第92話 ヘアスタイル
魔法の呪文の名前は、ロックバンドの名前、曲名、アルバム名などから
いただいてますが、今回は特に多めです。
バルナックの城の地下で孤独な戦いを続けるサリバンは最悪の事態を想定し、使い魔である三羽のカササギに伝令を頼んだ。一羽は大陸の修道院へ。もう一羽はマリアへ。そして最後の一羽は、何処にいるのいかも分からない、修道院を孤児院として最初に面倒をみた息子同然の教え子へ。
(これで私が死んでも、後を継いでくれるでしょう。オズワルド、マリア、ガラハド、頼みますよ。)
骸骨戦士に続き、ミイラ男、動く死体などが続々と集まり、サリバンを取り囲む。どれも火に弱い魔物なのは承知しているが、ここは地下墳墓だ。迂闊に大きな火を出せば、自分自身も危なくなる。防御の為の魔法を併用しながらというのは、面倒な作業だ。そして大物の有害蠕虫も控えている。
「幾ら重ねようとも無益な言葉。言葉の数だけ犬死に無駄死に。地獄の山並み。針の山!」
「熱風!」
不死の魔物に対しては効果が薄いが、広い範囲を攻撃できる呪文も織り交ぜつつ繰り返し、移動範囲を確保しながらサリバンは孤軍奮闘した。持っている職能の一つが、刃物を扱うことを制限された高僧であり、武具を持っていなかったこともサリバンにとっては不利であった。
魔法の箒ルンバ君に乗り、飛行船フェザーライトを飛び出したAGI METALの四人はバルナックの中央付近のエルマー山へ全速力。飛行型ゴーレムはフェザーライトのオズマとメイが抑えているが、鳥の魔物が迎撃に空に揚がって来た。人面鳥が十体。人面は人語を話し魔法の呪文を唱え、足の爪は長く鋭く、鉄板をも切り裂く。マリアが注意を促す。
「魔物が来るわね。ルンバ君は、もともと武具ではないわ。生活道具としての性能は保証するけど、ぶつかり合ったら、あまり頑丈ではないわよ。上手く避けて。」
「近接戦闘はしないほうがいいんだな。しょうがねえ、アレ使うか。」
ガラハドはアイテム保管庫から二枚の円い盾を取り出した。盾というには小さい。ガラハドが大柄なので、ますます小さく見える。
「おっ、久しぶりだね。メカンダーの盾。いよいよ本領発揮?」
「小さい傷でもつけると、ホリスターがうるせえからなあ。ご先祖に失礼だとかってよ。どうせ直るし、傷を気にしてたら盾として使えねえだろうに。」
「まあ、大そうなご先祖様がいると、体裁とかでそれなりの苦労があるんじゃないのかねえ。なんたって、ドワーフの世界では伝説の名工だからねえ。」
レイゾーがからかうように話すが、ホリスターはドワーフ最高の名工と云われるメカンダーの子孫。そのメカンダーが製作した武具は伝説級の魔導具と呼ばれ、代々の権力者の手に渡ってきたが、その性能を活かせた者はほとんどいない。ガラハドが初めてといってもいいだろう。
AGI METALの四人が着込んだ甲冑はホリスターが製作したアダマンタイト製の特注品だが、ガラハドの甲冑の左右の籠手には、メカンダーの盾を取り付ける特別な金具を備えている。籠手に取り付ければ、盾を持ちながらも両手が自由に使える。この籠手と金具自体がアーティファクトであり、ガラハドの魔力を消費することにより腕の動きに合わせて向きを変えるなどの働きをする。
「じゃあ、ちょっくら空中戦を始めるかぁ。
気流と気迫。鳥と虫の羽根の音。ウンディーネを崇める者に祝福をもたらさん。風の従者!」
右肘を前に張り出し、投げ槍のように矢を持ったタムラがシアンのマナを使う六芒星魔術の呪文を唱えた。追い風を起こして自分の矢は飛距離を伸ばし、相手の矢は向かい風で叩き落とす。地味ながら攻防一体の補助魔法。
赤いトークンを鏃の孔に嵌め込んだ矢を投げると見事ハーピィに命中。火花を散らして落下していく。
「おお、さすがタムさん。やるねえ。じゃあ、僕も。
爆裂音よ鳴り響け。何処までも連鎖し衝撃を伝えよ。炎の導火線!」
