第93話 カササギ
エルマー山の上空に到着したAGI METALの四人。すぐに頂上の奇岩が目に付いた。南側に不自然な足場のような物がある。乱雑な階段のように見えるが、大きい。これはゴーレムに合わせた物だろう。だとすると、この足場を追って行けばゴーレムの駐屯地に辿り着けると思われる。
「ここを降りて行けば、遊園地に行き着くんじゃねえか?俺、ゴーレムと戦ってみてえんだが。」
そわそわとするガラハドに対してレイゾーは目的意識がハッキリしている。ガラハドを止めに入った。
「おいおい。僕たちの一番の目的は、飛行型ゴーレムを飛び立てなくすることだよ。ジャカランダの市民を守らないとね。」
「そうだな。まずは、この怪しい岩を崩しちまうのがいいんじゃねえかな。これまでの情報からすると、空飛ぶゴーレムは羽ばたいてるよりも風に乗ってるみたいなんだろ?ハトやカラスよりも、鷹やトンビに近い。それなら、この岩の上から飛び降りるようにして、飛翔するんだろうさ。ソアリングってヤツだよな。」
岐阜で林業に就き、猟友会の副会長もしていたタムラは自然の動植物全般に詳しい。奇岩の破壊を進言した。
「タムさん、これ堆積岩だよね。僕らの甲冑ほどじゃないけど、かなり硬いよ。」
「この面子なら可能だよな、旦那。」
「そりゃそうだねえ。よし。」
レイゾーはさっさとルンバ君から降りて、剣が届くか届かないかの間合いをとって岩の前に立った。足を肩幅よりも広く開いて腰を落とすと剣を上段の構えに。愛用の片手半剣を袈裟懸けに、右上から左下へ振るうと、奇岩の表面に深い切り傷を付けた。注目すべきは、どこも傷の深さが同じくらいになっている。
「タムさん、緑のトークンの矢は持ってる?この線に沿って・・・、うーん、二メートルおきくらいでいいかな。矢を撃ちこんでみて。」
「おう、おやすい御用。」
タムラは十本ほどの矢を奇岩の傷に撃ちこむ。常人の撃った矢ならば、弾かれてしまうはずが、深々と差し込まれていく。一本また一本と矢を放つたびに岩の奥にまでヒビが入る。
「じゃあ、今度はマリア。このタムさんが撃った矢のトークンに魔力を流して。植物を育てよう。」
「ああ、そういうことね。分かったわ。
知性を枯らさぬ為、植物を枯らさぬよう努めねばならぬ。大樹の幹には人を活かす幾重もの先祖の知恵が潜むものなり。自然の摂理!」
マリアが呪文を詠唱すると鏃に埋め込まれた緑のトークンから木の根が張り、隣同士で連なり絡まると、太く大きな大樹の根となり、岩を割りながら、伸びる。岩の上面からは芽が出て見る見るうちに大きく成長し、奇岩はヒビだらけとなった。
「じゃあ、はい。ガラハドの出番。思いっきりやっちっまって。」
「おー、おう。じゃあ、やるぜぃ。」
腰にぶら下げた巾着袋からイエローとシアンの色のトークンを取り出して拳の中に握り右半身を引き、左掌を奇岩の表面に付け、足を踏ん張った。
「必殺!迅雷風烈正拳突き!!」
ガラハドが素早い動きで身体を捻り、岩肌に右の拳を叩きこむと火花が散り、雷鳴が轟いた。拳の起こした風圧が、周囲の物を吹き飛ばしかねない勢いで渦を巻き、急激に奇岩の表面に無数の細かい傷が走る。レイゾーが斬り付けた斜線よりも下側、ガラハドが突いた部分は粉々に砕けて崩れ去った。斜線よりも上の部分は土台を失い、ひっくり返って落ちる。そして落ちてしまえば、その衝撃でやはり大きな音をたてて崩れていく。後には、大小の根が広がった大樹が残った。
「どうだい。魔法の掛け合わせとはちょっと違うけど、これもコンビネーションだろ?」
レイゾーはドヤ顔だ。しかし、この轟音を聞きつけたか、インヴェイドゴーレムが山を登って来る。三体の『ハイルV』。音に敏感なレイゾーが真っ先にゴーレムの足音に気付き、普段使っている片手半剣を腰の鞘に戻すとストレージャーから大きな両手剣を取り出した。『魔剣グラム』だ。
