第79話 ワンド
ドワーフの職人の親方の名前、ホリスター は
「宇宙船レッドドワーフ号」の ホリスター船長 から。
メイとクララと一緒に領主公邸の騎士団の鍛錬場に行くと、ガラハドとマリアも大陸から帰ってきたようで、閲覧席に座っていた。他にはレイゾー、サキにマチコ、オズマ、ページ公とロジャー騎士団長。その他街を守る兵士の士官級。射場にはタムラとドワーフの数人がいて、手招きされた。クララとメイはマチコに呼ばれて閲覧席へ移動。タムラの隣の大柄なドワーフが話しかけて来た。
「よお、お前さんが噂のクッキーだな。俺はホリスター。タロスで活躍らしいが、そのタロスを造った一人だよ。宜しくな。」
「クッキー、本名は朽木了です。こちらこそ宜しく、ホリスターさん。で、あの、噂とは?」
「お前さんがパーティに加わってタロスが強くなったってよ。サキが褒めてたぜ。」
「いえ、まだまだ。皆さんの足を引っ張ってます。」
「はっはっは。まあ、そう謙遜すんな。」
バシバシと背中を叩かれた。厚い手袋を着けたような大きな手がけっこう痛い。
そして、バルナック軍の小銃を手渡され、タムラとホリスターから説明を受ける。小銃の射撃試技をタムラさんと俺でやる。急拵えだが、小銃の先に短剣を着剣する金具も作ったそうなので、俺は銃剣道の試技も行うと。なるほど。銃や火薬の怖さを知ってもらうには良い機会だ。
まずはタムラが肩幅くらいに足を開き立射にて一発。見事に五十メートル先の的に命中し、的の板が割れた。さすが猟友会副会長。拍手とどよめきが起きた。
「見えたか?」
「いえ。目で捉えられませんね。」
ページ公とロジャーの会話から、驚きの様子が見て取れる。続いてタムラが右膝を付いてしゃがみ込み膝 射にて的中。同様に地面に伏し伏 射でも的中したが、いずれも的の木の板は真っ二つに割れた。弾丸の速度が速いうえに打撃力もあるということだ。矢が刺さっても、そのままの姿勢で突き進むことはあるが、銃ならばそうはいかない。頭や肩に当たれば仰向けになるし、下腹部に受ければ前のめりに倒れるだろう。殺傷力が高いのは勿論、敵に致命傷を与えない場合でも、動作をひとつ遅らせることができる。
このバルナックの銃はレバーアクションという、グリップと一緒に握りこむレバーを起こして戻すと、その動きに合わせ空の薬莢が排出され次弾が装填される構造のため、手動での連射ができる。俺はタムラの次に射場に構え、立射のみだが、弾倉に入る十発全ての速撃ちをやった。タムラの猟は猪や鹿などの動物相手で連射することはないが、俺は自衛官なので、標的は人間を想定。それも単体ではなく、相手も撃ってくる事を前提に訓練しているので、俺が連射の試技というのは、理にかなっている。スコアとしては自衛官の意地。全弾命中させた。
それからライフルの銃口から銃身に掛けて短剣を着剣し、丸太に突撃して刃を突き立てた。この銃剣としての使い方をバルナックがやってくるのかどうかは分からない。しかし、ないとは言い切れない。もう一つの不安要素、拳銃を使われることもあり得る。小銃でも近づきさえすれば、どうにかなるという甘い考えを捨ててもらうには、銃剣の試技もやってよかったと考える。
試技が終了し、ページ公から労いの言葉が掛けられ、公邸の騎士団員たちは屯所に戻っていくが、俺はホリスターにこの場に残るように指示された。クランSLASHのメンバー全員も残っている。ホリスターは、シーナとオズマを通して俺の武具の注文書を受け取ったので、これから製作に入るが、その前に確認事項があるのだと言う。
「ちょっと変わった形の短槍の注文だったがな、どうにも要領を得なかったんでよ、直接お前さんに会いたかったんだ。その異世界の銃や火薬ってのを扱うプロだったんだよな?それで、こっちの世界へ来て職能は魔導士になってる、と。」
そうだと答えると、ホリスターに長さ一メートル程の太い棒を渡された。金属製か?タロスのボディと同じような色。暖色系の温かみを感じる鈍い銀色。
「そいつはなぁ、無骨に見えるが魔法の杖だ。しかも希少金属のミスリルだぞ。ウィザードなんだから、試しにそれで魔法を使って見せてくれ。」
なんだか手になじむ。太くも重くも感じない。そして魔法陣が楽に作れる。自分でも驚いたが、テニスコート二面くらいスッポリ入りそうな大きさの魔法陣が浮かび上がった。
