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20話:ガリバルディ修道院


巡礼団はトゥーロ・マルテへの道のりの途中にある港町、二カイスに訪れていた。

西方世界で有名な保養地であり、年間を通して金持ちの観光客が多く訪れ、宝飾品の加工技術に長けた職人が集まる町でもある。

そのため、修道女たちはついついキラキラとした顔になってしまうのだ。

無論目的は観光ではないのだが、それでも目を奪われるのは仕方のないことだろう。

また海沿いの街は大抵、食糧事情が良いのである。魚介類が平気であれば。

一行はこの街の修道院に寝泊まりする。

そしてこのニカイスの修道院、ガリバルディ修道院がオシャレなのだ。

貴族や大商人など金持ちの子女出身ばかりが集められた修道院である。

彼らの実家からもたらされる寄付金は莫大な物であり、庭園は美しく、内部の装飾や絵画も豪華絢爛と言うが相応しい。

修道士たちも貴族らしい俗世間を知らないちょっと天然っぽい人が多いのだ。とても心配になる。

そのため、ニカイス地元の名士であるオーク族のガリバルディ家が実権を握っているが、この天然さに振り回されているとか。

そのガリバルディ家の次女にして末娘、マノンという女性がいる。

彼女は若くして修道院長の地位についている苦労人である。

「息災ですかな、マノン院長」

「相変わらず苦労してるわよ、おじさま」

予てより親交があったようで、彼女は我が修道院の院長のことをおじさまと呼ぶ。

「先日も、修道士の一人が変な商人に騙されて、パンの仕入れ価格が三倍になるところだったわ」

「それは……災難でしたな……」

「もう慣れたけどね……宿坊は好きに使って。しっかり休んでいってね」


◇ ◆ ◇ ◆ ◇


宿坊の方もさながら高級旅館のような佇まいであった。

内装は華やかで、調度品なども高価なものなのだろう。

みんな大喜びであったが、キョーコの喜びっぷりは尋常ではなかった。

「ふぉぉぉぉぉ!凄いですよ!こんな豪華な部屋!シャンデリア!絵画!窓から外は街を一望!」

「落ち着きなさいよ」

はしゃぐ彼女を諫めつつ、自分も内心浮かれていた。

話には聞いていたが、ここまで豪華とは思わなかった。

「金の聖エドゥルネ像が置いてありますよ」

「こんな金ピカにされるなんて、私なら御免被るねぇ」

金無垢で作られた、ボロ布を着た半獣人の少女が木に縛り付けられている像がある。

リリとパメラはその像を興味深そうに眺めている。

「この少女は、なぜ縛られているの?」

キョーコが疑問を口にした。

「この子はねぇ、悪名高き最悪にして最弱の第四次勇者軍の治癒師だったんだけど、勇者軍の暴虐に異を唱えた結果、殺されたんだねぇ」

パメラがその質問に答える。

「そうなんだ……酷いことをするのね」

「木に縛り付けられた姿を模っているのは理由があります」

更に補足をリリが入れてくれる。

「この時、聖エドゥルネは『悪とは善性の欠如です、あなた方は必ずや善性を持つ者の前に斃れるでしょう』と仰ったとされています」

「像の正面に立つと、必ず聖エドゥルネと目が合う。私達が善性を失わないように見据えてくれているんだねぇ」

確かに、この像の目はジッと正面を見ている。

「この像の前で嘘を吐くことは出来ないし、悪を為すことも出来ないのだよ」

「試してみようかな!」

「罰当たりなことはやめなさい」

私はキョーコの好奇心旺盛な性格に呆れながら、注意した。

「でもさ、本当にどうでもいい大したことのない嘘だったらいいでしょ?」

「まあ、それならいいんじゃないかなぁ」

どうやら試すつもりらしい。

「私は男だ!」

「しょーもなっ」

予想よりだいぶ大したことない嘘であった。

「ほらぁ、嘘つける……じゃ……」

キョーコが像の方を見て固まっている。どうしたのだろうと思い私もそちらを向くが、別に変わった様子はない。

「は、鼻で!鼻で笑われた今!!」

「いや、そんなわけ無いじゃない」

「本当だもん!!絶対笑ったもん!!!」

むきになった彼女が叫ぶが、誰も取り合わない。

「おお、これぞ聖エドゥルネの奇跡だねぇ。いや、聖エドゥルネを模った純金の塊の奇跡かな?」

「聖人とて、金の像に神通力はないと思いますけど……」

「ホントなんだって!今も笑ってるもん!爆笑してるもん!」

可哀想に、ニホンでは金属は笑ったりしないとは教えていないのだろうか。

とはいえ事実ならまさしく奇跡だろう。

「気にしないでキョーコ、きっと聖エドゥルネにいたく気に入られたのよ」

「むぅぅぅ……!」

納得いかない様子のキョーコだったが、とりあえずその場は収まったのだった。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇


