第96話 カミングアウト
サリバン先生、大丈夫でしょうか?
クラブハウスに巣くうバルナック侵略軍とそのゴーレムを牽制しつつ、バルナックに侵入し飛行型ゴーレムを無力化するという作戦は成功した。これでジャカランダを嫌がらせのように爆撃されることはないわけだが。
クランSLASHとしての打ち合わせはそこそこに、全員旧セントアイブス城に集まった。旧セントアイブス城は「旧」とはいえ、城としての機能は保っており、有事にはこの城壁の内側に街の住民全てをかくまい籠城することも可能であるが、現領主ジム・ページ卿が質素を心掛けて小さな領事公邸に住まうため、城は病院や療養所として利用されている。
その旧城にサリバンが入院し治療を受けているため、クランSLASHメンバーとオズワルドが見舞っている。魔力体力を奪い続ける呪いを受けたのだが、皆が心配したとおり医術面では限界があるそうだ。悪化を防ぐのみ。解決するには魔法を使い、魔女シンディの呪いを解呪するしかない。
しかし、通常の解呪の呪文だけでは足りず、他の呪文を掛け合わせるか、複数の術者を集めて儀式を行う「大魔法」か、いずれかの方法が必要になるらしく高僧の職能を持つマリアと白魔導士のサキとで対策を話し合っている。魔導士の俺は、理屈の上では五芒星魔術の行使で、どの色のマナの魔法でも使用可能なので、白や緑のマナでの呪いを解く魔法も使えなくはないのだが、その為の知識が足りない。また魔法使いの個性として赤やマゼンタ、黒とシアンの色のマナの一部が得意らしい。かなり攻撃寄りのキャラってことか。
今言えるのは、俺はあまり役に立てないという事だな。迷宮の探索、戦闘での格闘、火力ばかりを優先して魔法を覚えてきたツケが回ってきたか。これからは広い視野でなんでも吸収しなければ。不測の事態に対応できない。
クララが俺の腕を掴む。俺が深刻な表情になっていたことを気にしているらしい。
「悔しいね。あたし達、今、役に立てないものね。」
「あ、ああ。」
マリアがサリバンに回復呪文を掛け、白湯を飲ませると病室から出て来た。
「意識はしっかりしているけれど呼吸が苦しそうだわ。体力はともかく、魔力が回復しないの。なんとか楽にしてあげたいわね。
オズワルドさん。サリバン先生がどんな状況だったのか、詳しく伺いたいわ。勿論、貴方自身の事も含めて。」
オズワルドは黙って頷いた。そして、オズマとメイも。
「ここは病院だ。とりあえず取調室へ移動しよう。僕らクランの事務局だし、落ち着いて飲み食いしながら話そう。」
レイゾーが音頭をとって話し合いの場を作る。シーナたち取調室のスタッフは、また忙しくなるだろうな。
クランSLASH全員で集まると人数も多いので、今回は個室ではなく、二階のテラスでの会合だが、半分は食事会だ。ホリスターもいる。皆、バルナックで戦闘を終えて帰ってきたわけだし、もう夕方だ。タムラが言うには、「ちょっくら戦争してきた」のだが、まあ、腹は減る。
クランのマスターであるレイゾーから、今回の戦果や敵戦力の分析、オズマとメイが捕虜を連れて帰ったこと、サリバンの病状、オズワルドの紹介といった一通りの連絡事項と挨拶があったが、そのあとに発言したのは、サキだ。オズマとオズワルド、メイに身の上話をしようかと確認を取る。
「それは、俺から話そう。当事者だ。それが一番説得力あるだろう。長くなりそうだが、皆聴いてくれ。」
オズマが立ち上がった。サキ、オズワルド、メイ、ホリスター、ガラハド、マリアと順番に視線を移して話し始める。
「皆、『天空都市』って知ってるか?あれはエルフの都だ。俺とメイが乗ってるフェザーライトのもっともっと馬鹿でかいヤツ。この地上と月の間に浮かんでる。上空十万キロから二十万キロくらいだな。
サキは、その天空都市『アッパージェットシティ』の出身で官僚。俺は同じくダークエルフの都『ラヴェンダージェットシティ』の出身で、その領主の息子だ。まあ、ぶっちゃけダークエルフの王子だ。」
とんでもないカミングアウト来た。オズマのワイルドな言動、べらんめえ口調で王子様はないだろう。俺だけじゃないが驚いていると、オズマは俺を名指し。
