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撃てるんデス! ~自衛官の異世界魔法戦記~  作者: 井出 弾正 (いで だんじょう)
第7章 反攻
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第91話 達成

 「西側の海岸から上陸してきたリザードマンのようなゴーレムが三体。ヒト型が二体。装輪型が二体。まだ逃げられず街に残っている市民や捕虜になった兵士がいるから、クラブハウスの街には入れない。障害物もないこの郊外で、地形を生かした戦術なんてものはない。力でねじ伏せるのみ。

敵ゴーレムが街に入り込んだ場合には、深追いせず撤収だ。街に被害を出すわけにはいかないからな。

今回の作戦目的は、飛行型ゴーレムの活動拠点を叩くこと。我々はクラブハウスの地上型ゴーレムの動きを抑える役目だ。

 マチコ、クッキー、やれるか?クララ、どれも見失うな。」


 サキが作戦目的と状況を確認。それぞれに声を掛ける。直ぐに応えるのはクララだ。


「後ろにはワニが一体だけ。崩すのは、ここかしらー?」

「まあ、まだどんな相手か分からない初顔合わせの水中戦型だがな。数は重要だな。」


 方針は決まった。まず後ろにいるリザードマンのようなゴーレムを葬る。退路も確保できるはずだ。


「楽勝だわ。バトルロイヤルでもあたしは勝ちまくりよ。」

「じゃあ、早速。曲射弾道砲(トレンチモータル)!」


 メイに教わった二つ目の自動追尾式の火力呪文を詠唱(キャスト)。相手が障害物の陰に隠れようとも曲がって飛び命中してくれる便利な魔法の矢(マジックミサイル)だ。タロスの前面の地面に浮かんだ二重の五芒星の魔法陣から光弾が垂直に、天を目指して撃ちあがる。


「続いて超信地旋回(スキッド・ロウ)!」


ほぼ百八十度グルリと対象を回転させ前後を入れ替える、これも五芒星魔術(ヘキサグラム)の補助呪文。対象はタロス。瞬きする間もなくタロスがクルリと後ろを向いた。


衝撃(ショック)!」


 基本的な火力呪文でそれほどの威力はないものの、使い易い火力呪文。ついさっきまで、真後ろにいたイグアナゴーレムに奇襲攻撃だ。目眩ましとしては十分。呪文詠唱と同時にマチコはタロスをダッシュさせ、水中戦対応型の顔面を焦がすと直ぐに、タロスの右前腕の肘の内側がトカゲの鼻先を殴打。


「あらら、ラリアット失敗。ちょっと高めに入っちゃったわね。首を狙ったんだけどねー。」


 マチコは失敗と言いつつ、すぐさま肘打ちでの連続攻撃を喰らわす。背後では、装輪型の『ティーゲル』の一体が頭上から曲射弾道砲(トレンチモータル)の光弾を受け、炎上した。一般的に、戦車も上面は装甲が薄い。ゴーレムだって実用面を考慮すれば、前面は頑丈でも、上面はそうでもないだろう。この呪文には手応えありだ。


 続けてマチコは打撃から投げ技へ。リザードマン型の腕を掴むと半回転して引きずり回し、腕を下に引っ張って、いかにも重そうなゴーレムの身体を地面に転がした。合気道の『交差腕極め投げ』だ。マチコはタロスの片手の指先を地に横たわるゴーレムに向ける。


「クッキー!」

五指雷火弾(ボルテスファイブ)!」


五条の光の帯がゴーレムの額に集中し『emeth』の文字を焼いた。これで一体は片付けた。退路は確保できるだろう、と思っていると、動かなくなったイグアナ型の尻尾を掴み振り回す。ゴーレムの身体が浮いた。

実を言うと、俺はこの時点で怪獣のようなゴーレムと戦い、斃したことで涙が出そうなほど感激していたのだが。マチコには男のロマンは分からない。


「うわ、姐さん、すげえ!」

「マチコ姐さーん、いつもながら凄いです~。」


 タロスは盛んに足を動かし、同じ地点でグルグル回っている。そう。これは、俺が初めてタロスに乗ったとき、サキとシーナと俺の三人で、自律式で格闘したタロスが『ハイル』に掛けた技だ。ジャイアントスイング。サキが、タロスはマチコの動きを学習していると言っていたのが、これで良く分かる。

水中戦対応型ゴーレムの太くて頑丈な某怪獣王のような尻尾の長さの分だけ遠心力が付き、余計に力強く回っている。ぶん投げた。『ハイルV』の一体に激突。ここでタロスがバランスを崩して倒れたりしないのは、マチコの運動能力の高さのおかげだろう。


