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撃てるんデス! ~自衛官の異世界魔法戦記~  作者: 井出 弾正 (いで だんじょう)
第6章 乱戦
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第74話 思惑

 ノースガーランドの王、オサマ・ガーランド・トゥルジーロは、玉座に浅く座り脚を組み、植物の弦のようにまるまった口髭をつまんでいた。引っ張っては放し、を繰り返している。


「威厳を保つには、もう少し伸ばしたほうが良いかのう。」


 丸顔の大臣カークは、髭よりも南瓜パンツが気になるようである。座った姿勢では、南瓜パンツの柄がよく見えない。しかし、それはそれとして。


「それよりも王様。ご報告がございます。ミッドガーランドは漁村を取り返しましたが、商業都市クラブハウスを失いました。死傷者多数。それから、水軍のフラッグシップのブルーノアはじめ四隻が沈みました。もう一隻、小破してバルナックに拿捕された、と。」

「ほう。バルナックの暴挙は看過できないが、ブルーノアが沈んだとは、良い事ではないか。」

「ははっ、まったくそのとおりでございます。」

「このまま二国で潰し合ってくれれば良い。外交的にはバルナックを非難する声明だけ出しておけ。」

「仰せのままに。それから、西の大使から。三年前の戦争を第一次バルナック戦争、今回のものを第二次バルナック戦争と呼称すると決めたいそうです。」

「呼び名がないのも不便だー。それで良かろう。異存はないぞー。それよりも国境警備をしっかりやっておくように。」


ミッドガーランドと地続きのノースガーランドとしては、バルナック戦争のとばっちりを喰らいたくはないだろう。しかし、現状の軍事バランスを良しともしていない。




 一方、バルナックのララーシュタインの執務室では、薄暗い中七つの座席が円形のテーブルを囲み、燭台の蝋燭の灯りがワイングラスに反射している。


「まあ、いろいろあったが、第一段階は成功だ。アーナム人どもを駆逐するための橋頭保を確保できた。ささやかながら祝いだ。乾杯しよう。」


 七人の人影がグラスを高々と挙げ「プロージット」と叫ぶと赤褐色の液体をあおった。人影といっても三人の正体は悪魔である。レッド、マッハ、ガンバの三男爵が冥府(ニブルヘイム)からこの人の世、ミズガルツに実体化する過程で贄とした人間の姿に化けている。

あとの四人はバルナックの元領主の三男、現在のバルナックの実質的支配者のドルゲ・ララーシュタイン二世と、異世界人(エトランゼ)でアメリカの博物学者ウィンチェスター、一時的に冒険者パーティ・シルヴァホエールの一員だったデイヴ、そして「おばば様」と呼ばれる占い師シンディ。


 全員が酒を飲みほしたかと思うと、三男爵とデイヴが苦しみ始めた。息が詰まった。三男爵は人間の容姿から黒い直立のヤギへと変化し、デイヴは転げ回っている。


「ふん。貴様ら、生きて帰ったからまだいいが飛んだ失態だったな。開戦、今回の作戦。作戦そのものは遂行できたが、(ことごと)く、クランSLASHにしてやられておるではないか。」


 ララーシュタインが部下たちに向け侮蔑するような視線を送る。シンディはグラスをテーブルに置き、軽く笑った。


「効いているようだねえ。それは毒じゃない。あたしの魔法だから、デーモンの毒の耐性もお構いなしに苦しくなるよ。でも死にはしないから安心おし。じきに効き目は切れる。」


ウィンチェスターが発言。長い口髭を垂らした老人は、見るに見かねて擁護するらしい。


「まあ、それくらいで宜しいのでは?彼らも貴重な戦力ですし。閣下のインヴェイド・ゴーレムも私の銃も、実際に運用する者がいなければどうしようもありません。総統閣下、それよりも次の作戦行動はいかがいたしましょうか?」

「その運用する人材が不足しておる。それを埋めるために、此奴等がいるのだが。どうにもこんな体たらくだ。」

「アーナム人どもの戦力も強力です。ごく一部ではありますが。」


ごく一部の強力な戦力。シンディが呆れ顔で言う。


「あたしの占いが信じられないかい?ごく一部、あの七枚のカードさえ塞げば、あんたの勝ちなんだよ。この悪魔どもを上手く使いなよ。」


 そう。この三男爵とデイヴを抑え込んだのは、サキ、マリア、オズマ、そして俺も少し絡んでいる。シンディの占いにあったカード、塔、女教皇、魔術士、戦車の四枚。さらには、愚者、力、皇帝のカードも出番がなく残っている。