翌日、私達は修道院を出て街へと向かった。慈善活動のためだ。

「アクセサリー見に行こうよ!」

「賛成だねぇ、私も実は興味があるのだよ」

「お二人がそう言うなら私も行きます」

じ、慈善活動……だよね? まぁ、いいか……うん。

この街の市場を覗くと、見るからに高級な宝飾品が並ぶ屋台が治安の良さを感じさせる。

店主たちはニコニコしながら客を呼び込み、店の品を売り込むのだ。

そんな活気ある光景の中、一際目を引く集団がいた。

クピド派の赤いローブを着込んだ修道士たちだ。きっとガリバルディ修道院の者たちだろうが、何やら騒いでいる。

「どうしましょ、どうしましょ」

「困ったわね……」

修道士たちは困惑しているようだった。

「どうかしましたか?」

気になったので声をかけてみる。

「あの異人の方々が喧嘩をなさっているのです!」

修道女の一人が指差す先には、二人の男女が睨み合っていた。

男の方は狼獣人のようで、見るからに東洋な服装で腰に見慣れぬ装飾の剣を下げている。

女の方は狼半獣人だ。彼女も東洋風の服装だが、男の方とは少し趣が異なる。

二人は今にも取っ組み合いを始めそうな雰囲気であった。

「えぇっ!?和服!?それに、それってカンコクの服!?」

キョーコは何やら見覚えがあるようだ。

「こんな西方までやってきて諍いはよしなさいよあなたたち」

私が仲裁に入ろうとするが、その前に女が口を開いた。

「この狼人野郎チョッパリが悪いのよ!」

「こんなところまで来て恥を晒すな、グミョン。それにその呼び方はやめろ」

男はうんざりした様子で答える。

「二人ともやめて下さいよぉ、こんなところでぇ」

修道士の一人がオロオロと二人を宥めようとする。

「止めないでよ!こいつが店の女にデレデレしてるのがいけないのよ!」

「デレデレしていない」

「店の女に笑顔見せてたじゃない!」

「ふくれっ面で買い物はしないだろ」

どうやら犬も食わないやつのようだ。しかしこの女の嫉妬深さもなかなかのものね……。

しかし、ガリバルディ修道院の修道士たちは戦々恐々としている。

「ああ、クピドよ!彼らの仲を取り持ちたまえ!」

「二人の愛が、愛が壊れてしまう!」

世俗を知らないとは聞いていたが、ここまでとは……。察するに、この程度の喧嘩は日常茶飯事だと思うが。

「あーもう!怒ったわよ!コンギョだコンギョ!!」

「うるさい、お前がコンギョされろ」

何だかよくわからないことを言い始める二人。コンギョって何なの。

「まあまあ、落ち着き給えよ二人とも」

今度はパメラが間に割って入った。

「また!何なのこの女!」

「知らん」

「旅先で喧嘩とは感心しないねぇ。何があったんだい?」

「……コイツが悪いのよ」

女はバツが悪そうに答えた。

「サダシローが他の女のことばっかり見るから!」

「見てない。俺はお前しか見えていない」

「嘘よ!」

「やっぱ話しかけなきゃよかったねぇ」

パメラが呆れた表情で言う。

「喧嘩なら宿でやってほしいんだがねぇ」

「そうよ!宿に戻るわよ!ヒーヒー言わせてやるんだから!」

「身体がガタガタになっても知らんぞ」

二人はそんな事を言い合いながら立ち去ってしまった。

「ああ、聞きましたか今の!」

「きっと暴力を振るうのです、なんと恐ろしい!」

「クピドよ、彼らの愛をお守りください!」

ガリバルディ修道院の修道士たちの顔は真っ青である。多分そんな心配していることは起こらない……。

ともあれ、騒ぎは解決したので、私達は改めてアクセサリーを見に行くことにした。


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[一言] ば、バカップル……。
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