第95話 捨て駒
レイゾーとタムラ、二人だけでバルナックの飛行型ゴーレム対策に挑みます。
レイゾーとタムラはルンバ君に乗り、エルマー山の南側斜面を上から観察すると、ゴーレムの足跡を発見。東のガーランド海峡側から続いていた。そちらにゴーレムを造る工廠か、格納場所があるのだろう。
「やっぱり海峡寄りにあったか。ここから東のミッドガーランドへ船で戦力を送るんだから、まあそうなるよね。」
「どうする?旦那。最低限、場所を特定するとして。二人だけで殴り込むかい?」
「それも一興だけど、規模がどれくらいかによるかなあ。まずは順当に偵察だね。」
話しながら大きな足跡の出処を目指し進むと箱型の建屋が見付かった。大小の建屋が十棟ほど並んでいる。妙なのは、その建屋の近くには幅広の道路が伸びている。まるで航空機の滑走路だ。
「こいつは・・・。普通に滑走して離陸するヤツがいるってえことなのか?
次から次へと新しいゴーレム造ってやがるな。」
「よし、こいつ等を壊してトンズラしよう。まずは滑走路の真ん中に穴開けてやろうかな。
これは傷ついた者への歌ではなく、殉教者への祈りでもない。群衆の中へ埋もれず、我の声を聞くが良い。爆弾魔!」
レイゾーが頭の上に手をかざすと、上空に六芒星の魔法陣。その中心に小さく真っ黒な鉄の塊のような物が浮かぶとあっという間に大きく、直径十メートルほどになった。ボールを投げるような素ぶりを見せると、鉄球のような物は放物線を描き飛んでいく。滑走路の真ん中に落ちると爆発した。
轟音と共に地震のような振動がビリビリと足に伝わってくる。爆風が収まると、滑走路のど真ん中にディッシャーボールでアイスクリームを掬ったような丸い大穴が出来ていた。
「どう?これで飛行機は飛べないよねえ。」
「おおー、派手にやったなあ、旦那。」
「もう一発、ゴーレム工場っぽい建屋も吹っ飛ばしちゃおう。大きいヤツから。」
レイゾーが大暴れする一方、ゴーレム工廠の中で指揮を執っていたデイヴは、イライラしながら応戦するための指示を部下たちに出していた。攻城魔法の攻撃で怯えている部下たちからすれば、半分八つ当たりされているような気分だが、かなり的確な命令だった。
「旧型の『ハイル』を出せ!二体残ってるだろう。『ハイルV』じゃない!最初のヤツだよ!」
「古い方を出すんですか?『ハイルV』はどうしますか?」
「あとのは温存だ。地下へ移動させろ。『ハイル』だけで応戦しろって言ってんだよ!」
「『ハイル』だけで持ちこたえるんでありますか?」
「うるっせえな!早くしろ!『ハイル』は殿だ!『ハイル』を捨て駒にして他は逃げるんだ。おめえらもさっさと地下へ移動すんだよ!」
最後の一言だけは納得し、兵たちは魔法の窯にマナの結晶であるトークンをぶち込んで『ハイル』を起動すると、我先にと地下へ向かう階段へと走って行った。壁に寄りかかっていた二体の『ハイル』は歩き始め、建屋の外へ出た。
三つの月があるこの世界で3という数は神聖なものとされており、ララーシュタインのインヴェイド・ゴーレムも全て三体をひとつの単位として造っているため『ハイル』も最初にタロスと対戦した以外の二体が残っているが、もともと『ハイル』は対人兵器として開発されており、攻城兵器としての面はおまけのようなものだった。ウィンチェスターの火薬と小銃、爆弾が実用化したことで『ハイル』はほとんど用済み。タロスへの対策は、ハイル改良型の『ハイルV』以降に任されることとなり、クラブハウスへも送られなかった。それがここで出番が回ってきた。
「すげえ爆発だったが、タロスが来てるわけじゃないんだ。相当な腕の魔法使いだろうが、二体の『ハイル』で撤収の時間を稼げるはずだ。どうせもう『ハイル』はここで失っても戦力として期待されていないしな。」
デイヴは、兵たちとは逆に階段を上へと。高い位置から見下ろしてハイルの指揮を執るためだ。建屋の屋上に出て周りを見渡した。大きな穴が開いた滑走路が目に付くが、黒煙が上がり点々と火が明るく石畳を照らすその向こう側に二人の人影を見つけた。
二体のゴーレムが建屋から出て来たのを見たレイゾーとタムラは有利に戦えそうな場所を探すが、ガーランド群島はもともと湖沼は多いが山などの複雑な地形が少なく、それはミッドガーランド島もウエストガーランド島も同じであった。先程、レイゾーが魔法で爆発させた一番大きな建屋が、身を隠すには一番都合が良さそうだ。被害のない他の建屋では伏兵がいるかもしれない。
