第97話 古代
「ああ、すまない。皆、食べながら聴いてくれ。せっかくの料理だしな。」
サキが皆、特に皿を運んできたシーナたちに気を使った。俺達の目の前には、カツサンドと玉子サンド、サーターアンダギーにコーヒー、エール、ピルスナーがある。話しながら食べやすい物をタムラ、レイゾーが考えた。せっかくなので戴くことにした。腹が減っていては頭の回転も鈍くなる。
「では、いただきます。サキ、ちなみにその魔物っていうのは?」
サキは息が詰まったように、一寸間が空いた。やや遅れた返事。
「ああ、空の上だからな。翼のついたヤツらだ。スフィンクスとかワイバーンだ。」
なんだか様子がおかしい。そこまで強い魔物だったのか?
「それで、ドワーフたちの助けもありオズボーン兄弟は助かったが、ダークエルフの王、王妃は亡くなられ、次期の王妃、つまりはオズマ夫人でメイの母親も帰らぬ人となり、ラヴェンダージェットシティは崩壊した。私はアッパージェットシティからの大使としてラヴェンダージェットシティに駐留していたので、エルフの軍を派遣するように要請していたのだが、エルフは魔物を恐れて自分たちの都市の防衛を固め、軍の派遣はなされなかった。」
サキは話すのが辛そうだ。ここで、オズマが話しを引き継ぐ。
「サキにはなんの落ち度もないんだが、責任を感じてしまってな。ずっと俺に協力してくれてる。
飛行船は、空中都市の間で移動手段として使われる乗り物だ。フェザーライトに乗って、サキとドワーフたち、俺達兄弟はラヴェンダージェットシティを脱出した。フェザーライトの他にも数隻の飛行船が脱出したはずだが、今どうなっているかは分からない。ひょっとしたらフェザーライトが最後の一隻かもしれない。
俺はフェザーライトで、世界のあちらこちらに散ったダークエルフの同胞を探し保護している。それをメイが手伝ってくれてる。
そして、保護した同胞たちは、今はドワーフの国に間借りして暮らしているんだ。ドワーフの都、デズモンドロックシティで肩を寄せ合って生きている。これもホリスターのお陰だな。」
次から次へと知らなかった事実が出て来るが、まあ、聞いて納得だ。そういう事だったか。仲間のことが知れて良かった。
そしてオズワルドが立ち上がった。俺としては、この人物は蝙蝠を食い千切って死にかけたという半分お笑い芸人のようなイメージなのだが。それにしても顔はオズマとそっくりなのに、ストレートの髪とほんの少し細身なことで印象は異なる。オズマがワイルドな兄貴で、オズワルドはスマートな弟。
「オズマの双子の弟、オズワルドです。兄がお世話になっております。それから私の母も同然のサリバンも、皆さんのお陰で静養でき、感謝の念に尽きません。本当にありがとうございます。」
丁寧な言葉で、まずお礼から。やはり蝙蝠を食い千切るイメージではないな。あとで個人的に訊いてみよう。
「サキや兄オズマの話のとおり、私はダークエルフの王の息子として産まれましたが、双子であったため、大陸のシンビジウム王国へ捨てられました。そしてファレノプシス修道院の院長であったサリバンに引き取られ育てられました。そこは孤児院ということではなかったのですが、私が切っ掛けとなり、その後大勢の戦争孤児などの家となりました。
今日初めてお会いしましたが、英雄のパーティのガラハドさん、マリアさんは私の後輩ということになりますね。特にマリアさんはサリバン先生から魔法の手ほどきを受けているようで、同じ師弟です。
私が十五歳になり、そろそろファレノプシス修道院を出ようかと思っていたところ、兄オズマが私を迎えに来て、ラヴェンダージェットシティに戻りました。いろいろあって、現在のダークエルフの王は、この私です。
そしてエルフ、ダークエルフの王には、ある役目があります。『神託』を受けることです。」
は?神託?グローブから来た俺には現実味を感じられない話になってきた。皆結構真剣に聴いているのだが、そこから先の話は、さらにお伽噺みたいなものだった。
「この世界ユーロックスは、もう一つの世界グローブと表裏一体。どちらかの世界が滅べば、両方とも滅ぶ。ユーロックスの危機にはグローブから来た『勇者』や『英雄』がユーロックスを助け、グローブの天変地異にはユーロックスから資源が提供されたりと、お互い助け合ってきました。ただ、もうそのバランスが崩れているのですよ。