落ちていくハーピィから赤い紐のような物がのびると、他のハーピィと数珠繋ぎになり火が伝わっていく。四つ、五つとハーピィが炎に包まれ、甲高い叫び声があがる。
残りの半数近いハーピィは、先頭を飛んでいたマリアを狙うが、そこに四本の棘が付いた緩く膨らみのついた円盤が回りながら飛翔し、ハーピィの頭を砕いた。ガラハドが投げたメカンダーの盾だ。メカンダーの盾は弧を描くと何事もなかったようにガラハドの腕に戻る。そしてマリアの攻撃呪文。
「言葉の数だけ犬死に無駄死に。地獄の山並み。針の山!」
無数の針が飛び残った全てのハーピィを撃ち落とすと、タムラの呪文の追い風の効果で速度を上げた魔法の箒はエルマー山の頂上を目指すのだった。
「こんな薄っぺらい鉄板のゴーレムなんぞ叩き落とすのは簡単なんだが、それじゃあ芸がねえな。」
「もう~、伯父様なにやる気なのよ~?」
「ありゃあ有人式なんだぜ。タロスをパクりやがって。乗ってる野郎をふん捕まえて捕虜にするのよ。拷問でもなんでもやって、できる限りの情報を引き出してやる。」
「へー、そう。新しい情報があるといいわねー。」
「おい、セリフ棒読みすんな。やる気なさそうだな、メイ。」
「細かいことは気にすんなって、いつも言うのは伯父様ですけどー。」
「あー、わかったわかった。んじゃ、やるぞ。」
船の舳先で腕組をしたオズマは、真っ直ぐゴーレムの群れの真ん中へ突っ込むように指示を出し、呪文の詠唱を始めた。
「時の精霊の魂に願い奉る。古の祭壇、未来の燭台、零れ落ちる砂時計を止めて一粒の砂の色を民に伝えるために、その御業を示し給え。背徳の掟!」
「あら。雑魚相手に随分な大技を使うわねえ。余裕で勝っちゃうみたいに言ってたのに。」
これは魔導士や魔女にしか使えない五芒星魔術。その中でも特に難易度の高い、時間を止める魔法。宙に浮いてピクリとも動かない飛行型『メッサーV』に飛び移り、ハッチをこじ開けてはコックピットの魔法使いを引きずり出し、フェザーライトの甲板に担いで連れて行く。
「さすがに疲れるな、時を止める呪文は。」
呪文の効力を失うと、飛行型ゴーレムは海へ堕ちて行き、拘束された四人の魔法使いたちは気が付くとあたふたと慌てだす。オズマは細かい説明はなし、お前らは捕虜なので逆らえば命がないとだけ伝える。
そしてメイに、自分は疲れたので、代わりに捕虜に尋問するように言うと、甲板の真ん中で大の字になって寝てしまった。よくこんな所で眠れるものだ。
「まったく、もう。酔っ払いか、このオッサンは。」
メイは、オズマが起きるまで放っておこうかとも思ったのだが、捕虜の扱いも面倒なのでさっさと済ませてしまおうと思った。メシだのトイレだのと騒がれたら煩わしい。
ただ、敵とはいえ、手荒な真似もしたくはない。オズマが起きていれば、オズマは精神干渉して自白させる黒魔術も使えるのだが、メイにはそれは不可能。
どうしたものかと考えあぐねたメイは、成形のエンチャント呪文を活用することで、情報の自白をさせようと思いついた。
「今から貴方たちに変身の呪いを掛けるわ。私の尋問に答えなければ、一生そのまま元の姿には戻れないから、覚悟しなさい。」
呪文が詠唱できないように猿轡をされた魔法兵たちは、涙目で大きく頷く。カエルにでもされると思っているのだろう。
「お日様の下を歩けない恥ずかしい髪型に変えてやるわー。」
四人の男たちの髪型は、それぞれ、リーゼント(正確にはポンパドール)、アフロ、パンチパーマ、丁髷になった。自分でやったことなのに、思いっきり吹き出すメイ。大声で笑い、捕虜たちは阿鼻叫喚。
その声で目が覚めたオズマも捕虜たちの姿を見て笑い出した。
「ぎゃはははは!よし、この髪型のままで帰してやろう。」
「きゃははははは!ウケるーー!傑作だわ~~。」
「おまえの悪戯の才能は世界一だ。さすが俺の姪っ子。」
ガラハドが持つ「メカンダーの盾」のネタ元は、
「合身戦隊 メカンダーロボ」です。