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撃てるんデス! ~自衛官の異世界魔法戦記~  作者: 井出 弾正 (いで だんじょう)
第6章 乱戦
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第73話 捕虜

 その日の午後にはレストラン『取調室』が警察署の取調室のようになった。もともと冒険者たちのミーティングなどで使えるように音漏れには気を使った建物にはなっていたようだが、風や空間の魔法で、さらに秘匿性を増している。この侵略戦争が始まって軍事機密にも関わるものだから、念押しに説明されたのだが、改めて考えると怖い。この店はどこまで考えて備えてあるのだろうか。軍事施設並みだ。


「君にだってさぁ、家族はいるんだろう?早く帰って安心させてあげたらどうかな?」


 捕虜から情報を得るためにレイゾーが泣き落としに掛かっている。隣の個室では、ガラハドが捕虜の男の頬をぶん殴って問い詰める。


「たしかにやったんだな!? 返事はイエスしか認めないぞ。」

「ちょっと、ちょっと。ガラハド。手加減しないと。あなたが拳で殴ったら死んじゃうわよ。」


男の左頬が腫れあがり、見かねたマリアが止めに入る。やり過ぎたかと、一寸ガラハドも戸惑うが。


「いや、コイツ強情で喋らないもんだからよ。」

「あたしと交代して。魔法で自白させるほうが早いわ。」


椅子に縛られた捕虜の男を大柄なガラハドは見下ろすように視線を向けて言い放つ。


「ほーら。さっさと吐かねえから、俺よりもっと怖いのが、出てきちまったじゃねえか。この姉ちゃん、見かけ通りスゲエ怖えから、覚悟したほうがいいぜ。」

「ちょっと!ガラハド!それってどういう意味よ!?」


マリアはガラハドの両方の頬をつねって引っ張る。ガラハドの頬が赤く染まる。


「いでででで!ほら!怖えじゃねえか!俺は捕虜じゃねえぞ。相手が違うだろ。」


マリアは構わず頬を引っ張り続けるが、ガラハドの頬が思いのほか伸びるので、おかしくて吹き出してしまった。そして吹き出せば手が離れる。ガラハドは頬を撫でながらもマリアには何をされても怒らない。


「あー、いってえなあ。マリア、交代だ。やっちまってくれよ。」


 マリアは捕虜の男に方に向かい、黒魔術を掛ける。


「分かったわよ。じゃあ、覚悟なさい。喋ったら術を解いてあげるわ。精神蛆(マインドマゴット)!」


途端に捕虜の男は呻きだし、しばらくするとバルナック軍の情報を話し始めたのだった。




 二つほど挟んだ個室では、セントアイブスを守る騎士団長のロジャーと工作部隊の隊長ブライアンが話していた。


「損な役回りで申し訳ないが、君が一番の適任だと思う。」

「まさか自分にそんな任務が回ってくるとは思いませんでしたが、仕方がありませんね。どこも人手不足ですからね。」

「王都の王宮騎士団からも派遣されるが、保険の意味で連絡は取り合わず、それぞれの判断で動いてもらう。」


バルナックに入り込み、内情視察。新兵器の『銃』『火薬』とゴーレムの開発製造工場の場所を突き止めようというのだ。銃を持った敵とは正面から立ち向かうのは無理だ。製造させないことが一番良い。元を断つ。


「冒険者を装ってウエストガーランドから侵入してくれ。パーティメンバー五人の人選は任せる。君の工作部隊に限らず、他の部隊からでも構わない。斥候(スカウト)魔法使い(マジックユーザー)を混ぜるといいだろう。任務中のこちらとの連絡は、シルヴァホエールのサキ殿がやってくれる。使い魔(ファミリアー)を定期的に遣わすそうだ。」




そして、その向かい側の個室では、六人掛けのテーブルにトリスタン、パーシバル、タムラ、クララ、俺。四人掛けのテーブルにレイチェル、ジーンの姉弟がいた。レイチェルとジーンは朝、海岸で貝と海藻を獲って出汁の素材として店に届けてくれるが、そのまま店の賄い飯があるからと残ってもらった。軽く挨拶をしてチャーシュー丼とキャベツに卵のスープの食事を済ませると、トリスタンが話を切り出した。


「実はね、君たち姉弟にお願いがあるんだ。タムラさんやクララさんと話したら、二人に頼むのがいいだろうということになってね。しばらく王都に来て欲しいんだよ。」


 この後は、タムラとクララが話を引き継いだ。王都の騎士団の中にコソコソと隠れて悪い事をしている人がいるから探すのを手伝ってもらいたい。子供なら警戒されないはず。トリスタン、パーシバルが二人を守るし、いざとなれば加護精霊を使っても構わない。今はガーランドのあちらこちらに難民が散っているので、トリスタンの妻イゾルデの親戚ということにすると話した。


「クッキー兄ちゃん、僕らが役に立てるってこと?この戦争に絡んでるの?」

「ああ、ジーンとレイチェルの力が必要なんだよ。戦争の被害者を減らすためにね。二人の頑張り次第で助かる人がたくさんいるんだ。」


それからタムラも一言添えてくれた。いつもながらナイスフォロー。


「勿論ご褒美はあるぞ。トリスタン卿もパーシバル卿も優しいから大丈夫だよ。生活の心配もいらない。二人が王都にいる間は、貝と海藻を獲るのは冒険者ギルドにクエストとして依頼するから、それも気にしなくっていいんだ。」


俺も一言加えておいた。この二人の探索者としてのレベルアップも狙って。


「王都の近くにも迷宮(ラビリンス)はあるみたいだよ。そこで探索者のランク上げて冒険者登録できれば領域渡り(フィールドウォーク)を身に付けてすぐに行き来できるようになるさ。」

「わかりました。では、しばらくは王都で、トリスタン卿とパーシバル卿のお世話になります。」


さすがにレイチェルはしっかりしてるし、やっぱり頭のいい娘だ。ついでに騎士たちに近いところで貴族の礼儀作法を憶えてくれたら人生でプラスになるだろう。

それからクララも。一つ心配事を片付けてくれた。


「家の掃除や換気はやっておくから大丈夫よー。」




デイヴは始めからバルナックから送り込まれたのか、それともタロスが傷ついた後に裏切ってバルナックへ行ったのか。どちらにしろシルヴァホエールは、デイヴというスパイにしてやられた形だ。同じ轍は踏むまい。バルナックへスパイを送り、王都にはスパイがいないかを探る手立てを整えた。現在、この戦争は不利な状況に変わりはないが、ひっくり返すための準備は少しだけ進めた。今後どうなるかは誰にも分からないが。



 そんなこんなでバルナック軍の捕虜たちから、ある程度の情報も得られたようだ。若い騎士たちが奥の個室から捕虜を連れて王都へ戻っていく。


「いやあ、敵兵といえども、やはり人の子だね。カツ丼取ってやったら、泣きながら旨そうに食ってたよ~。」


 レイゾーは満足気である。ホントに有益な情報を得たのか、一寸心配になる。やっぱり刑事ドラマごっこをやりたかっただけなんじゃない?タムラは何も心配してる様子はないのだが。本当に大丈夫か?


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