「はい、そこ!笑わない!」
「ええ、俺ですか?!」
「ぶはははははは!ゲラゲラゲラゲラ!」
俺を差し置いてガラハドが大笑いしている。
「えー、うそだろー。俺よりガラわりーじゃん。言葉遣いわりーじゃん。」
「おまえだって爵位持った騎士だろうがよ。」
「『元』騎士なー。」
「だから、俺だって『元』王子だっつってんの!」
オズワルドは微笑んだ。目を細めてうれしそうにしている。
「兄は良い友人を持ったようです。」
「似てねえ兄弟だなあ。弟君は上品なのになー。」
「あー、ガラハド君、後で体育館裏へきたまえ。」
「ハイッ、先輩!ブルブルガクガク!」
ガラハドの隣に座っているマリアが頬を抓る。話しが前に進まないから止めなさいと窘める。
「で、その弟のオズワルドなんだが、双子だ。産まれてすぐに忌み子として捨てられた。そのオズワルドを引き取って育てたのが、シスターサリバン。オズワルドは孤児として修道院で育った。その修道院の後輩が、ガラハドとマリアだな。恥ずかしい話なんだが、俺は十五歳で成人するまで自分に弟がいるとは知らなかった。
教えてくれたのはホリスターなんだがな。ホリスターたちの鍛冶師の流派は、古くからエルフと取引してるお得意さんだからな。」
そんな繋がりがあったのか。人の縁とは不思議なものだ。ん、亜人の縁か?
「俺は次期領主として育てられたが、そんなものには興味がなかったしな。弟を必死に探してみれば、案の定弟のオズワルドのほうが、俺よりもずっと強力な魔力を持っている。エルフもダークエルフも、それを統べる者には強い魔力が必要でな。俺は次期領主を辞退し、オズワルドに跡を継いで欲しかったんだが、そこで一悶着あったわけだよ。
そのゴタゴタの最中にアッパージェットシティから外交官としてラヴェンダージェットシティに派遣されていたのがサキだ。サキには世話になった。」
マチコがサキの腕にしがみつき、サキもマチコの手を握る。サキは自分の身の上を隠していたわけではないが、これまで話すタイミングがなかった。
「あのーう、よろしいですかー?」
クララが挙手。普段ちょっと天然っぽいところがあるんだが、何を訊くつもりなんだろうか?
「それで、タロスを造ったのは、おそらくサキとオズマさんとホリスターさんでしょう?どうしてタロスを造ったんですか?それから、今までオズワルドさんは、何処で何を?メイちゃんがオズマさんと一緒に行動しているのは、何か理由が?飛行船フェザーライトのことも知りたいでーす。」
鋭いな。まったく、この娘は頭良いんだか悪いんだか分からないときがあるけど。やっぱり頭良いんだな。核心を突いてきたぞ。俺も知りたいところだ。
サキが口を開いた。冷静を装っているように見える。内心どう思っているのか。
「いかにも。タロスは我々三人で作った。だが、その理由を説明するには、まだもう少し背景を語らないといけないな。
まず。ダークエルフの国、空中都市『ラヴェンダージェットシティ』は、今はもうない。滅んだ。それを再興するのが、我々の目的だ。」
滅んだとは、どういう事だろうか?それを再興するというのは崇高な目的だと思うが、一筋縄にはいかないだろう。
「オズワルドのことは、この後、本人から話してもらうが、オズワルドにもやるべきことがある。
ダークエルフの国についてだが、ダークエルフの中にも権力を欲しがる痴れ者がいてな。極端な者はオズボーン家の皆殺しなどと考え、実行した。具体的には、大型の魔物を嗾けて都市を攻撃した。その巨大な魔物を斃すために造った、というより育てているのがタロスだ。その魔物、別の人間の国や街を襲ったりするかもしれない。放っておくわけにはいかないんだ。」
皆、飯を食うどころではなかった。重い話だ。
サキやオズマが身分を明かしたことで、環境が変わってきますね。
今回のネタ。
エルフの空中都市の名前は ロックバンド ブランキージェットシティ から。
それと「リングにかけろ!」河合武士のアッパーカット、ジェットアッパーとジェットラベンダー。