ルンバ君の最速で崩れた建屋に駆け込むとタムラは弓矢を番える。二体のゴーレムは二人を追いかけ近づいて来るが、すかさずタムラは赤いトークンを嵌め込んだ矢を手前のゴーレムの顔面に撃ち込み、火が出るとレイゾーが走りだした。
すぐ後ろにいたハイルは腕を伸縮させる。この伸びる前腕は、ゴーレム同士や攻城戦であれば相手や城壁に対して勢いよく伸ばしストレートパンチを見舞ったりするものだが、対人戦であれば足下にいるゴーレムの数分の一のスケールの大きさの人間を襲うために使われる。
しかし、レイゾーはその伸びきった腕を魔剣グラムで斬り落とした。なおも振りかぶり、足に斬り付けようとする。
「蹴りだ!押し返せ!」
デイヴの命令で『ハイル』がレイゾーを蹴り飛ばそうとするが、剣で受けるとハイルの爪先に剣の刃が食い込む。レイゾーが剣の鍔付近を持った右手を引き、左手を前に突きだす。魔剣グラムを横に構えるとハイルの足を捻ることになり、横倒しになる。すぐ近くの別の建屋に倒れ込み、建屋の外壁がガラガラと音を立てて崩れた。
「うまい。さすが、旦那。」
タムラは二本目の矢、緑のマナのトークンの矢を放つと、割れた爪先に刺さり、そこから植物の根が張り、石畳を破って地面に潜り込む。片足が動かせなくなった。まさに足枷である。
片足の自由を奪われたゴーレムはもう片手を伸ばして上半身を捻り、周りの建物を壊し始めた。二人を生き埋めにするつもりである。顔面に火矢を喰らったゴーレムも加わり暴れ回る。
サーフィンのボードのように足を前後に揃えてルンバ君に乗り、粉塵が舞う瓦礫の中から急角度で飛び出たレイゾーは足を固められたゴーレムの頸を刎ねた。ルンバ君から飛び降りるとゴーレムの背中に降り、逆手に持った魔剣グラムを突き立て、腰に向けて走り降りる。鰻の背開きをするように。
「こいつは開いてもおろしても食えそうにねえけどなあ。」
「まあ、タムさん、そう言わないでよー。」
もう一体のゴーレムは建屋を壊す、瓦礫を投げつける、といった暴れっぷりのため、タムラは移動しては矢を放つという作業を繰り返したが、粉塵で視界は悪くなり、息も苦しくなる。多少の瓦礫はぶつかってもアダマンタイトの甲冑で防げるが、そのままでは埒があかないので、魔法を使うことにした。
「気流と気迫。鳥と虫の羽根の音。ウンディーネを崇める者に祝福をもたらさん。風の従者!」
呪文で追い風を起こし、視界を確保しつつ矢の命中率を上げる。すると、タムラが矢を番えるよりも先にレイゾーが普段使っている片手半剣を投げつけた。見事ゴーレムの額に刺さり「emeth」の文字を分断。ゴーレムが機能停止すると、すかさず魔剣グラムで足首を斬りつけて『ハイル』は膝をついて倒れた。
タムラは番えた矢をそのままにして、周囲を警戒。建屋の屋上に人影を見つけ、撃った。
「うおっ、あぶねえ!」
デイヴはインスタント呪文『盾』を使ってタムラの火矢を防いだが、気の短いデイヴは頭に血がのぼり、とっさに反撃した。
「叙情の氷槍!」
氷の槍がタムラを襲うが、タムラはすぐに第二射を撃ち、氷の槍とタムラの火矢が真正面から衝突。どちらも消え去った。
「おお、やるじゃねえか。バルナックの魔法使い。」
「ふん、オッサンもな!」
レイゾーは、さっき投げたバスタードソードをゴーレムの額から引き抜くと横に凪ぎ、デイヴがいる建屋を下の方から壊し始めた。
「溶岩の斧!」
火系の攻撃呪文を織り交ぜながら剣を振るい、建屋は発破解体のごとくバラバラになった。タムラのエアロスミスの呪文が、磁場を乱すために撒かれている砂鉄を風で吹き飛ばしているため、崩れず残った壁に領域渡りの門を出現させタムラに声を掛けた。
「タムさん。そろそろトンズラしようか。」
「オッケー、ズラかろう。」
「あっ、てめえら!待ちやがれ!」
二人の姿が門に消えると、つい今さっき「待ちやがれ」と言っていたデイヴはホッとした。『ハイルV』二体を捨て駒にして、なんとかやり過ごしたのだ。周りに誰もいないせいか、デイヴは本音が漏れた。
「ろくな攻城兵器も持たず、フルプレートアーマー着込んだ生身の人間二人だけで殴り込んで来るなんて、信じられねえ。引き際も心得てる。ララーシュタインはララーシュタインはとんでもねえ相手に喧嘩売ったんじゃねえのか?」
次回、サリバンやオズワルドの人間関係について。
今回のネタはBon Jovi Bon を Bombに。
あとエアロスミスにアーチエネミー。みんなロック聴こうぜ。