29話:闘技大会 その1
キョーコの話を聞いたのか、リリはカンカンに怒っていた。
「大罪を犯したにも関わらず逃げ出すとは!罰当たりです!傲慢です!あの男は必ず地獄に落ちるでしょうよーーーっ!!」
「まあまあ、きっと今頃苦悩してるから……」
キョーコ以上に怒っていた。
「二人とも!悔悛なさい!あなたがたには過ぎた信仰です!クピドを信じるのです!」
聖女教徒の二人にも八つ当たりみたいなことをしている。
「信仰の押しつけはダメよ、リリ」
私が窘めると、ハッとした表情で我に返る。
「おお、クピドよお許しよ……」
「私達にも謝って欲しいなぁ」
「うん」
結局この二人は付近の村の衛兵に引き渡した。
罪状は誘拐と暴行なので、あまり良い処遇は望めないだろう。
キョーコはそれを気にしていたが、きっちりと罰を与えることを示さないことには、再び彼女を攫いにやってくるだろう。
聖女教徒との全面戦争は避けたいものだが。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「キョーコ、見てください、ダンシングゴブリンがいますよ。目が合うとダンスバトルを挑んでくるので注意してください」
「何その愉快な生き物!?」
突如現れた踊り狂うゴブリンたちにキョーコは面食らっていた。
「ああいう手合とは絶対にやり合いたくないねぇ」
修道院一のインドア派、パメラは目を合わせないように別の方向を向いていた……が。
「ギャッ!ギャッ!ダンスバトル!ダンスバトル!」
「う、うわああぁぁぁ!!」
その別の方角にいたダンシングゴブリンと目が合ってしまったようだ。
しかし、あまりにも下手くそな踊りを披露してしまったために、逆に憐憫の情を抱かれて見逃された。
「ダンス下手でも生きてる価値ある」
「お可哀そうに」
「うぅぅ……」
なんか変な雰囲気になってしまったようで、ダンシングゴブリンたちは気落ちして立ち去っていった。
そんな感じで森の中を巡礼団は進む。どんな感じだよ。
獰猛な魔物に襲われることもあったが、護衛の騎士たちが難なく撃退していた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
巡礼団は日が傾く頃に小さな村に辿り着き、そこに滞在することになった。
宿があるような大きな村ではないので、教会を借りて寝泊まりすることになる。
「あのー、明日には出ていくんですよね?」
村長的にはあまり長居してほしくないような感じである。
「え、ええ、まあ、お祈りが済めばですね」
「あのー、うちは貧しいので食事は提供できませんけど」
「はい、問題ありません」
「あのー、接待できる若い男女もこの村には」
「場所を!貸していただくだけで結構ですので!」
全く歓迎されていない!いや、歓迎しろというのもおかしな話ではあるが。
とはいえ、我々はお祓いしたりお金を使ったり困り事の解決を図ったりするので大抵の集落で歓迎される。
「だがまあ、図々しいことは言えまいて」
にしても最近は朝晩が冷え始めてきたので、野営用のテントでは少々厳しい季節になってきた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
その晩、修道士たちは火の回りで騒いでいた。
「お酒を飲めば、心も体も暖かくなれるよ」
何やら見知らぬ、緑色の髪色のエルフの少年がいた。誰この人!?
「お兄ちゃん!?」
マリカが驚愕の声を洩らす。どうやら兄妹らしい。
「おやおや、お前もいたのかクピむぐっ!?」
彼女は、慌てて彼の口を塞いだ。
「マリカよ、お兄ちゃん、忘れたの」
「あ、ああ、そ、そうだった、マリカだった」
どうも様子がおかしいようだが、触れないでおこう。
「それで、マリカのお兄ちゃんがどうして修道士たちと一緒に酒盛りをしているの?」
私が問いかけると、自信満々に答えた。
「酒盛りに理由がいるかい?そんな話は聞いたことがないね」
確かに……。
「私はミード、放蕩と享楽のむぐぐっ!!」
またマリカに口を塞がれた。
「そ、その、ミードにあやかってミードって名付けられたエルフさ!」
「なるほど、そういうことでしたか」
修道士たちは納得する。納得できるか?みんな酒に酔っているだろうか。
「で、なんでこんなところにいるの」
「それが実は……」
ミードはポツポツと語り始めた。
彼は旅の途中でこの近くの小さな街、ブサンティオにて行われている闘技大会で賭け事をしていたところ、見事に全財産を失ってしまったのだという。
「自業自得じゃないの」
呆れた男であった。まあ放蕩の神龍と同じ名を持つのでそういうことなのだろう。
だが彼はまだなにか言いたげであった。
「ところがだよ、神龍が手を貸してるんだ!ずるいよ!それに大事な聖遺物も取られた」
「聖遺物じゃと!?」
院長が食いつく。こういうのには本当に目ざとい。
「案内してくれ!取り戻してやろう!これもクピドの思し召しだ、聖遺物は我々を選んだのだ!」
「えっと、まあ、それでもいいけど。あいつの鼻っ面をぶん殴れるなら」
それでいいのかい、ミードさん。しかし、闘技大会とは面白そうだ。
「ぜひ出ましょうよ、ね、アーデルヘイトさん!」
私も出るみたいな感じなことを言うルーナ。修道騎士は他にもいるはず。
「いやいや、アーデルヘイトさんに勝てるのはルーナとギヨームぐらいでしょう」
「そうそう。聖務もせずに訓練ばっかりしてるし」
「むぅ、それ言われると辛いのよね」
「私たちにはクピドの加護がありますし、大丈夫ですよ!」
そうは言っても気になるのが、神龍が手を貸しているという点なのだが、みんな聖遺物の事で頭がいっぱいのようである。
酒の席というのもあって、みんなすっかり闘技大会に乗り気でいたのであった。
お待たせしましたと言いたいところだけどこれ以降不定期更新でおねがいしやす!




