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14話:ダンジョンへ行こう その3


ダンジョンに潜って、体感で10日ほど経った。

現在87層、肉体的よりも精神的な疲労が溜まってきている。

というのも、ここに至るまでずっと魔物と戦ってきたのだが、今までとは比較にならないくらい強かったからだ。

特に洞窟ドラゴン、ドラゴンを信仰する我々には倒しにくい……とかいうわけでもなく、普通にやたらと鱗が硬かったのだ。

また魔物たちの凶暴さと狡猾さも増し、不意打ちを仕掛けてきたり、罠を張って待ち伏せをしたりとこちらを疲弊させるような攻撃ばかりしてくる。

しかしながら、ルーナとセヴェロ、ジョンとカミラのコンビネーションによりなんとか乗り切っていた。私はつゆ払い係。

それに、何組かの冒険者たちの亡骸も見つけてしまい、お祈りをしてあげたりと、おかげで私たちはかなり消耗してしまった。

「ここまで深いダンジョンは世界新記録じゃないッスか!?」

訂正、マシニッサくんだけはやたらと元気であった。あまり戦闘に参加してないからなぁ!私もだけど。

とはいえ、彼の知識と能天気さがなければここまで来れていないだろう。

そういう意味では功労者とも言える。

だがしかし、いい加減帰りたい。疲れてしまった。あの小憎らしい院長の顔も恋しい気がしてくる。それはないか。

「お風呂に、入りたいですねぇ。包帯も換えないと」

こういったダンジョンだと四六時中銀の仮面と包帯をつけることになるルーナは、結構参っていた。

彼女の事情を知っている身としては、早く彼女を外に連れ出してあげたいものだ。

「はぁ……せめてここが最下層だったらいいんだけど……」

愚痴の一つも言いたくなるというものだ。

しかしながら、喜ばしいことにその愚痴は当たっていた。

ようやくたどり着いた87層の奥には巨大な扉があった。

今までのどんな部屋のものよりも大きく、荘厳な作りの扉だ。まるで神殿の入り口のような雰囲気がある。

「これはまさか……!」

「ああ、間違いないっスね……!最奥部、いわゆるボス部屋ッス!きっとそうッス!」

みんな目を輝かせるが、要するにこれまでで一番強い敵がいるということである。

「勝ちますよ!万全にしてから行きましょう!」

私達は扉の前で野営をすることにした。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇


流石にここまでくると魔物たちも襲ってこないので、安心して休むことができる。

食事や傷の治療もできるし、いいことづくめだ。

見張りは交代で行い、まずは私が見張りを担当することになった。

ウトウトしながらも辺りを見回っていると、ふと何かの気配を感じた。

殺気ではないが、何か嫌な感じがする。

なんと扉が少し開いており、こちらを覗く巨大な何かがいた!

「あのー、人の家の前でキャンプしないで欲しいんですけど……」

「ウワーッ!ごもっとも!」

覗いていたのはドラゴンであった!が、なんか会話が出来そうな感じだ。

私の悲鳴を聞いて、みんな飛び起き……ていない!超グッスリ!

