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22話:ルグヨンの街


トゥーロ・マルテの街では聖者降臨の噂で持ちきりであった。

「聖エドゥルネ様が奇跡を起こされたぞ!」

「巡礼団の少女を依代にして啓示を下さったそうだ!」

「選ばれたのは絶世の美女だったそうだ」

「そんなありがたい人、ひと目見たいものだな」

「きっと、さぞお美しいに違いない……」

街の人々は口々に噂し合い、その話題の中心である少女のことを聞きたがった。

「……ここにいるんだけどなぁ」

だが残念ながら、この目の前の野暮ったい顔の変わった装飾をつけた少女の事とは思われなかったようだ。

「みんな失礼ッス!こんなに可愛いのに!」

マシニッサくんだけは納得がいかないらしく、憤慨していた。

「あ……ありがと、マシニッサくん」

さて、騒ぎになったので早々に聖地を脱することとなった。

例の聖堂の司祭はキョーコに大いに感謝していた。やはり異世界からの来訪者には何か特別な力があるようだ。

聖女教徒たちが聖人として崇めるのも頷ける。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇


そして一行は街を出て街道に出た。今度は北へと向かう。

次の目的地はルグヨンだ。オークタニア最大の都市である。

オークは、伝承によればハイエルフから分岐した種族であるとされており、また魔法の適性が殆どないため薬学が発達している。

ただ、オークのイメージはかなり悪い。野蛮で暴力的だとされている。背が高く筋肉質で肌が緑っぽいという容貌がそれに拍車をかけているのかもしれない。

結婚式などのいくつかの血塗れな風習、戦闘時の勇猛果敢さ、部族法の厳しさ、それらもマイナスイメージを助長させているのだろう。

話してみると、個人同士では普通だ、野蛮さも人類とさほど変わりはない。

「オークの都市とはねぇ。全部木造だったりしないよねぇ?」

「ヘ、ヘイトスピーチ……」

ギヨームに窘められるパメラ。ホントそういうのよくないぞ。

「帝国時代の石造建築をそのまま使っているし、新しく建てたものもある。そして診療所が多いんだ」

西方世界中の見捨てられた病人たちがその都市に集まるのだという。

「そうなんですか、重い病気も治ったりしますかね?」

ルーナが興味を示した。

「いや、そこまで万能ではないと思う。薬だって高価だし」

「そうですかぁ……」

ちょっとしょんぼりするルーナ。銀の仮面がズーンと俯く。こえーよ。

「でも症状を軽くしたり緩和したりすることはできるかもしれないぞ。行ってみないと分からないけどな」

「そうですね!」

声を明るくさせるルーナ。銀の仮面がパッと上向く。かわい……くはない。

そうして一行はさらに旅を続けていくのだった。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇


一週間ほどの道程を経て、巡礼団はルグヨンにたどり着く。

川沿いに建設されたこの都市は、西方世界の要衝であり、事実上のオークタニアの首都である。

巨大な貿易都市で、様々な交易品や物資が集まる場所でもある。

街の中心部には龍教団の大聖堂も存在する。

「凄い人の数ですね……」

リリが圧倒されている。道を行き交う人も多いが、路肩に腰を下ろす傷痍者も多い。

「希望を持ってこの街に来ても、金がなければ教会の慈善活動を待つしかない」

苦々しい表情でギヨームが言う。

「常に膨れ上がる医療費の補填のために、苦肉の策で治療の優先権を販売し始めたんだ」

教会への寄付額によって順番を決めて、後回しになる人々が出るようにしたのだ。

最初は反感もあったが、次第に浸透していき今では当たり前の事になっているらしい。

それでも待っている人たちは多い。彼らは日々の生活すらままならないのだ。

「しょうがない事なのでしょうか……」

「ああ、どうしようもないことだ」

「……酷いです」

ルーナの言葉に答えるギヨーム。その答えを聞いて悲しげに呟くリリ。

「君たちは巡礼団だね」

不意に後ろから声をかけられた。振り返るとそこには一人のオークの男性が立っていた。

「私はルグヨン伯爵、ベルナール・ド・サン=テグジュペリ。君たちを待っていた」

「サン=テグジュペリ……あの、『星の王子』の異名を持つ……!?」

ギヨームが驚愕の表情を見せている、オークにとっては著名人のようだ。

「ルグヨン伯爵って、この街のヌシってことですよね?」

「そうだ、この方は事実上のオークタニアの元首だ!」

「え、偉い人じゃないですか……!」

驚く一同。そんな大人物に出迎えられるとは予想外であった。

「君たち巡礼団の手を借りたい。まずは私の屋敷に来てほしい」


◇ ◆ ◇ ◆ ◇


巡礼団は彼の屋敷に滞在することになった。

一切の費用を負担してくれるそうで、宿代が浮いて院長はニンマリである。

「いやあ、ありがたいですなぁ」

「同じ信仰を奉じる者同士、助け合うのは当然のことだ」

そう語る彼は紳士的な態度であったが、何か企んでいることは明白であった。

「そちらの銀の仮面の子に話があるっ」

唐突に声を上げる彼。その目は真剣そのもので、思わず気圧される一行。

ルーナをご指名のようだ。

「銀仮面の子の『呪い』についてだ!」

そう言って近づいてくる彼の眼力たるや凄まじかった。


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