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撃てるんデス! ~自衛官の異世界魔法戦記~  作者: 井出 弾正 (いで だんじょう)
第6章 乱戦
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第83話 郊外

今回のネタは

蒼き流星レイズナー

 身長四メートル近く。巨人の類に入るだろうという大きさのデーモンのレッドだが、今回はさらに大きな二輪の機械に跨っている。どう見てもバイクだ。ヒッピーっぽい。

 そのバイクに、タムラは見覚えがあるらしい。表情がちょっとげんなりしている。


「なんだ、ありゃあ。VMAXじゃねえか。」

「ブイマックス?えーっと、それはアメリカのアニメ映画に出てくる白くてプニプニしてるロボットですかね?」


あまりに現実味のないビジュアルなので、俺としては、ちょっとボケてみた。


「ちょっと、何言ってるか分かんないわね。」


マチコが突っ込んでくれたが、甘い。鋭さに欠ける。


「いやいや、YAMANA(ヤマナ)VMAX(ブイマックス)ってえ、日本では最大級のバイク。それにしてもデカ過ぎるけどな。悪魔サイズだ。なんでデーモンがあんなモンに乗ってんだ?」


レイゾーは赤い顔をして口を押え笑いをこらえている。


「ぷぷっ、デーモンが黒いバイクに乗ってるなんて、ベッタベタの悪者じゃないか。テレビの見過ぎですか?てか、革ジャン着ないの?」


「ビビッておるようだな。コイツの名は『フォロン』。参謀のウィンチェスター殿より賜った特製のアーティファクトだ。」


グローブからの転移者三人の会話の内容を理解しないレッドは得意気になっている。さらに調子に乗って左手にハンドガンを握り脇を締め、銃口を上にして構えた。


「ぶははははっ!あー、もう駄目!シュワちゃんかなんかのつもり?!三男爵ってのは、お笑い枠に決定だね。」

「なんだよ、ワイルド(セブン)か?ウィンチェスターってのは日本かぶれなのか?日本人としては歓迎するぜ。」


レイゾーとタムラは腹を抱えてゲラゲラ笑い出した。


「何がおかしいのだ?!」


 頭に血がのぼったレッドはハンドガンをレイゾーに向け引き金を引いた。だが、すぐに反応したレイゾーは腰のバスタードソードを抜刀しハンドガンの銃弾を(はじ)いた。アダマンタイト製の重装の板金鎧(フルプレートアーマー)を着込んでいて、こんな動きができるものなのか。俺はパーティ名の『AGI METAL』の由来をあらためて実感した。

 ちなみにアダマンタイトとは、メイが初めて会ったときに教えてくれた三大希少金属のひとつ、アダマンチウムの合金だ。あまりに硬度が高くて加工しにくいアダマンチウムの純度を落とし、加工しやすくするために(すず)やニッケルを混ぜる。当然硬度は落ちるが同時に粘りがでて割れにくくなるという。鉄ならば焼きなましの代わりの技術だろうか。ホリスターに教わった。さすがドワーフの職人の親方。


「遅い。貴族級悪魔(アークデーモン)だって聞いたけどな。こんなもん?」

「おのれ。その不遜な物言い、後悔させてやろう。」


 レッドの背後の物置の壁面にある、通って来た渡りの(ポータル)から、生物(クリーチャー)魔物(モンスター)の群れが次々と出て来る。熊より怖いと言われる大型のイタチの仲間クズリ、それに双頭犬(オルトロス)。三男爵の中でも、召喚術の得意なレッドは獣を引き連れてきていたのだった。


「そういえば、恐竜を召喚したのは、コイツらしいんだよな。忘れてたよ。」


 ストレージャーから短槍を取り出し構える俺を見て、サキが言う。サキは腰のサーベルに手を掛けるが、まだ抜いていない。


「ふん。恐竜ならば、私も召喚できるが。どうやらマナを喰うらしいと分かったからな。今となっては、どちらの側でも禁じ手だな。別のモノを召喚するか。」


 サキが召喚魔法の呪文詠唱を始めるやいなや、クララがダガーを投げつけ、マチコは籠手の電撃を撃つ。タムラは対トリフィドクロスボウを使い、逆反りの鎌の刃を飛ばすとオルトロスの双頭の首を二つ一遍に斬り落とす。レイゾーは単独で前に出て、クズリの爪を躱しては、バスタードソードを振るいながら前進していく。俺は衝撃(ショック)のインスタント火力呪文を撃つ。相手の数が多すぎる場合には無暗に突撃はできない。まずは距離をとって火力で隙を伺う。