「ふん。その七枚のカード、全て潰してくれようぞ。そして我らジャザム人の五百年の悲願を達成する。」




 捕虜としたバルナック兵の証言から入手した情報などを整理してみると、三年前の第一次バルナック戦争は、ドルゲ・ララーシュタイン一世が準備を進め、長男ユージン・ララーシュタインが起こした戦争。レイゾーらの活躍で終結した。

 今の第二次バルナック戦争は、三男のドルゲ・ララーシュタイン二世が父と兄の意思を引き継ぎ始めた。このドルゲ二世は、強い魔力を持っているようで、デーモンを召喚し、また、ゴーレムを創造し操り、第一次戦争で激減した兵の数をこれで補っている。ゴーレムの創造、第二次戦争の準備に三年を要したのだろう。


 三男爵と呼ばれるデーモンが陸海空の三軍の指揮官として侵略軍を組織し、三軍それぞれ侵略用のゴーレムを備える。侵略用(インヴェイド)・ゴーレムと呼んでいるが、どうやら随分前からシルヴァホエールとタロスが敵にまわると予想していたらしく、ゴーレムはタロス対策でもある。

一番最初に対戦したのが、試作型ゴーレムの『ハイル』。クライテン村にて三体まとめて相手をしたのが、その改良型で集団での歩兵としての役割を想定した『ハイルV』。

商業都市クラブハウスの港湾でブルーノアを沈めたのは海軍仕様で水中戦が可能な尻尾付きの『ワルター』。同じく陸揚げされたのは陸軍の装輪型で『ティーゲル』というタイプ。他にも幾つかのインヴェイド・ゴーレムを開発しているというから驚きだ。


また、新兵器として火薬、小銃(ライフル)を所有。もともとこの世界に火薬はない。これをもたらしたのは、おそらく異世界人の博物学者ウィンチェスター。このウィンチェスターだけは、なんとしても俺自身が落とし前をつけないといけないのではないだろうか。異世界人として、自衛官として。


 それから、ララーシュタインはクララの両親の仇にも絡んだ魔導書『パイロノミコン』を所持しているかもしれず、それをネタに魔女と取引している可能性もあるが、少なくとも魔女の一人は味方している。魔女は古代魔法(エンシェントマジック)のインスタントの打消し呪文対抗呪文(カウンタースペル)を使用。高難易の使い手である。


 ミッドガーランド軍としては。開戦時に占領されたクライテン村を取り返したものの、引き換えに商業都市クラブハウスが侵略され、多くの住民や商人が難民となった。水軍の北西方面艦群のブルーノアはじめ五隻を失い、指揮官のアグラヴェイン卿ほか、かなりの死傷者を出している。また、クライテン港湾にいた五隻の軍船は、海戦対応型インヴェイド・ゴーレム『ワルター』のためにガーランド海峡を北上して母港リマーに帰港できず、クライテン港湾に釘付け状態。

 おそらく、この先はバルナック軍の銃に対するマジックアイテムのトークンを組み込む(やじり)や大楯、置き盾、重装鎧の生産などに多くの時間や労力を費やすだろう。銃に対して弓矢で戦わなければならない。また、拳銃、火薬を使用した別の兵器にも対策が必要だ。銃火器に関しては、俺がやらなければ誰がやるというのか。




 そういえば、自分自身の新しい武器が欲しくて職人に頼めるようにシーナに注文のメモを預けていた。セントアイブスに職人が数名応援に入ってきているからだ。どうなったのかシーナに訊いてみる。


「あれは、オズボーンさんにお渡ししました。オズボーンさんが、ドワーフの鍛冶職人に頼んでみると。」

「まあ!ドワーフなら、きっと良い物ができるわよ。良かったね、了ちゃん。」


クララは凄いアーティファクトを持っているからな。なんだか変な余裕を感じる。俺は銃剣道の木銃(もくじゅう)に近い得物を鋼で作ってもらうだけだから、クララの持ち物みたいに空を飛んだりはしない。


「そのオズマさんは、何処に?」

「えーっと、白と黒の妖精の国スヴァルトアルフヘイムに行くとおっしゃってましたよ。亜人や妖精、邪妖精が住む国だって。」

「え?妖精の国(アルフヘイム)って青い月?」

「いえ、アルフヘイムとスヴァルトアルフヘイムは別だそうで。遠いけど地上だそうですよ。」

「へえ。まあ、サキに訊いてみよう。いつ戻って来るんだろう?」


次回は、脇役キャラの過去にふれます。

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