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24話:ユニコーン


それぞれ馬を借りて目的地へと向かう。が、キョーコは馬に乗れないようだ。

「ほら、大丈夫ッス、ちゃんと手綱を掴んで」

「う、うわ、わわわ」

彼女はマシニッサくんの後ろに一緒に乗ることに。イチャイチャしてんじゃねー!と言いたい所だけど、この二人の関係は結構いい感じなので放置しておく。

「セヴェロ、ユニコーンは見たことがある?」

彼は神妙な面持ちで首を横に振る。

「そう……あの絵の通り、角の生えた馬なのかしら」

挿絵や壁画などにはよく登場するが、実物を見たことがある人は少ないだろう。

私だって本の中でしか見たことがない。そもそもユニコーンってどんな生き物なのかすらよく分かっていないのだ。

「あ、文献によれば、彼らは非常に警戒心が強く、滅多に人前には現れないらしいッス」

マシニッサくんが補足する。

「それから、純潔な乙女が好き、らしいんだけど」

キョーコも話に加わる。どうやら彼女もユニコーンは知っているらしい。彼女の元いた世界にも生息していたのだろう。

「……それって、処女じゃないダメってことかしら? だったら私はダメね」

「え?」

私の言葉にキョーコが反応する。

「ま、まさか恋人がいるのぉ!?隅に置けないなぁ~!」

「……まあ、そんなところ」

説明するのも面倒だし、適当に誤魔化しておくことにする。

「まあ、大丈夫ッスよきっと。アーデルヘイトさん以外はみんな純潔ッスよね?」

「そう、だね、改めて言うと恥ずかしいけど……」

セヴェロも首をブンブンと縦に振った。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇


森の中は魔物だらけであった。

「ヒィィ~~~!!」

キョーコの悲鳴が轟く。イノシシのような虫の魔物、通称イノムシを見て恐れ慄いている!

「いやぁぁ!!気持ち悪いぃ!」

「キョーコちゃん!苦しいッス!危ないッス!落ち着いて!」

マシニッサくんにしがみついて背中に顔を埋めている……。

私も正直言ってあまり得意ではない。脚だけ虫のイノシシ、というふうの姿、しかし味は美味で特に脚が美味しいらしい。

とはいえ臆病な魔物なのでこちらの様子を伺いながらカサカサ歩いているだけだ。

こちらから刺激しなければ襲ってこないはず。

私達は迂回しながら先を急ぐことにした。

しばらく進むと、急に開けた場所に出た。そこには小さな泉があり、その中央に一軒の小さな家が建っていた。

「ここ、なのかな……?」

「なんなんスかねここ」

私たちは馬を降りて辺りを見回す。すると、どこからか声がした。

「童貞二人、処女一人に混じって、くっせぇくっせぇ淫売の臭いがする……」

声の方向を見ると、いかにも馬飼いのような出で立ちの男が立っていた。

男は私達の方をじっと見つめていた。

「俺は神獣教徒のユニコーン派の司祭、純潔かそうでないかは臭いでわかる!」

「へー。その特技でやることが初対面の人達に対する侮辱?」

私はユニコーン派とやらの男を睨み返す。

「ユニコーンは神経質なのだ。汚れた人物の臭いをすぐ嗅ぎ分け、不安がる」

そう言って、司祭は鼻を摘まんで見せた。

「あの、私たちユニコーンの角を削り取りたくて、疾病退散の薬を作るためなんです」

キョーコが恐る恐る話しかける。

「疾病退散の薬、ああそうだな、それもあるから我々がユニコーンを保護している」

「じゃあ……」

「病に冒された人がいるのだろう?ついて来い、少量なら融通しよう」

よかった、ユニコーン派である前に一聖職者であったようだ。

「だがこの魔道具、『経験人数がわかる水晶』でお前たちを測らせてもらう!」

……前言撤回。やっぱりこいつはクソ野郎だ。

彼は水晶をかざすと、それを覗き見た。

「ふっ、経験人数たったの0か、ゴミめ……」

「……ッス」

純潔だったらだったでバカにしてくるのムカつくな……。

そうして、私の方に向けた瞬間、彼は腰を抜かした。

「とわっ、たひぃっ!?」

変な悲鳴を上げて尻餅をつく。

「へぇ、どんな数字が見えたの?実は私も知らないのだわ」

「い、いえ、その、ご案内します……」

何故か敬語になった彼に案内され、私達はユニコーンの住む場所へと向かった。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇


「あれがユニコーン……」

そこに居たのは、普通の馬よりも少し大きいくらいのサイズの、白い毛をした馬の魔物であった。

確かに角が生えているし、これは本物のユニコーンだろう。

「ユニコーンってこんなに可愛いんだねぇ~」

「そうッスね!」

セヴェロも嬉しそうな様子だ。私は近づけない、少し近づいただけでユニコーンが一頭が気絶してしまったのだ。

例の司祭は気絶したユニコーンの看護をしている。

「あの、アーデルヘイトさん、そんなに落ち込まないでね……?」

余程私はひどい顔をしていたらしい。キョーコが慰めてくれた。

優しい子だなぁ……。

ちなみにマシニッサくんは失神しているユニコーンに近づいて観察していた。何やってるんだろう……?

『……おい貴様、何をしに来た』

あるユニコーンが話しかけてきた。テレパシーみたいなものだろうか?

「あなたたちの角をかんなで削らせてもらえれば嬉しいのだけど」

『黙れ淫売!何故淫売が悪口か知っているか?尊厳を切り売りしているからだよ』

随分な言い草である……いや!そこまで言わなくてよくない!?

「ちょっとあなた!アーデルヘイトさんに謝ってください!」

キョーコが怒り出す。

「いやいいっていいって、別に気にしてないから」

本当に気にしていないので宥めようとする。ごめん嘘、ちょっと傷ついた。

「いいえ、謝るべきです」

意外にも彼女は頑として譲らない様子であった。嬉しい。

『ちっ……まあ、処女が言うのなら……悪かった』

意外と素直に謝ったなこいつ。まあ、ユニコーンゆえの過ちというやつだろう。私は許そう。

「草木よ!纏われ!」

だがセヴェロが許すかな!彼の呪文と同時にさっきから会話をしていたユニコーンの足元から蔦が生えてきた!そのまま絡みつき、身動きが取れないように拘束する!

『な、なんだぁ、何する!』

「目覚めろ、精神よ!」

そうして、気絶と睡眠から防ぐ魔法をそいつにかけた。なるほど、やりたいことがわかったぞ。

「ささ、頭は自分が抑えるッス!かんなでシャッとやっちゃってくださいッス!」

マシニッサくんのヘッドロックが決まる。

『ま、まさか、よりによって淫売、お前が!』

「遠慮なくやらせてもらうわよ、童貞クン」

「ぶひひぃぃぃぃぃん!!!」

ユニコーンの絶叫が森中に響き渡る。

そいつは暴れ回ってなんとかかんなから逃れようと試みるが、セヴェロの魔法のせいで全く動けていない。

私のかんな捌きに見惚れないでよね!ユニコーンの角の削り節があっという間に出来上がった。

「ふう……」

額の汗を拭う私。我ながら見事な手際だったわ……!

「お疲れ様ッス!」

「お疲れ様です、すごいですね……」

セヴェロとキョーコは労ってくれた。

そのユニコーンの角は半分ぐらい削れ、円錐を縦に割ったような形になってしまっていた。

『この夏、これ流行るんじゃ……!?』

ポジティブかよ。こうして私達はユニコーンの角の削り節を手に入れたのだった。


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