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撃てるんデス! ~自衛官の異世界魔法戦記~  作者: 井出 弾正 (いで だんじょう)
第6章 乱戦
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第70話 パイロノミコン

 クララは少し落ち着きを取り戻したようだ。クライテン村であったことを話し始めた。


「クライテン村の逃げ遅れた人を誘導していたら、その中に元の両親のパーティのメンバーがいて、訊いたんです。ララーシュタインが魔導書パイロノミコンを持っていて、それを狙うオーギュストがバルナック軍にいるって。それから、元のパーティメンバーのカミーユがオーギュストに協力していて、もう一人は私の両親同様に殺されたらしいです。」


 サキは目を閉じて眉間にしわを寄せ考え込んでいる。目を開けると話し始めた。


「クララが村の中にいる間、我々はアークデーモンと戦っていたわけだが、止めを刺せなかった。魔女が割って入って邪魔をされた。その魔女が古代魔法(エンシェントマジック)を使った。対抗呪文(カウンタースペル)という打消し呪文だ。打消しならば一般には消去呪文(ディスペル)というものが使われるが、もっと強力だ。ディスペルさえも打ち消すからな。火炎奇書(パイロノミコン)を持っているのは、その魔女かもしれない。あるいは、魔女は火炎奇書(パイロノミコン)をララーシュタインから手に入れるために協力しているか。」

「あ、理由があって魔女がララーシュタインに協力しているのなら、デイヴまで連れ帰ったのって辻褄が合うかもしれないわね。」


 マチコも同意した。魔女がどのような存在なのか俺には分からないが、ララーシュタインに協力するには、なにかメリットがあるのだろう。


「そのオーギュストとカミーユを討つのなら、ついでにデイヴも討ってしまおう。デイヴがバルナック軍に付いているのは間違いない。」

「デイヴを問い詰めることはできなかったけど、以前よりもっと態度悪かったわよねえ。あたし達やタロスの情報を流してるんじゃない?」

「まさかとは思うが、最初からバルナックのスパイだったのかもしれないな。」


 俺の前のタロスの火力担当って、そんな奴だったのか。しかし、バルナックは当然、それなりの準備をしてから戦争を仕掛けているはずだ。タロスを敵視して探りをいれてもなんら不思議はない。ララーシュタインのゴーレムがタロスの対策なのだとしたら、これからもっと強力な敵が現われるかもしれない。油断大敵だ。

 情報、作戦立案の面では、完全に負けている。なにか手を打たないといけないだろう。


「ところで、そのカミーユって名前、男なの?女なの?」

「あ、女の人ですよ。姐さんに負けないくらいの美人さんですけどー。」

「あ!なんだか、そのカミーユっての、あたしがシバいてやらなきゃいけない気がしてきたわ~。」


指をポキポキと鳴らすマチコ。ちょっとクララが笑った。


(こういうムードメーカーとしての才能、本当に凄いな。マチコ姐さん。)


 サキもクララはもう大丈夫と判断したのだろうか。続けて話し出した。


「では、『パイロノミコン』について、私の知っていることを話しておこうか。」


(さて、どこまで話すべきだろうか?)と、サキは内心気にしていた。だが、魔女を含め厄介なものであることは知らせなければならないとも考えていた。


 サキの説明では、こうだ。

 はるか昔、お伽噺(とぎばなし)のようなものだが。この世界には幾つかの種族の神々がおり、白い月に住んでいる。ある日アース神族とヴァン神族が地上で争った。アース神族が優勢だったが、巨人族を味方に付けたヴァン神族が反撃。起死回生の策としてアース神族が火の魔法を使うと、ヴァン神族も同様に火の魔法を使い、この世界の地上の大半が火に包まれた。勝ったアース神族は白い月に還り、負けたヴァン神族は白い月を追われ青い月に移り住んだ。この時に使われた火の魔法について記したのが火炎奇書(パイロノミコン)。古い羊皮紙の巻物(スクロール)だが、幾つかの写しがあり、半数はすでに失われ、残りの数本が密に何処かに封印されているらしい。 

 そして、魔女(ウィッチ)。『魔女』という職能(クラス)があるわけではない。女性の魔導士(ウィザード)の中でも特に魔力が強く、黒魔術に長けた者をそう呼ぶ。古代魔法(エンシェントマジック)を使うこともある。現在「魔女」と呼ばれる者は六名。大陸の国では、歴史的に悪魔や黒魔術を恐れることが多く、過去に何回か魔女狩りが行われているが、本物の魔女が捕まったことはなく、誤認された者が数百名処刑された。