皆、目を見開いて魔法陣を凝視する。クララが慌てて背中にしがみ付いてきた。
「了ちゃん、魔力込めすぎ!力抜いて!」
実はこの時、サキとレイゾーは被害を防ぐ防御円、マリアとメイは妨害のための解呪の呪文の詠唱をしようと待ち構えていた。俺の魔力の暴走を警戒したようだ。ちなみにガラハドとオズマは、なんとかなるだろうくらいに思っていたそうだが。
どうにも、ウインチェスター、銃と火薬の事を考えると力が入り過ぎてしまうらしい。元々、この世界にはあってはならないものだ。同じグローブの異世界人として許せない気持ちが日に日に大きくなっている。
「ああ、ごめん。クララ。助かったよ。以後気を付ける。」
「うん。それにしても、この杖、凄いわね。」
ホリスターは、この杖は基本的にタロスと同じだと説明してくれた。芯の部分にマナを溜め込んでいて、素材のミスリルの特性と合わせて魔法を増幅する。しかし頭頂高十七メートルのタロスのような容量はない。調子に乗って使えばすぐにマナ切れだ。
もう一度、杖の先に小さな魔法陣を作るようにと試したところ、これは問題なくできた。で、この魔法の杖を素材として加工し、俺が使える短槍にしてくれるのだそうだ。それなら、銃剣道の木剣、いや銃剣そのものの形に加工してもらおう。長さ百六十センチ。その先に短剣を着剣すれば、接近戦もこなせる。
俺の希望がほとんどそのまま通り、変形杖と、銃剣道の独特の防具である左右非対称の籠手、ついでに普段帯刀するコンバットナイフも作ってもらうことになった。今腰に差しているブロードソードは、ユーロックスに来て以来、取調室から借りているものだが、自分用のコンバットナイフが出来ればお返ししよう。短槍はそのまま予備だ。防具類もそのうちに。それからタムラの弓も新調することになった。
バルナック領の東海岸から出た輸送用のガレオン船が海峡を渡りクラブハウスの港に次々と着く。海中戦対応型のワニのようなゴーレム『ワルター』が海峡で泳ぎまわっているためミッドガーランド水軍は手も足も出ない。東南側から異動したグリーンノアではあるが、水軍には哨戒任務が精一杯だったのだ。ガレオン船の積み荷は様々な物資だが、大きな物といえばインヴェイドゴーレム。『ハイルV』型が六体。組み立て前のパーツの状態だが、新しいタイプが三体。
先に到着していた水中戦対応ワニ型『ワルター』とクラブハウスの街の建物を潰して周った装輪型ゴーレム『ティーゲル』。それにジャカランダを攻めた飛行型『メッサー』も一体残っている。ただし、飛行型『メッサー』は自力で飛び上がることができないため、海峡を越えてバルナックまで帰投しており、クラブハウスにはない。ただし、空を飛ぶので、飛び立てばすぐに駆けつけることにはなる。
クラブハウスの街の建物や設備を接収する作業を完了したバルナック軍だが、装輪型は前の戦闘時には稼働できる個体は一体のみだったため、まずは、残りの装輪型二体のセットアップを優先していた。そこへ、さらに新しいゴーレムが届き兵たちの士気は上がるが、実務は多過ぎ、次の作戦行動へ移行する余裕を欠いた。元々バルナックはウエストガーランドの一地方領地に過ぎず、国力、人口、兵の数ともミッドガーランドには及ばず、それを補うための悪魔に恐竜たち、銃や火薬、ゴーレムである。何をするにも人手が足らなかった。
空軍の指揮を執るガンバを本拠地に残し、陸海軍のレッド、マッハの両男爵は旧商業都市クラブハウスにて王都ジャカランダへと攻め込む段取りを進めていた。地味な根回しの仕事に痺れを切らしかけていたが、思い止まった。クラブハウスの守りを固めるようにと魔女が命じたからだ。
仕方なく、レッドはハイルVの一体を使い、都市の周囲に塹壕を掘らせた。マッハは霧の国より百体の魔物ガーゴイルを召喚した。このガーゴイルは、休眠状態では大理石のように固く動かなくなり、建物の上に配置しておくと屋根や雨樋の飾りとして同化してしまう。建築の装飾品にしか見えない石像が突然動き出すということだ。
(ふん。マスターオブパペッツのお株を奪うようなものだが、これも一興か。)
目には見えないところで両軍の戦いが続く。戦力を整えるのみならず、情報戦も過熱していく。
次回は、そろそろブライアンの出番かな。




