31話:闘技大会 その3
「光よ!巨大な刃となれ!」
私が剣を掲げて呪文を唱えると、木の両手剣が輝き、光の刃が天に伸びる。大木ほどの長さはあるだろう。
私達は一気に畳み掛ける事にしたのである。
「みんな下がって、ぶった切るわ!」
「了解です!」
「やっちまえ!」
ルーナ達は即座に後退した。
「おもしろい、受けて立つ!」
相手のステラは吼え、それを受け止めるつもりのようだ。
「くらいなさいっ!!」
そして私はその巨剣を横振りに薙……げない!
瞬きする間にステラは目の前に飛び込んできていた!
「光の刃は実体がないから防げないけど、根元の木剣なら防げる」
彼女は私の両手剣を手で押さえていた!
回避して体勢が崩れたところをみんなが狙う作戦であったが、これではどうしようもない。
ドロレスもアリーチェも万全の姿勢である。
「へ、へぇ、やるじゃない……」
強がってはみたものの、どうすればいいのやら。
肉体的には遥かに初恋ガールズのほうが上だ。なにせ冒険者や傭兵のチームだし……。
とそこで、はて、初恋……と思いついたことを口にした。
「初恋ガールズなら、初恋の話聞きたくない?」
「今は戦闘中だけど、聞かせて……♪」
急にキラキラした表情になった。よし、これで時間を稼げる。
「そうね、私は宿屋に生まれたんだけど、どこから話そうかしら」
語らねばなるまい……。いや別に語らなくてもいいんだけど。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
幼馴染の父親が、裸で私の前にいる。
「ふへへ、俺が最初の男になるんだぜ。優しくしてやるからな」
9歳になる直前ぐらいの記憶だ。母親に服を脱がされて、この部屋に押し込まれた。
最近、経営する宿屋にお金が無いのはわかっていた。自分の父ももう何年も戦場から帰ってこない。
この店が潰れてしまえば、父の帰る場所は無くなってしまう。
だから、私は笑顔で、母に言われた通りに……。
「よ、よろしく、お願いします……」
憎からず想っていた幼馴染の、その父親に体を売った。
痛くて苦しくてどうしようもなかったが、必死に喘いでる振りをして、気持ちいい気持ちいいと泣きながら叫んでいた。
母は助けてはくれなかった。それどころか、新しい客をどんどん連れてきた。
暴力も振るわれた、不浄の穴さえも犯され、尿や精液も何度も飲まされた。
抵抗しても仕方がないので、ふた月ほど経てば自分からやるようになっていった。
宿屋は大きくなり、食事も贅沢になった、この生活で唯一嬉しいことであった。
ただもう、自分の体に愛着はなかった、ただ男を喜ばせるためだけの存在だと自分で思っていた。
12歳の頃には、村のほぼ全員の男と寝ていたし、何人の男と寝たかなんて数えることは出来なくなっていた。
そんな暮らしが続いたある日、初恋の相手、幼馴染の男の子、ニックが客としてやってきた。
同年代以上の男で唯一、私と寝ていない男。もう私のことなんか好きじゃないと思っていた。
だから、好きな人と結ばれるのがたまらなく嬉しかった。私は初めて仕事が楽しみだと思った。
でも彼は私に手を出さなかった、そしてその表情は終始暗いままであった。
「どうしたの?したくないの?気持ちよくなろうよ」
「なんで、そんなに平然としてられるんだ。君の置かれている状況がおかしいって、子供の俺でもわかるよ」
「そんなの……でも、これが私の仕事なの、仕方ないよ」
「仕方ないだけでなんで君ばかり酷い目に遭わないといけないんだよ……なんでこんな事になる前に相談してくれなかったんだ」
「それは……だって……だって……」
「……嫌なこと言ってごめん」
そう言うと、彼は私を抱きしめた。暖かくて心地よかった。ずっとこのままでいたかった。
「君はこの村にいるべきじゃない」
「……でも、お父さんが帰ってくるかも」
私はその時もまだ、戦場に行った父の事を、忘れられないでいた。彼の口から次に発せられる言葉がなんとなく予想できた。聞きたくなかった。
「君のお父さんはもういないかもしれない」
その言葉を聞いた瞬間、世界が真っ暗になった気がした。足元が崩れていくような絶望感だった。
「なんでそんな事言うの!!」
気がつくと、彼を突き飛ばしていた。
「じゃあ……何のために私はこんな酷い目に遭ってたの!?帰ってこないって知ってたら最初から……」
涙が溢れてきた。彼に泣き顔など見せたくないと思ったが止まらなかった。
「違う、そんなつもりで言ったんじゃない!」
彼も泣きそうな顔をしていた。そんな顔を見たかったわけじゃないのに。
「違わないじゃない!全部、無駄だったんだよ!私が今までしてきたことも、今こうしてるのもね!」
「違う、冷静に……」
頭に血が上っていた、だから言ってはいけない言葉を言ってしまった。
「いなくなったのはお父さんじゃなくてあんただったらよかったのに!!」
その瞬間、彼の顔が歪んだのがわかった。それでも、彼は目を逸らさずに言った。
「……君は、村を出るべきだ。君を助ける、算段はつけてきた」
彼は私に手を差し伸べてくれた。その目は真剣そのもので、とても嘘をついているようには見えなかった。
私はその手を取りたい衝動に駆られたが、彼の父の面影がちらつき、どうしても信じられなかった。
「嘘だよ、信じられないよ。私を騙そうとしているんでしょ」
「本当だよ、俺は君に幸せになって欲しい。そのために、ここまで準備したんだから」
「なんで、そこまでしてくれるの?」
「君のことが好きだからさ」
彼は照れもせず、真っ直ぐに私を見つめてそう言った。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「重すぎるわよ!!!」
ステラは地面にぶっ倒れた。
「やばい、吐きそう」
「それ、それ、ホントの話じゃないよね!?創作よね!?創作って言って!」
いつの間にやらドロレスとアリーチェも聞いていたようだ。
「まあ、多少は脚色と記憶の混濁があるかもしれないけど」
「オエェーーーッ!!」
うわぁ、ドロレスが粗相を!
「もうね、のっけからね、過酷なのよね」
「私達なんてまだまだ恵まれている方ね……」
三人ともとてつもなく気分が沈んでしまっているようだ。
最後に助かるパターンは珍しいかもしれないが、似たような話はそれなりに耳にする……と思うんだけど。
「まあ、我が子を奴隷商人に売る親もいますからね」
ルーナはそう言いながら、三人の後頭部を木の剣で思いっきりぶっ叩いた。
容赦のない一撃である。三人はそのまま気絶してしまった。
『よくわかりませんが、初恋ガールズ戦闘不能!勝者はチームともだちです!』
司会の声と共に、歓声が上がった。
観客達は何がなんだかわからないといった様子であったが、とりあえず盛り上がっているので良しとしよう。
試合が終わると同時に、ルーナ達が駆け寄ってきた。
そして黙って私を抱きしめる。セヴェロも、ギヨームも。
「別に、もう大丈夫よ」
「いえ、私たちがこうしたいだけですから」
「そう……ありがとってぐるしい!!ギヨーム!!」
「あ、すまん、つい力が入ってしまった」
 