表裏一体とは言いましたが、グローブが表。ユーロックスが裏と言えるでしょう。このまま放っておくと、ユーロックスはグローブに吸収されて無くなります。まあ、まだ今のところは何万年先とかの話ですが。」
「はーい、先生。質問でーす。」
マチコが勢い良く挙手した。オズワルドが質問を許可すると、これまた勢いよく立ち上がった。
「あらためましてー。異世界人のマチコでーす。格闘家でタロスのパイロットやってまーす。ちなみにサキはあたしのいいひとだから、そこんとこヨロシクね~え。」
「はい。お噂は娘のメイからもうかがっておりますよ。」
マチコはサキとの仲をアピールすると、あとは真面目な表情になる。どちらの世界のことも気になるからだ。
「むしろ壊れているのはグローブのほうだと思うけれど、どうなのかしら?自然破壊、人口増加、気候変動、環境汚染、核兵器。いろいろと危ない問題を抱えているのよねえ。」
「それは、まあ、そうなんですが。長くなりますけど、説明します。」
『マナ』というのは、魔法を使う為のエネルギーと考えられがちだ。車だとすればマナはガソリン。術者の魔力がバッテリーの電気。精霊魔術がマナを必要としないのは、精霊が精霊自身のマナを使っているから。
が、マナは魔法だけではない。星が、世界が存在するために必要なエネルギー。マナが何処から生み出されるかといえば、星そのもの。分かりやすく言えば、土地からである。
もともとユーロックスもグローブも大量のマナを包容した肥沃な世界。だが、数百万年前までに差が付いた。遥か昔、人間や亜人がまだ生まれていない、神話の時代よりももっと前。地球の地上は恐竜が支配し、ユーロックスは古代の竜が栄えた。
グローブでは恐竜がマナを食い荒らし、地上のマナは枯渇。ユーロックスでは古代の竜や魔物たちがマナを循環させた。
マナがないグローブでは魔物は生きられず、魔法も使えないため、人間は科学技術を発展させた。マナが豊富なユーロックスでは、魔物が闊歩し、精霊も天使も魔族も生きられるため魔法が研究され、他種族との生存競争を勝ち抜くための剣と魔法の世界になった。
マナが上手く循環していれば、良い事ばかりとも言えないが、自然は自浄作用が働き、或る程度まで健全な状態を維持できる。マナがないグローブでは、それが難しく、また人間が創った文明により自然破壊が進んでいる。
もっとも、マナは土地から生み出されるので、火山の噴火など、何かの拍子に地上に出てくるのだが、それでは間に合わない。人間が環境を悪くするほうが、ずっとペースが速い。
そして、それを防ぐため、グローブはユーロックスを吸収しマナを補充しようとしている。『神託』というのは、『白い月』に住まうという『神族』からの『教示』であり、それを守って実行すれば、ユーロックスがグローブに吸収されるのを止めるか遅らせることができる。
例えば、グローブの人間をユーロックスに召喚転移させると、その人間は多くの場合、魔法が使えるようになったり、魔物と戦える強い力や特技を持っていたりするのだが、その召喚という行為が、ユーロックスがグローブに吸収されるのを早めてしまう。不自然にユーロックスとグローブを繋げてしまうからだ。自然と繋がってしまうのは、たまにあることで、俺がユーロックスに転移してきたのは、それらしいのだが。火山や地震が多い日本やハワイなどはマナが地上に出やすいため、良くその現象が起きる場所なのだそうだ。このセントアイブスにいる異世界人が皆日本人なのは、そんな理由があったのか。
そして『神託』を受けるには強い魔力が必要で、また人間よりも神や天使に近い種族の亜人、エルフかダークエルフに限られる。それで、ダークエルフの王であるオズワルドが『神託』を受けている。ちなみに精霊に近いのが、ドワーフやホビットという種族。魔族に近いのが、ゴブリンなどだ。人間は中立なのだが、それだけに信仰心も薄く自分勝手で、ある意味とても厄介な種族なのだそうだ。
ここまでは理解できただろうか。レイゾーから興味深い質問があった。
「人間が生まれていない神話よりも前の時代、古代のことが分かるのは、どうして?」
「おお、鋭い質問ですね。ラビリンスウォークやフィールドウォークの、もっともっと上の上位互換の移動手段として『次元渡り』というものがあります。これは、空間だけでなく時間をも超えます。」
なんか、どえらいの来たー。もうついていけないぞ。なんでもありだなあ。
なんだか、オズボーン兄弟がヤマトの古代守、古代進のように思えてきましたよ。
ちなみに漫画版では、古代守は有名な宇宙海賊になってますからね。