表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
撃てるんデス! ~自衛官の異世界魔法戦記~  作者: 井出 弾正 (いで だんじょう)
第6章 乱戦
84/240

第82話 方針

お陰様で、ブックマーク登録数が100となりました。

ありがとうございます。

 クララとメイに鍛錬に付き合ってもらったお陰で、俺は二つの新しい魔法の矢(マジックミサイル)呪文を身に付けた。俺もメイに新しい補助系の呪文を教えた。お互いに利のあることで、大変有意義だった。

 そろそろ日も傾いてきたので、夕飯の話をした。マチコは取調室にいるはずなので、家に帰らず外食にしようという事になった。


「取調室で味噌を作るって言ってたなあ。」

「ミソ?クッキーさん、なんです、それ?」

「俺達のグローブの故郷の調味料だよ。大豆から作るんだ。」

「チョーミリョー?」

「メイは調味料を知らないか?ビネガーとかと一緒だよ。料理で使う。食材に味を付ける物。」

「ああ、はい。全般を指してチョーミリョーって言うんですね。」


 雑談をしていると、その取調室からシーナが俺達を呼びに来た。走って来たようで、手を振りながら息を切らしている。


「ああ、いたいた。クッキーさん、クララ、メイちゃん。クランの本部からお呼びが掛かってますよー。」

「レイゾーさんから?なんでしょう?了ちゃん、メイちゃん、行きましょう。」




 クランSLASHの本部であるレストラン取調室に着くと、まず出迎えたのはタムラ。俺達に肉まんを差し出した。


「腹が減っては戦はできぬ。それ食っとけ。」


一瞬で空気が重くなったように感じる。俺達三人とも表情が引き締まった。


「場所は何処です?敵の戦力は?」

「ジャカランダだが、まあ、落ち着け。レイゾーの旦那から話す。」


 奥の個室に入ると、顔ぶれは、レイゾー、タムラ、サキ、マチコ、オズマ、それにドワーフの職人の(かしら)ホリスター。ガラハドとマリアは所用で出掛けているそうだ。


「早速だけどね、食べながら聴いてくれ。一応、軍からはララーシュタインのインヴェイド・ゴーレムに対抗するためシルヴァホエールは軍からの要請でいつでもタロスを運用できるようにとのことだが、AGI METALについてはセントアイブスの防衛が任務だ。

 だが、このままでは勝てない。後手後手に回るばかりだからね。大きな被害が出る。今後、クランSLASHの方針としては、軍の指示を待たずに行動していこうと思う。」


 サキが真っ先に賛成した。そして、そのためにオズマにホリスターを連れてきてもらったと。レイゾーは話を続ける。


「魔法通信が入った。またジャカランダに飛行型ゴーレムが来ているらしい。オズマとメイはフェザーライトで王都に向かってほしい。あとの皆はフィールドウォークで先に移動するよ。ホリスターさん、留守を頼みます。この店のスタッフだけで、ある程度のことには対応できるし、ロジャーたち騎士団もいるから大丈夫だとは思いますけどね。」


 レイゾーは話しながらブーツの留め具を締め直す。タムラもストレージャーの中のトークン付き(やじり)の矢、対トリフィドクロスボウの刃の数を確認している。


「それじゃあ、腹ごなしだ。食べたら出掛けよう。」


手袋を着けながら、タムラがレイゾーに応える。


「さて、ちょっくら戦争してくるか。」




 飛行型ゴーレム『メッサー』『メッサーV』の空襲を受け、真っ先に応戦に向かったのは、第四王子のゴードンだ。クライテン奪還作戦のときと違い、マリアの発案で作られたトークンを嵌め込んだ(やじり)による魔法の効果を持った弓矢の攻撃があり、一般の弓兵にでも手柄を立てるチャンスがあると皆の士気が上がる中、手柄の横取りでもないだろうが、ゴードンは投げ槍(ジャベリン)を低く飛び交うメッサーに投げつけた。

 この時、メッサーは翼である両手に爆弾を持っていた。ウィンチェスターがこの世界にもたらした火薬による物だ。ゴードンの投げ槍(ジャベリン)が翼を貫き、羽根代わりの被膜が裂け、真っ逆さまに落ちそうになるとメッサーは両手の爆弾を放り投げた。ジャカランダ城の外壁が()ぜる。二発の爆弾の片方は郊外に落ちたが、一発で城壁の一部に穴が開いた。この大きな音と衝撃にジャカランダ城下の市民は恐怖した。ユーロックスにない新兵器に驚き逃げ惑う。


「一発無駄にしたか。まあ、いいだろう。あと六発ある。」


 ガンバは半分不愉快なようだが、爆弾の破壊力には満足している。通常の攻城兵器では壁を簡単に破るなどということはない。大掛かりな魔法やアーティファクト、ドラゴンの吐くブレスでなければ無理だろう。市民のパニックを抑えようとトリスタンとパーシバルが駆け回っては市民一人一人に声を掛けると、アランも続く。

レイチェルとジーンは、水の精霊、光の精霊がすっかり馴染み、職能(クラス)としては白魔術士(ホワイトマジシャン)の適性を得ていたので、怪我や驚いて過呼吸、動悸を起こした負傷者の手当てに当たっている。それを見たアランは驚きを隠せない。


「まだ子供なのに、魔法が使えるのか?二人とも?」

「アラン様こそ、風の精霊と契約しているではありませんか。」

「それは、つい最近のことだし、王族という立場で皆に協力してもらったからで。」


魔法を使えないパーシバルからすると、どちらも羨ましい。魔法を使えない分、槍の腕を磨き上げ評価を得て来た。今、この飛行型ゴーレムの空襲にも直接には役に立てていないのがもどかしい。

