第90話 交戦
ブライアン隊が撤退したエルマー山。撤退したのはブライアン隊だけではなく、サキの使い魔である木菟のリュウもそうだった。リュウはエルマー山の上空から、頂上の奇岩の南側に陸上型のゴーレム『ハイルV』が飛行型ゴーレムを運ぶ様子を確認した。それを主たちに伝えるために今全速力で翔んでいる。
ブライアン隊が奇岩の周辺にまで入り込んだことで、飛行型ゴーレムの『基地』に当たる場所を探られたと判断したバルナック軍は、現存の飛行型ゴーレムの全てを発進させた。飛行型ゴーレム『メッサー』は、元々この奇岩の上から飛び出して風にのることで離陸できる。改良型の『メッサーV』は有人とし、乗り込んだ魔法使いが風の魔法を使い飛び上がるのだが、その魔法使いが地上への攻撃をも魔法で行う。結局、魔力をセーブするため、離陸時には乗り組む魔法使いは、魔法をできるだけ使いたくない。外側からの魔法の力で飛ばすために、奇岩の上にはゴーレムを飛ばすためだけの魔法使いが控える。
この情報がミッドガーランドに漏れたとなれば、バルナックが優位に立つ要素、空軍が壊滅の危機である。奇岩を壊されたりする前に『メッサーV』は飛び立たせ、そのままミッドガーランドへ攻め込ませてしまえ、というわけだ。
『メッサーV』はリュウを追っているわけではないのだが、リュウの後方を同じ方向、ミッドガーランドへ向かっている。バルナックのエルマー山を目指すフェザーライトと鉢合わせだ。
「おうおう。バルナックの飛行型ゴーレムが見えるぜぇ。やる気らしいなぁ。」
「伯父様。まだ遠いわ。近づいたらドンパチやるわよ~。」
オズボーンファミリーはやる気満々だが、ガラハドは一寸ボヤいている。飛行型ゴーレムとフェザーライトの魔法、空中戦では出番がない。
「おいおい、早くエルマー山へ行って降ろしてくれよー。弓矢も使えるけどな。俺は近づいてぶん殴るのが専門なんだよなぁ。」
「まったく、もう。文句言ってないで弓矢使いなさいよ。元騎士なんだから、弓の鍛錬は当然でしょうに。」
「はいはい。イチャイチャしない。まあ、弓ならタムさんがやってくれるけど。ガラハドは、久しぶりにアレ、使ってみたら?」
AGI METALの英雄たちは、一見お気楽に振舞ってはいるが、タムラは入念に弓を引き絞っては、弦のチェックをしている。それにタムラは視力も良いし、観察力もある。リュウが向かってくるのを見つけた。
「おい、アレ。」
「タムさんも俺にあの盾を使えって?」
「いや、そのアレじゃなくってよ、アレだよ。」
タムラが指差した先には木菟が飛んでいる。あちらからは、とっくにフェザーライトに気付いているはず。ピィーッと鳴いた。
「ああ。サキのペットのリュウちゃんだねえ。おいでー。」
レイゾーが腕を挙げると、その鎧の籠手の上に飛び込んできた。鷹匠のようである。バサバサと翼を折り畳み、一拍置いて喋り出した。
「エルマー山の頂上に大きな岩。南側からゴーレムを運ぶ。岩の上からゴーレムが飛び立つ。ブライアンのパーティ、怪我をして山を下りた。」
皆、静かにリュウの話を聴く。
「そうか。怪我で山を下りたか。とりあえず、ブライアンのパーティは生きてるよね?」
「生きている。怪我をしたのは、僧侶のフレディ一人だけ。」
「回復役が怪我をしたからか。分かったよ。ありがとう。」
ここからは、レイゾーがリーダーらしく方針を決めていく。的を得ているので、誰も異存はなく決定していく。
「さて、目的は飛行型ゴーレムが離着陸するであろう施設を叩いてジャカランダへの空襲を防ぐことだ。今まだ遠くに見える飛行型ゴーレムは無視してエルマー山へ向かう。エルマー山で僕たちがフェザーライトを降りたら、御苦労だがオズマとメイは引き返して飛行型ゴーレムを撃ち落としてほしい。ただ、飛行型ゴーレムがすれ違いせず、このフェザーライトを狙ってくるかもしれない。」
