表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/46

17話:巡礼


「そろそろ巡礼の時期だねー」「ねー」

修道女たちの会話を聞きながら、私はぼんやりと空を眺めていた。

巡礼とは、クピド派に限らず龍教団のいくつかの宗派で行われる儀式だ。

クピド派の場合、この宗派が信仰されている地域の街々、教会や修道院、そして龍教団の聖地とされている場所を巡礼団で回る。

その道中、慈善活動、貧者の救済や説話の語り聞かせなどを行い、人々に神の愛を伝えていくのだ。

私が拾われたのも、この巡礼によるものであった。

10年前、凄惨な状況の我が家から、幼馴染がなんとか連れ出してくれた。そして巡礼団に私を引き渡した。

それ以来、彼とは会っていない、彼は故郷に残ったのだ。

院長……当時は副院長であったが、彼は快く受け入れてくれたし、龍教団と主神クピドについて熱心に教えてくれた。

つらい目に遭っただろうと、色々と融通してくれて、自由にさせてくれた。彼にも、幼馴染にも足を向けて寝られないだろう。

幼馴染には最後、酷いことを言ってしまった。修道院に来て最初の一年は、ずっと懺悔をしていた記憶しかない。

「アーデルヘイト審問官」

そんな事をぼんやりと考えていた時、シスター・ベロニカに声をかけられた。

「あなたは巡礼には赴かないのですか?」

「私は……別に……」

「あなたの故郷の村も、回るそうですよ」

「……らしいですね」

「ええ、ですのであなたも行ってみてはいかがですか?」

確かに、故郷に帰ることはもう出来ないだろうが、せめて彼の様子を見に行きたい気持ちもある。

しかし、今の私が彼に会いに行く資格があるのだろうか。それに、彼がわたしの事を覚えているとは限らない。

いや、そもそも会いに行ったところで何を話せばいいのだろう? 結局、結論が出ないまま、巡礼の日を迎えてしまった。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇


「キョーコくんが是非と言うからな、護衛は多い方がいい」

院長によると、いつの間にやら私も頭数に入れられていたようだ。

キョーコは転移者、彼女の正体がバレて狙われるとも限らないのである。心配のし過ぎかしら。

「心配しすぎるということはない。戦闘要員は大いに越したことはないからな」

巡礼団の指揮を執るのは院長であった。修道院は副院長に任せるのだという。

今回の巡礼者たちを見ると、見慣れた顔が多かった。物語上のつご…

「それ以上いけない」

またしても、神の領域に達しそうになったところをパメラに止められた。というか……。

「あなたも行くの!?」

「私とて龍教団の端くれだからねぇ。クサヴェルくんもいるから大丈夫さ」

「初日からぶっ倒れないでよね」

「……く、クサヴェルくんもいるから大丈夫さ!」

本人も不安になってきちゃったようである。まあ、本の虫にとってはいい運動の機会だろう。

巡礼は護衛の聖騎士と荷馬車以外はみんな徒歩だ。

「く、く、クサヴェルくん!!おんぶ!!!」

「まだ修道院見えてますけど……」

パメラには大いなる試練のようだ。この旅を通じて大きく成長することだろう、クサヴェルの筋肉が。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇


丸一日歩いた後、野営の準備に取り掛かることになった。

「私の故郷の料理をご用意いたしますよ!」

キョーコが食事を用意してくれるそうだ。例のチート能力とやらで食材を出現させ、料理を始める。

嗅いだことのない刺激の強い香りが漂ってくる。何を作ってるのかしら……?

小一時間ほど経つと、料理が出来上がったようだ。

「さあ、出来ましたよ!」

出てきたのはうんこであった。臭いは刺激が強いだけで排泄物の臭いではないが、見た目はお腹が緩い時のそれであった。

みんなテンションだだ下がりである。特に異国の料理楽しみだなー!とはしゃいでいたパメラは半泣きになっていた。

「あれ、みなさん食べないんですか?」

「食べないって、これうん……」

「ちょっと、こんな物食べるなんて正気じゃないわよ」

「え?美味しいですよ?」

キョーコ曰く、故郷ニホンでは大人気メニューであったそうだ。

こんなものを食べるまで困窮しているとは、こっちの世界に来れてよかったね、キョーコ……。

ウサギはそういうことをするらしいから、栄養価はあるのだろうが……。

「お待ちくださいみなさま」

「食べてないよ」

ルーナが声を上げる。待てって言われても、みんな口をつけようとはしていない。

「見た目で敬遠するのはわかります。しかし、キョーコが作ってくれたのですから、一口だけでも口にするべきです」

まあ、彼女の言う通りではあるけどお排泄物ですわよこれ!?

「調理を手伝った者はおるかの」

院長が声を上げたので、手を挙げるものが数人出た。

「どうであったか、調理の行程は見ておったろう」

「その、固形の茶色いのを入れてました……」

「べ、便であったかは定かではありませんが……」

そうこう話をしているうちに、キョーコの顔はめちゃくちゃ曇っていた。

……以前のナスの詰物漬けのこともあるし、ここは私が先陣を切ろう。

「……いただきます」

私は覚悟を決めて、それを口に入れた。すると、意外にも……いややっぱ塩辛い。

味が濃すぎる、そして香辛料の独特の風味が強く、玄人向けな味かもしれない。

しかしこれはひょっとして……。

「パンか何かにつけて食べるものだったりする?」

「あ……そうだ!お米忘れてた!で、でもパンでも大丈夫です」

何やら付け合せを作るのを忘れていたようだ。

「だとすると、これは食べられるうんこよ」

「食べられるうんこ!?」

「そうか、食べられるのか」

「食べられるなら食べねば」

黒パンにつけて食べると、少しマイルドになって食べやすい。好きな人は好きな味だ。

南方では香辛料が多く取れるというから、ニホンという国もそんな場所なのだろう。

「げへぇーへぇ、キョーコくぅん、うんこぉ、うんこ食べさせてくれよぉ、これやめらんないよぉ」

パメラは気に入ったようだ。気に入りすぎて食糞愛好家みたいになっている。

こうして、巡礼団一行は、新たな旅路に旅立ち、そして新たな食文化に触れたのだった。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇


食事も済ませ、見張りを立てて就寝となる頃、キョーコが話しかけてきた。

「アーデルヘイトさん、お話いいですか?」

「いいわよ」

彼女は私の隣に座ると、語り始めた。

「あの、カレー……食べられるうんこを、最初に食べてくれて、ありがとうございます」

「いいっていいって。前にも似たようなことあったし。あれカレーって言うんだ」

変わったものを食事に出してしまったことを気にしていたようだ。なんだかんだで善良な子である。

「……故郷の味を、受け入れてもらえて、私、改めてここにいていいんだって、思えたんです」

「あんたの気が済むまで、ここにいな」

「はい……!」

そう言って笑顔を見せた後、再び真剣な顔になる。

「それでですね、お礼として、衣装を持ってきました」

「わ、私は別にその、コスプレ?っていうのは……」

そうして彼女は紐のようなものを取り出す。

「これ水着なんです!マイクロビキニって言ってですね、めちゃくちゃドエロい衣装でして……」

「いらないいらない!」

「遠慮なさらずに!」

ニホンの人ってこういう変態的衣装を日常的に着るんだろうか、怖い!

そしてこのマイクロビキニとやらは、結局押し付けられてしまった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