 ライオネルやダゴネットといったベテランの騎士たちもメッサーVの要撃に忙しく動き回り弓を構えていた。そのメッサーVの手からは爆弾が落とされ火災が発生し、ますます戦闘は激化していた。




 世界の野を所狭しと移動して自由に活躍する冒険者たち。領域渡り(フィールドウォーク)という特殊な移動手段を用いてあちらこちらに出没するわけだが、この移動法、まったく制限がないわけではない。どこにでも現れたら、たまったものではない。生活面ではプライバシーの侵害になるし、軍事面ではあっさりと進軍や奇襲ができてしまう。

 じつは、この領域渡り(フィールドウォーク)と探索者が使う迷宮渡り(ラビリンスウォーク)は魔法の一種である。呪術師(エンチャンター)が掛ける永続魔法(エンチャントマジック)により、魔法使い(マジックユーザー)でないものにまで魔法を使えるようにするもので、それなりに大掛かりだ。

 四極魔術(ダイヤグラム)の中でも、クリアーの色のマナか、時の精霊との取引によって行使される時間魔法と、同様にグレイの色のマナか、空の精霊との取引による空間魔法との組み合わせと、複雑な要素が絡む。マナが豊富にある場所で、大きな物理的な魔法陣、つまり魔法使いが魔力で浮かび上がらせたものでなく、引っ掻きや墨、顔料で描き記したりした「物」としての魔法陣を使い、魔法陣の中心に被付与術者を置き、能力を付与させる。

 そのせいで、場所としては城などの大きな施設に併設される聖堂などに限られ、ギルドではマナの代わりにマナの小さな結晶であるトークンを消費することで、ギルドの事務所奥に設けたやや小さい規模の神殿で行っている。聖堂や神殿でエンチャンターが、冒険者(探索者)にエンチャント魔法を掛けることで、渡りができるようになる。

 そして実際に冒険者が渡り(ウォーキング)を行うのにおいて、冒険者が魔法使い(マジックユーザー)である必要はない。魔力さえあれば、その魔力を消費して渡りを行える。ただし、魔力がなければならないが、無い者は代わりにトークンを消費することでも可能。普段目に見えないマナの結晶であるトークンは、この世界のエネルギーとして様々に利用されているのだった。

 それから、この|フィールドウォークの特徴として、以前行ったことのある場所へ瞬時移動できるが、有効時限があり、三年前までしか遡れない。一度行ったことがあっても三年経つと、其処へは渡れなくなるので、三年空けず、頻繁に行き来しなければならない。

また、場所にも制限がある。出入口となる(ポータル)を何処かに設置するわけだが、何もない処にはできない。建物の壁、崖や土塀の法面、大きな木の幹など硬くて垂直に近い角度で立った面状の物が必要で、その面上に門が開く。やはり人間の心理的に壁や扉の上に渡りの(ポータル)を開いて出入りするのが習慣となっている。

それから、どうやら磁場が関係するらしく、鉱山などへは行けず、また金属の壁や扉などには、出入口を開けない。また、砂鉄などを撒いておくと、その付近では(ポータル)が開くことはない。


 もうお察しのことと思うが、ジャカランダでもセントアイブスでも、今回の戦争が勃発してからは、町中至る処に砂鉄が撒かれ、建物や城壁には鉄粉を含んだ塗料が塗られ、街中へは領域渡り(フィールドウォーク)が出来なくなっている。奇襲を防ぐためだ。クラブハウスでもバルナック軍が同じことをしているだろう。街に行きたければ、郊外の近い場所までしか行けない訳だ。


 そこで、ジャカランダが飛行型ゴーレムに襲われているとの連絡から、応援に出向く俺達も城下の街ではなく、街の外のできるだけ近い場所、具体的に言えば、郊外の農作業小屋の壁面に領域渡り(フィールドウォーク)(ポータル)を出現させた。ここへ移動してきたのは、俺達シルヴァホエールの四人とレイゾー、タムラの六人。ジャカランダ西側の城壁からは、一キロから二キロ離れている。徒歩で二十分くらいだろう。そろそろ日没。西の空は赤らんでおり、東側は暗くなっているが、その暗くなってきた空の一部が赤く、城壁からは黒い煙が上がっている。上空を見上げれば、三体の鳥のような天使のような、銀色の大きな影が飛び回っている。飛行型ゴーレムだ。


「あ、あれだ!ジャカランダの城から煙!」

「まあまあ。クッキー。落ち着いて。よく見れば、魔法の効果の付いた矢を撃ってるよ。ちゃんと反撃してる。」


 思っていたよりも距離があることに焦った俺をレイゾーが(たしな)めた。


「サキ。ここでタロスを召喚できる?タロスの歩幅なら普通の人の十倍くらいだよね。ジャカランダの城まですぐだ。」

「無論、行ける。」


話しているうちに、畑の向こう側にある、倉庫の土壁に渡りの(ポータル)が開き、中から、黒い大きな物が飛び出した。低い唸り声のような音と共に、背中に蝙蝠の羽根が付いた二足歩行の巨大な山羊が現われた。黒く塗装された金属の機械のような物に乗っている。デーモンの三男爵のレッドだ。


次回、ジャカランダ上空でのゴーレム戦と、郊外での悪魔レッド男爵とのコンバット。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