表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
撃てるんデス! ~自衛官の異世界魔法戦記~  作者: 井出 弾正 (いで だんじょう)
第7章 反攻
95/240

第93話 カササギ

 エルマー山の上空に到着したAGI METALの四人。すぐに頂上の奇岩が目に付いた。南側に不自然な足場のような物がある。乱雑な階段のように見えるが、大きい。これはゴーレムに合わせた物だろう。だとすると、この足場を追って行けばゴーレムの駐屯地に辿り着けると思われる。


「ここを降りて行けば、遊園地に行き着くんじゃねえか?俺、ゴーレムと戦ってみてえんだが。」


そわそわとするガラハドに対してレイゾーは目的意識がハッキリしている。ガラハドを止めに入った。


「おいおい。僕たちの一番の目的は、飛行型ゴーレムを飛び立てなくすることだよ。ジャカランダの市民を守らないとね。」

「そうだな。まずは、この怪しい岩を崩しちまうのがいいんじゃねえかな。これまでの情報からすると、空飛ぶゴーレムは羽ばたいてるよりも風に乗ってるみたいなんだろ?ハトやカラスよりも、鷹やトンビに近い。それなら、この岩の上から飛び降りるようにして、飛翔するんだろうさ。ソアリングってヤツだよな。」


 岐阜で林業に就き、猟友会の副会長もしていたタムラは自然の動植物全般に詳しい。奇岩の破壊を進言した。


「タムさん、これ堆積岩(たいせきがん)だよね。僕らの甲冑ほどじゃないけど、かなり硬いよ。」

「この面子(メンツ)なら可能だよな、旦那。」

「そりゃそうだねえ。よし。」


 レイゾーはさっさとルンバ君から降りて、剣が届くか届かないかの間合いをとって岩の前に立った。足を肩幅よりも広く開いて腰を落とすと剣を上段の構えに。愛用の片手半剣(バスタードソード)袈裟懸(けさが)けに、右上から左下へ振るうと、奇岩の表面に深い切り傷を付けた。注目すべきは、どこも傷の深さが同じくらいになっている。


「タムさん、緑のトークンの矢は持ってる?この線に沿って・・・、うーん、二メートルおきくらいでいいかな。矢を撃ちこんでみて。」

「おう、おやすい御用。」


 タムラは十本ほどの矢を奇岩の傷に撃ちこむ。常人の撃った矢ならば、弾かれてしまうはずが、深々と差し込まれていく。一本また一本と矢を放つたびに岩の奥にまでヒビが入る。


「じゃあ、今度はマリア。このタムさんが撃った矢のトークンに魔力を流して。植物を育てよう。」

「ああ、そういうことね。分かったわ。

 知性を枯らさぬ為、植物を枯らさぬよう努めねばならぬ。大樹の幹には人を活かす幾重もの先祖の知恵が潜むものなり。自然の摂理(ナチュラルオーダー)!」


 マリアが呪文を詠唱(キャスト)すると(やじり)に埋め込まれた緑のトークンから木の根が張り、隣同士で連なり絡まると、太く大きな大樹の根となり、岩を割りながら、伸びる。岩の上面からは芽が出て見る見るうちに大きく成長し、奇岩はヒビだらけとなった。


「じゃあ、はい。ガラハドの出番。思いっきりやっちっまって。」

「おー、おう。じゃあ、やるぜぃ。」


 腰にぶら下げた巾着袋からイエローとシアンの色のトークンを取り出して拳の中に握り右半身を引き、左掌を奇岩の表面に付け、足を踏ん張った。


「必殺!迅雷風烈(じんらいふうれつ)正拳突き!!」


 ガラハドが素早い動きで身体を捻り、岩肌に右の拳を叩きこむと火花が散り、雷鳴が(とどろ)いた。拳の起こした風圧が、周囲の物を吹き飛ばしかねない勢いで渦を巻き、急激に奇岩の表面に無数の細かい傷が走る。レイゾーが斬り付けた斜線よりも下側、ガラハドが突いた部分は粉々に砕けて崩れ去った。斜線よりも上の部分は土台を失い、ひっくり返って落ちる。そして落ちてしまえば、その衝撃でやはり大きな音をたてて崩れていく。後には、大小の根が広がった大樹が残った。


「どうだい。魔法の掛け合わせとはちょっと違うけど、これもコンビネーションだろ?」


 レイゾーはドヤ顔だ。しかし、この轟音を聞きつけたか、インヴェイドゴーレムが山を登って来る。三体の『ハイルV』。音に敏感なレイゾーが真っ先にゴーレムの足音に気付き、普段使っている片手半剣(バスタードソード)を腰の鞘に戻すとストレージャーから大きな両手剣(グレートソード)を取り出した。『魔剣グラム』だ。