「もしかして、あなたがここの主……?」

「そんなところなんですけど……」

どうやら話が出来るタイプのドラゴンらしい。私は意を決して話しかけることにした。

「私たちは愛の神龍クピドの信者。できれば戦わずにここを出たいのだけれど」

「なるほどですけど!」

意外とフレンドリーなようだ。良かった、これで平和的に解決できそう。

「あたしはクピドの第三子にして友愛の龍、名前は……特に無いんですけど!」

ないのかよ。いや名前とかどうでもいいんですけど。

「あんたたちの友情をしかと見たんですけど!」

そう言って、寝ているジョンとカミラを指差す。

「共に助け合い友情を育む、素敵なんですけど!」

「はあ、そりゃどうも……」

「何人かパーティーメンバーを追放してる人がいたから、臓腑を呪ってやったんですけど」

ここに来る途中で見たいくつかの亡骸がそうなのだろう。ダンジョンといえば追放である。知らんですけど。

「とにかく入るんですけど!お茶淹れてるんですけど!」

私は寝ているみんなを起こし、ぞろぞろと中に入った。

そこはとても神秘的な空間だった。

天井は星空のようにクリスタルがいくつも輝いているが、床は花畑になっており、美しい花が咲き乱れていた。

そして中央に水晶で作られたかのようなテーブルと椅子があり、それに少女が腰掛けている。

きっと人間の姿に変身したのだろう。

「マリカさんに、似てますね……」

「そうッスね」

そりゃそうだ、マリカはクピドで、クピドはこの少女の母である。

「このクッソ醜い種族の姿でいられるのも5時間だけなんですけど!早くお茶会するんですけど!」

クッソ醜いは余計だし変身時間も無駄に長い。

寝ぼけ眼でまだ状況を飲み込めていないが、一行はテーブルに着くこととなった。

「これであたしたち友達なんですけど!超嬉しいんですけど!」

「どういうことなんスかね?ダンジョンの最奥部に神龍がいるなんて」

「我々も聞いたことがない……」

マシニッサくんもジョン・カミラも知らないようなので、おそらく前代未聞であろう。私も知らない。

「というかこれ本当に紅茶ですか?」

出されたものはどう見ても泥水であった。少なくとも我々の知る茶葉ではないことは確かだ。

「失礼な奴らなんですけど!これは正真正銘神の飲み物なんですけど!」

少女はぷりぷり怒りながらそう言った。確かに言われてみればなんだかいい香りがするようなしないような気がする。気がするだけだ。明らかに泥の臭いがする。

騙されたと思って口をつけると、やっぱり泥水、泥お湯であった。騙された。

「ぷぷぷ、騙されたんですけど!」

彼女は本を取り出し、何かを書き込んだ。

「友達が出来たらやることリスト、いたずらの項目にチェックがついたんですけど!」

可愛げがあるようなそうでもないような。そして口をつけたのは私だけだったようだ。クソ!

「あ、最奥部といえばお宝があるはずッス!是非とも分けていただきたいッスけど……」

マシニッサくんの言葉に、少女は目を閉じて胸に手を当てた。

「財宝なら、ここにあるんですけど……友情という名のですけど……!」

「絶対言うと思ったッス!」

ここまで来て報酬無しは少々堪える、まあ道中結構拾ったけど。

「可愛そうだからあげるんですけど!」

彼女がそう言うと、クリスタルが嵌められたアミュレットが、私達とジョン・カミラの分の二つ現れた。

それは淡く光っており、不思議な力を感じる。

「……それは名付けるなら『友情のアミュレット』という代物なんですけど。それを身につけている間は裏切ることも裏切られることもできなくなるんですけど」

「すごいですね!」

ルーナが口を開くとセヴェロも興奮気味に頷く。この品は院長もお喜びになるだろう。

「そういえば、どうしてダンジョン奥地にあなたが現れたの?」

何かドラゴンとダンジョンは関係があるのだろうかと聞いてみた。

「ダンジョンを作るドラゴンもいるんですけど、あたしはただここが新しく出来たから入っただけなんですけど!」

まあ、天然の新居みたいなものなのだろう。よくわかんないけど。

「そんな、ダンジョンを作るドラゴンがいるんスかぁ!?ぜひ会ってみたいッス!」

「やめといた方がいいんですけど。あいつめっちゃ性格悪いんですけど」

「あ、そうなんスね」

流石のマシニッサくんも性格が悪いドラゴンには会いたくないようだ。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇


ゴネる友愛のドラゴンをなんとか説得し、ようやく脱出することができた。ダンジョン攻略である。

奥の水晶で作られた扉を開くと、ダンジョンの入り口に繋がっていた。

「やっと、出れたわ……」

「長かったですね……」

「もうクタクタッス」

口々に疲れを吐き出すように言いながら外に出ると、扉はひとりでに閉まり、消えた。

ダンジョンの外には院長がいた、そして熱心にお祈りを捧げていた。

「あ、あ、ああ!!君たちぃ!!」

私達に気がつくとすぐに駆け寄り、抱きついてきた。涙と鼻水を垂れ流しながら泣いている。汚い。

「ああクピドよ感謝いたします!これほど後悔した、生きた心地のしなかった二週間はなかった!よくぞ、よくぞ無事で!」

ひとしきり泣いて落ち着いたのか、涙を拭きながら話し始めた。

「いや、何日も戻らないので、力尽きたものかと……私の浅慮を許してくれ」

「全くッス!このダンジョン多分世界一深いッスよ!」

マシニッサくんがプンスカ怒っている。気持ちはわかるよ。私だって同じ気持ちだよ。疲れたよ。

へたり込み涙を流すセヴェロ、そしてそれを抱きしめたそうな顔で見つめるルーナ。状況がよくわかっていないジョン・カミラ。

私は疲労困憊で何も考えたくない。

「それで、財宝はどうだったかね!?いだいっ!?」

このジジイ!思わずグーが出てしまった。主神よお許しください。

「ま、まあ、今のは悪かった!でもグーで殴ることは……とにかく、修道院に戻ろうか」

そうして私たちは帰路についた。もうダンジョンの探索は懲り懲りである。

帰ったらまずお風呂に入ろうと心に決めた私なのであった。


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