「こんなところだな。以後、我々は人物としては、デイヴ、オーギュスト、カミーユ、魔女をマークしよう。人以外では、インヴェイド・ゴーレムの迎撃。あまり難しいことを考えても進めなくなる。ここまでとして、何かあれば、またこうして話し合おう。」

「「了解。」」


 サキは立ち上がり、マチコはテーブルの上を片付ける。


「マチコ、クッキー。クララを頼むよ。私は取調室へ行く。クランの事務所に顔を出してこよう。クララのことはともかく、デイヴの件は知らせないとな。」

「うん、そうね。行ってらっしゃい。」


ついでだから俺も。


「あ、もしシーナに会ったら、俺が頼んでおいた武器がどうなってるか訊いてきてほしいなあ。」

「分かった。新しい武器だな。」




 取調室は大忙しだった。レストランとしての営業ではメニューが増え、冒険者の出入りも多くなった。そしてセントアイブスの南側を守る砦として、クランSLASHの事務局として。

 サキが店に入ると「いらっしゃいませ」と大きな声が掛かる。冒険者たちが陽気に話す声やグラスを合わせる高い音が混ざる。


「あ、サキさん。一番奥の個室へどうぞ。帰ってきたばかりのオーナーやギルマスがおりますので。」

「ギルマスとは、ガラハド?」

「いえ、両方です。ガラハドさんとマリアさん。なんだか血相変えてましたよ。」


奥の個室にはAGI METALの四人とトリスタン、パーシバル、ロジャーがいた。


「おお、いいところへ来てくれた。是非意見を伺いたい。」


 パーシバルが、いの一番に声を上げた。テーブルの上に置いてあったのは、黒い艶のある鉄の筒と鉛玉。バルナック軍から接収した小銃とその弾丸だった。




シルヴァホエールの生活拠点、クララの家での話に戻る。クララは泣き止んではいるものの、またいつメソメソしてもおかしくないように思えた。なんとか明るい話題に持って行きたいところだ。切羽詰まっているとはいえ、戦争の話もしたくない。クライテン村は奪還したが、大勢の人が亡くなり傷ついた。申し訳ないが、マチコを出汁にする。


「そういやあ、マチコ姐さんはどうやってサキと知り合ったんです?」

「あら、野暮ね。女の過去は訊かないものよ。でもまあ、いいか。」


 マチコはわりと大きなプロレス団体に所属していたが、下積み時代から技術、体力とも強く、他の同年代の選手たちより目立っていたそうだ。デビューすると連戦連勝。ファンからの人気もあった。そうなると周囲からのやっかみもキツくなる。


「パワハラ、セクハラが酷くってねえ。無理矢理AVに出演させられそうになったのよ。アッタマきたから、その先輩レスラーたちの男女合計五人ほど、半殺しにしてやったわ。プロレスのリングの上でなら怪我のないようにファイトするんだけど、そこは手加減しなかったのよね。でも、そうしたら団体に居づらくなっちゃってさあ。他の団体に移籍しようにも裏から手をまわされちゃって。」

「なんとかハラとか、エーブイとか、よく分からないですけどー。」

「クララは知らないほうがいいわよ。どうしても知りたければ、クッキーに、ね。」

「あー、姐さん、それ酷い!」

「んでっ、途方にくれてトボトボ歩いてたら御茶ノ水の駅の階段で後ろから突き飛ばされて。所属してた団体の下っ端ね、多分。転げ落ちて、気が付いたらユーロックスにいたの。」


右も左も分からない状況で魔物に遭遇し、そこをサキに助けられたのだそうだ。そしてずっと一緒に行動している。


「自分よりも強くて、背が高くてイケメンだったからねー。手料理食べさせたら、わりと簡単に捕まえられたしー。」

「うん、サキに言っとく。」

「こらこら!クッキー、あたしたちのことより、あんたこそクララをかまってあげなさいよ。」


 マチコにヘッドロックされてリビングを引きずられたが、マチコはクララに聞こえないように俺に耳打ちした。


「あんた、今晩はクララに付いていてあげなさい。一緒の寝室よ。どうせサキは酒飲んで帰ってくるだろうし。飲んでなくても、サキも認めると思うわ。」


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