「その場合は交戦よね。あたしだけルンバ君で、先にエルマー山へ向かおうかしら?」
「そうなんだよ。そうしてくれる?」
マリアの提案はすんなり通った。マリアは一人でも目的を果たす気だ。」
「それなんだけどよ。冒険者ギルドの掃除してるルンバ君2号、俺、持って来たぜ。」
「ああ、やっぱり?考えることは一緒だねえ。僕も取調室のルンバ君3号、持って来てるんだよ。」
ガラハドもレイゾーも魔法の箒ルンバ君をギルド、店の事務所から持って来た。ルンバ君を創ったマリアも、これには一寸驚いた。
「あんたたちは、変なとこ気が合うのねえ。パーティ組んで正解じゃない?」
「えー、ルンバ君を創った本人が、それ言う?」
「まったくだ。こんなもんに乗って飛ぶの恥ずかしいんだからよお。」
「パーティ組んで正解って言ったでしょ?あたしは、家に置いてあるルンバ君のオリジナルと、探索者ギルドのルンバ君1号、両方持ってるわよ。」
タムラが驚く番だった。ルンバ君が四つと言う事は・・・。
「おい、ちょっと待て。それは俺も使うってことか?」
「「もちろん!」」
「箒に乗ったまんま、弓は使えないぞ。」
「いやいや、タムさんの職能は狙撃手なんだからよ。六芒星魔術が使えるじゃねえか。魔法で戦えばいんだよ。」
「そうだねえ。僕は、タムさんが格闘戦で鉈を振りながら、もう片方の素手で矢を投げるのを見たことがあるよ。タムさんなら、なんでもあり。」
AGI METALメンバーで、話している脇からオズマとメイが入り込んだ。話している間にもインヴェイドゴーレムが近づいてくるためだ。
「おーい。そろそろララーシュタインのポンコツどもと接触するぞー。俺が相手すっから、隙を見て箒で飛び出せよ。」
「伯父様たち、あまり高度を下げないでね。爆弾とやらを投げてくるから。」
「いいんだよ、こまけぇこたぁ。」
敵は四体の『メッサーV』だ。両手に二発の爆弾を持ち、乗り込んだ魔法使いによっては魔法攻撃がある。そして爆弾を放ち手があけば爪の攻撃などもあるだろう。
フェザーライトは、オズマとメイの魔法攻撃なので、間合いを取って戦う。近づいたら不利だ。ただし、フェザーライトもタロスと同様に魔法の威力を増幅する機能がある。
オズマが火炎弾の魔法で先手を打つと『メッサーV』が散開。続いて周辺に火力を撒き散らし、狭い範囲に集めるように仕向けると、メイが俺と交換で教え合った呪文を詠唱。
「チャンス!捻り!」
一番高い位置にいた『メッサーV』が前のめりに半回転。バランスを失い落下して、別のもう一体に激突した。二体とも墜落するかと思われたが、原型の『メッサー』と違い魔法使いが乗り込んでいるメリットとして、風の魔法を使い姿勢を制御して持ち直した。
しかし、レイゾーたち四人が船を飛び出すには十分な隙ができた。ルンバ君に乗ったAGI METALが出発。フェザーライトは四体のゴーレムとの戦闘態勢に入った。
船の舳先に移動したオズマは、両手を大きく開きゴーレムを挑発する。裾の長い黒い衣服が風にたなびく。
「さあ、掛かって来い。容赦しねえぞ。」
その頃、クラブハウスでは、海峡を荒し、ミッドガーランド水軍を手玉に取っていた水中戦対応型のインヴェイドゴーレム『ワルター』が三体、バラバラの位置から陸に上がり、『ハイルV』『ティーゲル』と一緒にタロスを包囲しようとしていた。周囲警戒担当のクララがサキに報告する。
「サキ、新手のゴーレムが上陸します。水軍の生存者や捕虜の情報にあった水中対応型。トカゲかサンショウウオみたいな恰好のヤツ。」
「マチコ、クッキー。できるだけ海には入るな。地上で戦うぞ。」
「「了解。」」
ルンバ君は、
オリジナル マリアの自宅
1号 探索者ギルド 2号 冒険者ギルド 3号 レストラン取調室
4号 クララの自宅 5号以降 冒険者向けの貸家
を掃除しています。