「このグラムなら、斬れるだろ?」
「よっ、お客さん。いらっしゃい。歓迎するぜ。」
ガラハドは岩を砕いたばかりの高いモチベーションを保ったまま、ゴーレムに向かい駆けだす。マリアはゴーレムの動きを封じ、あわよくば止めを刺すための呪文を詠唱する。
「戦争を始めた政治家は嘘を重ね、笑うサタンは黒い翼を翻す。暗闇の中で神の裁きを待つが良い。地を這う豚!」
三体のゴーレムは大きな重力に潰れ掛け、巨体はそれになんとか耐え抜くものの足が地面にめり込み沈む。先頭にいた一体が前のめりになる上半身を起こしたところ、タムラの放つ矢が額に当たった。赤マナのトークンを仕込んだ矢は爆発し、『ハイルV』の頭に衝撃を与えて海老反りに仰け反らせると、半分埋められた脚の、脛の部分にレイゾーが斬り付ける。野球のバットのスイングのようにほぼ水平に横滑りした魔剣は、鉄の塊であるゴーレムの脚を見事切断した。
片脚となりバランスを狂わせ、仰向けに倒れた額にガラハドが馬乗りになり、タムラが矢を命中させた額の上から、もう一撃、拳を当てた。ガラハドの職能は騎士と格闘家だが、格闘家も様々であり、ガラハドが得意なのは打撃。スポーツで言えばキックボクシングだ。体格が恵まれているだけでなく、幼少より乗馬や剣、弓の鍛錬を続けてきたので、背筋、いわゆるヒットマッスルが鍛えられ、なおかつ拳に関していえば、重みを増すために手首に内側に向けて回転をつけて打っている。コークスクリューブロウと呼ばれる技術。
ゴーレムの額が割れ『emeth』の文字が消えた。見事に一体目は活動停止。そして二体目は、あっという間にレイゾーが大柄な剣で膾切りにしてしまった。三体目は内臓されたカラクリである腕を伸尺させる機能を使い、ガラハドに襲い掛かるが、メカンダーの盾で受けると、その盾に突き出た四本の棘が、逆にゴーレムの指に刺さった。ガラハドが腕を動かすとゴーレムの指が裂け、フックを打つとゴーレムの手首を捉え、前腕が捥げた。『ハイルV』の伸びる腕は、ストレートパンチを打つためには良い機能だが、伸びたところで横から衝撃を喰らうと脆い。
これまた、タムラの弓でこの隙に額を射られ、赤マナのトークンの爆発の炎で『emeth
』の文字を炙られた。そして、魔法の箒ルンバ君に乗ったマリアが突進し鎖付き鉄球を振り回してゴーレムの頭をどつきまわす。頭頂高十五メートル以上の『ハイルV』でもルンバ君に乗って空を飛べば頭を直接攻撃できる。
「おー、久しぶりにマリアの鉄球見たねえ。」
「やっぱ、アレはこええよな。旦那。」
「モーニングスターがあれば、マリアは魔法なんか無くっても無敵だよね。ガラハドの盾もハンパない。」
「おいおい、魔剣グラムを持ってるレイゾーが、それ言うか?」
三体のゴーレムの残骸を前にお喋りをしていると、南の空からカササギが飛んできた。気付いたのは、マリア。ルンバ君に腰かけたまま、カササギを凝視していると濁った声でカチカチと鳴いた。真っ直ぐにマリアに近づいてくると話し出した。
「マリア!ガラハド!」
「やっぱり!あなた、スクルドね?」
「サリバン先生、助けろ!」
ガラハドは途端に血の気が引き、顔色が悪くなった。普段のガラハドらしくない慌てた表情だ。
「サリバン先生がどうかしたのか?」
「魔女と戦ってる!助けろ!」
ガラハドとマリアが顔を見合わせ、頷いた。ガラハドはレイゾーとタムラに自分たちの育ての親であり、マリアの魔法の師匠だと説明する。
「場所は何処なの?」
「近く!」
「スクルド。案内して、早く。」
四人はまた魔法の箒ルンバ君に乗り、エルマー山の頂上から南を目指して飛ぶのだった。先程までとは違った緊張感に包まれて。
今回のネタ元は、闘将ダイモス。
「必殺 烈風 正拳突き!」