取る。
「そうこなくてはね……!」
そう言って、再び突っ込んでくる彼女。今度は先ほどとは違い、かなり速い。
ルーナはそれを迎え撃つように、剣を振るった。
カァーンと木のぶつかる音が響く。
その隙を狙って、私は死角から斬りかかる。
「っ!」
完全に不意を突いた一撃だったが、間一髪、回避されてしまう。
どうやら、彼女も本気のようだ。
そこからは、お互い一進一退の攻防が続いた。
ミカは、まるで獣のように俊敏な動きで翻弄し、鋭い攻撃を放ってくる。
対して、ルーナは冷静に対処しつつ、的確に相手の隙を突く。
時折、私が加勢するも、二人に割って入るのは厳しいものであった。
だが私の手が空いたということでもある。となると、私のやるべきことは一つだ。
「光の軛よ!」
準備を整えたあと、拘束魔法を唱える。対象は当然、ミカだ。
しかし、それに気づいた彼女はニヤリと笑うと、一気に距離を詰めてきた。
「なっ!?」
驚く間もなく、蹴り飛ばされた。吹き飛ばされた先には、ルーナがいた。
「わあっ!?」
彼女を巻き込んでしまい、二人はもつれるように倒れ込む。
その際、ルーナの持っていた剣が手から離れ、カランと音を立てて転がった。
「いっちょあがりっと!」
勝ち誇った笑みを浮かべるミカ。しかし、観客はざわめいている。
「拘束魔法は囮だぜ」
ミカの後ろにはギヨームが木剣を振り下ろしていた。
「きゃっ!」
直撃こそ避けたものの、背中を強打され、悲鳴をあげるミカ。
さらに、そこへ追い打ちをかけるように、ミカの足元から蔦が伸びてきて、彼女の四肢に絡みつく。
「うわーん!放してー!」
セヴェロの魔術だ。暴れるも、がっちりと固定されており身動きが取れなくなった。
「よっぽど戦いが好きなんだな」
「うん、そーだよ!って、どうして起き上がってるの!」
拘束され倒れていたはずのギヨームとセヴェロが立っていたことに驚きを隠せないミカ。
「ルーナとの打ち合いに夢中になってたお前が悪い」
「あーん!いつもそうなのよー!」
「降参しとけ、動けないやつをしばく趣味はない」
「んもー……悔しいけど、打開出来るとも思えないしねっ」
そう言うと、彼女は両手を挙げて、降参の意を示した。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
控室に戻ると、ホクホク顔の院長が出迎えてくれた。
「よくぞやってくれた!我が修道院の誇りだ!」
「ええ、どうも……」
体の節々が痛むが、何とか笑顔を取り繕う。
「あのミカという娘はなかなかの手練れだっただろう?」
「そうですね、かなり苦戦しましたよ」
ルーナが答えると、院長はニンマリとした顔で言った。
「そうだろう、そうだろう!なんと、とんでもない払い戻しだったからな!」
賭けの話か。そういえば、私達が勝つ方に全財産賭けたと言っていた。
文字通り命懸けだったってわけなのだわ。いや全部賭けるな。
しかし、これにて一件落着だ。とっとと巡礼に戻ろう。これ以上の試合はしたくない。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
控室を出ると、ミカとハッカペルが待っていた。
「ぜひ!あたしも連れてって!」
両手を合わせて懇願するミカを見て、私はため息をついた。
どうやら、まだ波乱は続きそうだ。
「ルーナ!いやルーナお姉様!」
「え!?お姉様って……」
どうやら激しい打ち合いをしたルーナに懐いてしまったようである。
少しだけ迷惑そうな顔をしつつも嬉しそうにしている彼女を見ていると、なんだか微笑ましく思えてくるのだった。
「えーっと、改宗ということですか?」
「うん!それでいいよ!」
「ではクピド派の教えをしっかりと守ると誓うのであれば」
「誓いまーす!」
軽っ。さて、新たな旅の仲間を加えることになり、これにてすべて解決した。
「私の聖なる酒瓶!」
ミードがおお喜びで瓶を抱えている。対してハッカペルは大きなため息をついていた。
「返すからもう二度と来るな」
「さあてね。放蕩あるところにミードありだから」
「次来たら殺す」
「は、はい、二度と来ません……」
物騒な会話の後、私達は街の宿へと向かった。
結局、例の酒瓶はマリカが奪い取り、ミードには手切れ金を渡して、酒場に放逐した。
なんかまた会いましょうみたいなことを言っていたが、多分また会うときもトラブルを抱えていそうで嫌である。