「サキ、あのトカゲみたいな水中戦対応型のゴーレムなんですけど~。少し情報掴んでおきたくなぁい?」

「とりあえず、名前は『ワルター』だな。」

「えっ、なんで知ってるんです~?」

「サキぃ~、隠し事はないんじゃないのー?」

「ん、忘れたか?私はマスターオブパペッツと呼ばれているんだぞ。自動人形(オートマトン)を一体、クラブハウスにも潜り込ませたままだ。身バレしないように動かないで聞き耳を立てるようにと指示してある。案山子みたいなものだな。」


(い、いつの間に?抜け目ないな。さすがパーティリーダーというべきか。)


「遠くまで移動したゴーレムやオートマトンは回収が面倒だからな。そのまま戦略拠点になりそうな場所まで歩かせて、魔力が掛からないように情報だけ拾わせている。

 今はクライテンにもオートマトンが一体。それと、コーンスロール半島の南端にストーンゴーレムが置きっ放しだ。ん、マチコ。右の車輪ゴーレムを狙え。」


 それは、元の俺達の世界グローブだったら、偵察用ドローンを使える能力(スキル)じゃないか。海を渡れたらバルナックの様子まで探れる。相手によっては、直接的な戦力にもなるし、クァールという黒豹みたいな強力なモンスターも召喚できる。このサキという男、とんでもない実力者だ。


「俺、サキが敵じゃなくて良かったよ~。」

「あ、あたしもです~。」

「あたしの男なんだから、盗ったら許さないわよー。」


 マチコは軽口を叩きつつ、右側にいる装輪型の『ティーゲル』にドロップキックを見舞い、動きを止めると続いて回し蹴り。背後に回り込んで下半身にあたる車体部分に乗り、片足は背骨に当て、顎を掴んでエビ反り状に引いて、首や背骨にダメージを与える。上半身のみの変形駱駝固め(キャメルクラッチ)だ。こういった連続攻撃は元プロレスラーのマチコならでは。

このサキとマチコ。ガラハドとマリア。どっちが強いんだろう?二組でユーロックス最強アベック決定戦でもやったら、とんでもない興行収入あるんじゃないだろうか?


「海と大地を貫き、酸と熱を含んだ(もり)の残撃。大地の神託を悟り、ガイアの祭壇を囲んで祈れ。増幅された歴史(ハイルング)!」


 そして、サキが金属疲労を起こさせる地系のソーサリー呪文を唱えると、ついに装輪型ゴーレム『ティーゲル』の胴体をへし折った。バキバキと音をたて引き千切り、タロスが鉄の塊のバラバラ死体を作っている。


 これで、残りは『ハイルV』が二。『ティーゲル』が一。『ワルター』が二。全部で五体。だいたい半分を片付けた。方向としては北と西に敵ゴーレムが固まっている。クラブハウスに駐屯しているゴーレムを釘付けにするという目的は果たし、撤収するのならば良いタイミングと言えそうだ。作戦として、サキの判断はどうなんだろうか。


「そろそろ潮時だな。撤退しようか。今ならば包囲されない。逃げ道は確保されている。追ってくるとしても、おそらく車輪ゴーレムのみだろう。」


 サキは戦果(スコア)四体のうちのティーゲル一体とワルター一体を完全に破壊していないのが気になっていた。効率良く『emeth』の文字を消して活動できなくしてやったが、此処は敵の勢力圏内。多少の手入れをして額にまた『emeth』の文字を刻めば復活する。


「中途半端にでなく、完全に止めを刺さないと、ゴーレムはまた動くかもしれない。額の文字を消した二体を破壊したいところではあるが・・・。」


 実は、この戦闘中も目立たない場面で、火の精霊ジラースと地の精霊オキナが力を貸してくれていた。直接接触していないゴーレムの車輪をスリップさせたり、足の裏を焼いたりと妨害してくれていたのだ。いかにタロスとシルヴァホエールのパーティが強いとはいえ、決して楽に戦っていたわけではない。


「サキ、俺も同じ考えだけど、長引くとこっちの体力がもたないんじゃないか?退却は余力を持ってやるべきだ。」

「そうだな。退却しよう。目的は達成だ。

 クッキー、火力呪文で弾幕を張れ。マチコ、しばらく後ずさりで移動。クララ、後方を警戒してマチコを誘導しろ。私は魔法防御に専念する。」


 サキが独断的でなく、メンバーの意見をきいてくれるリーダーで良かった。ちょっと陸自の10式戦車に乗る先輩たちを思い出した。


「マチコ姐さん、やるよ!」

「はいな!」


 タロスは両手を地面に水平に挙げ、手を開いた。指先から十条の魔法の矢(マジックミサイル)を放ち、何度か繰り返してから超信地旋回をして、セントアイブスの方角へ走り出した。これで今回の俺達の役目は果たした。


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