「このグラムなら、斬れるだろ?」

「よっ、お客さん。いらっしゃい。歓迎するぜ。」


ガラハドは岩を砕いたばかりの高いモチベーションを保ったまま、ゴーレムに向かい駆けだす。マリアはゴーレムの動きを封じ、あわよくば止めを刺すための呪文を詠唱する。


「戦争を始めた政治家は嘘を重ね、笑うサタンは黒い翼を翻す。暗闇の中で神の裁きを待つが良い。地を這う豚(ウォーピッグス)!」


 三体のゴーレムは大きな重力に潰れ掛け、巨体はそれになんとか耐え抜くものの足が地面にめり込み沈む。先頭にいた一体が前のめりになる上半身を起こしたところ、タムラの放つ矢が額に当たった。赤マナのトークンを仕込んだ矢は爆発し、『ハイルV』の頭に衝撃を与えて海老反りに仰け反らせると、半分埋められた脚の、(すね)の部分にレイゾーが斬り付ける。野球のバットのスイングのようにほぼ水平に横滑りした魔剣は、鉄の塊であるゴーレムの脚を見事切断した。

片脚となりバランスを狂わせ、仰向けに倒れた額にガラハドが馬乗りになり、タムラが矢を命中させた額の上から、もう一撃、拳を当てた。ガラハドの職能(クラス)騎士(ナイト)格闘家マーシャルアーティストだが、格闘家も様々であり、ガラハドが得意なのは打撃。スポーツで言えばキックボクシングだ。体格が恵まれているだけでなく、幼少より乗馬や剣、弓の鍛錬を続けてきたので、背筋、いわゆるヒットマッスルが鍛えられ、なおかつ拳に関していえば、重みを増すために手首に内側に向けて回転をつけて打っている。コークスクリューブロウと呼ばれる技術。

ゴーレムの額が割れ『emeth』の文字が消えた。見事に一体目は活動停止。そして二体目は、あっという間にレイゾーが大柄な剣で膾切り(なますぎり)にしてしまった。三体目は内臓されたカラクリである腕を伸尺させる機能を使い、ガラハドに襲い掛かるが、メカンダーの盾で受けると、その盾に突き出た四本の(スパイク)が、逆にゴーレムの指に刺さった。ガラハドが腕を動かすとゴーレムの指が裂け、フックを打つとゴーレムの手首を捉え、前腕が()げた。『ハイルV』の伸びる腕は、ストレートパンチを打つためには良い機能だが、伸びたところで横から衝撃を喰らうと(もろ)い。

 これまた、タムラの弓でこの隙に額を射られ、赤マナのトークンの爆発の炎で『emeth

』の文字を(あぶ)られた。そして、魔法の箒ルンバ君に乗ったマリアが突進し鎖付き鉄球(モーニングスター)を振り回してゴーレムの頭をどつきまわす。頭頂高十五メートル以上の『ハイルV』でもルンバ君に乗って空を飛べば頭を直接攻撃できる。


「おー、久しぶりにマリアの鉄球見たねえ。」

「やっぱ、アレはこええよな。旦那。」

「モーニングスターがあれば、マリアは魔法なんか無くっても無敵だよね。ガラハドの盾もハンパない。」

「おいおい、魔剣グラムを持ってるレイゾーが、それ言うか?」


 三体のゴーレムの残骸を前にお喋りをしていると、南の空からカササギが飛んできた。気付いたのは、マリア。ルンバ君に腰かけたまま、カササギを凝視していると濁った声でカチカチと鳴いた。真っ直ぐにマリアに近づいてくると話し出した。


「マリア!ガラハド!」

「やっぱり!あなた、スクルドね?」

「サリバン先生、助けろ!」


 ガラハドは途端に血の気が引き、顔色が悪くなった。普段のガラハドらしくない慌てた表情だ。


「サリバン先生がどうかしたのか?」

「魔女と戦ってる!助けろ!」


 ガラハドとマリアが顔を見合わせ、頷いた。ガラハドはレイゾーとタムラに自分たちの育ての親であり、マリアの魔法の師匠だと説明する。


「場所は何処なの?」

「近く!」

「スクルド。案内して、早く。」


 四人はまた魔法の箒ルンバ君に乗り、エルマー山の頂上から南を目指して飛ぶのだった。先程までとは違った緊張感に包まれて。

今回のネタ元は、闘将ダイモス。

「必殺 烈風 正拳突き!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