「オキナ!土の壁だ!」

「ほい。お安い御用だ。」


地の精霊ノームのオキナに防壁の作成を頼み、近づいてきそうな魔物から片っ端に撃ちまくる。オキナはクララとマチコの前に土を板状に固めた盾を創った。


「静寂に響く猛獣の咆哮。闇夜の月の影法師。熱くて暗い地底より来たれ黒い破壊者。召喚(サモン)クアール!」


サキの呪文詠唱が終わると地面の六芒星の魔法陣からクロヒョウに似た大きな獣が現われた。なめらかな身体に太くて長い四肢。頭には耳の代わりに巻きひげのような物があり、肩からは長い触手が伸びている。


「さあ、行け!クアール!ゴーレム以外では、お前がとっておきだ。蹴散らせ!」


 召喚者サキの命令には従うが、残忍狡猾といってよいクアールは、オルトロスの頸を噛み砕き、肩の触手でクズリの背中を打ち、爪で肉片におろしていく。敵が大型の魔物でもたじろぐことなく正面から向かって行く無謀ともいえる戦い方は、クズリもクアールも一緒なのだが、能力的にはクアールが数段上であった。とはいえ、多勢に無勢。俺達クランSLASHとレッドの手勢の魔物とで、乱戦となった。乱戦となれば範囲攻撃の魔法も、マチコの電撃も使いにくい。タムラは弓ではなく、刃長の長い(ナタ)を両手に持ち、まるで得物を捌くように切り払っていく。バルナック側でも、俺達の戦力戦術を分析しているのだろう。隙をついてはレッドがハンドガンを撃ってくるのだが、その度にレイゾーの剣に防がれる。


 その乱戦の喧噪の中で、馬の蹄の音が聞こえてくる。数は…三頭。方向はジャカランダの城から。振り向いてみると、騎手の一人はガウェインだった。かつてのガウェインの弟アグラヴェインの部下であった水軍の旗艦ブルーノアに所属していた魔法使いシイラとバイソンが一緒にいる。


「マナの流れに乱れがあるから来てみれば、ビンゴだったな。見つけたぞ。悪魔め。私はジャカランダ宮廷騎士団長ガウェインだ。貴様の首級(みしるし)をもらいに来た!

 シイラ、バイソン、乗組員(クルー)(かたき)だ。派手にやれ!」


 それぞれ水と風の魔法を得意とする二人がウォータージェットカッターと暴風の呪文を使い、獣とクランSLASHの乱戦に割って入る。増援は有難いが、魔法使いの彼らが近接戦闘(クローズコンバット)をどれだけこなせるだろうか?船乗りながら馬の扱いに慣れている様子なので、二人とも騎士としての訓練をしっかり受けていると思われるが。いや、俺も魔法使いなのだが。その前に自衛官だ。格闘術も身に付けている。彼らの前に出ようと決めた。馬に蹴られないようにだけは気をつけて。


 しかし、さらに俺よりも前に。レイゾーよりも前に出るガウェイン。大振りな剣と盾を持ち、真っ直ぐにレッド男爵に突っ込んで行く。巨人とも言えるサイズのデーモンだが、VMAXに似たバイクに跨っており、普段より少しだけ目線の位置が低い。騎乗したガウェインならば、レッドの上半身を狙える高さにはなっている。

 『フォロン』が大きな破裂音とともに前輪を高々と挙げると、ガウェインの馬は驚いて止まってしまった。この世界では見たこともないだろう。仕方がない。騎乗で戦うことに見切りをつけたガウェインは、さっさと馬を降り、剣と盾を構えた。


 皆、獣と戦いながら、ガウェインとレッドの対戦が気になっているが、かつてパーティメンバーとして一緒に戦った経験のあるレイゾーだけは落ち着いている。


「ガウェイン、やれるな?弟の仇だなんて、肩に力入れ過ぎるなよ。」

「言われるまでもない。レイゾー、雑魚は任せるが、いいか?」

「わかった。」


 突起(スパイク)の付いた凶悪な車輪で脅すように、前輪を地面から浮かせたウイリー走行で、レッドはガウェインを轢き殺そうとする。盾で防ぐが、その盾は車輪の突起(スパイク)でガリガリと削られ、ボロ雑巾のように裂けてしまった。


 盾を捨て、剣を背中の鞘に納めたガウェインは、ストレージャーから別の武具を取り出した。二つ一組、打突武器であり防具でもある『トンファー』だ。


「こういう変わった相手には、リーチが短くても攻防一体の武具が使い易いな。久しぶりに使うが、面白くなってきた。さあ、掛かって来いよ。ヤギ野郎。」

「人間というのはああ、本当に不遜だなあああ!」


 レッドはハンドガンを六発の弾丸を使い切るまで、ガウェインに向けて撃ったが、すべて素早く回転するトンファーが弾いた。


メガゾーン23 PART II で

TRASH のライトニングが乗ってるバイクが ヤマハ VMAX です。


ガウェインの武器を特徴のあるモノにしたくて、思いついたのがトンファーでした。

琉球武術とかで使われる武具なんですが。

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