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撃てるんデス! ~自衛官の異世界魔法戦記~  作者: 井出 弾正 (いで だんじょう)
第5章 戦役
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第68話 敗戦

 トリスタンが指揮する軍隊一個大隊。総数で約三千人が王都ジャカランダから商業都市クラブハウスへ進軍。クラブハウスの北側、山の麓に陣を構えた。

最悪の事態を考慮すると、南側に陣を構えるとクラブハウスとクライテンの両方から挟み撃ちということもあり得る。それはクライテン村奪還作戦の失敗を意味することで、考えたくはないが、宣戦布告時にもものの見事に裏をかかれており、ないとは言い切れない。

 そして、北側の山麓のやや標高の高い丘の上の本陣からは、クラブハウスの街並みが見渡せるのだが、右手に見えるクラブハウス港には胴体が真っ二つに折れた水軍の旗艦ブルーノアの残骸が確認できた。ミッドガーランド軍の西の守りの要。その変わり果てた姿に誰もが驚愕し不安を感じた。やがて火災が発生し、ブルーノアの船体は赤黒く炎に包まれていく。


 真っ先にクラブハウスの街中へ侵入した斥候(スカウト)の報告によれば、すでにバルナックの兵が港から上陸して街中で戦闘が行われ多数の犠牲者がでている。クラブハウスに駐屯している軍は治安維持程度のもの。商人はそれぞれ冒険者をボディガードなどに雇い入れているが、そもそも軍に歯向かえるほどの戦力にはなりえない。訓練を受けて組織的な動きをする軍人相手では、冒険者も素人同然だ。

 船首の衝角(ラム)が折れたために海戦を諦め先に港の桟橋に着けた一隻の巡洋船からは地上戦に備えた水兵が上陸したものの多勢に無勢。また、バルナック軍が新兵器を使用しているのも苦戦の原因だった。


「新兵器だと?どんな物だ?」

「飛道具です。火の魔法と思われるのですが、マナも精霊も動いた様子がないのです。」

「では、魔法とは呼べないが?」

「鉄の筒のような物を向けられ、大きな破裂音がすると、いつの間にか鉄の塊が身体に打ち付けられているそうです。鉄が身体にめり込み火傷を負います。」

「ふむ、飛び道具には違いないのだな?」

「はっ。とんでもない方向へ飛ぶことはないようで、常にその鉄の筒の向いた方向にしか鉄が飛びません。ただ、とんでもなく速いです。避けられません。」


斥候からの情報を訊いたトリスタンは大楯で飛道具を防ぎつつ前進し、ゴーレムなどの大型の魔物がいれば魔法で対応するようにと考えた。中央に重装の鎧に大楯と長槍を持った密集隊形(ファランクス)を編成。後方に弓部隊。左右に重装弓騎兵とその後方に魔法兵の編隊を組んで商業都市の中心地と港を目指し進軍を開始した。

重装の密集部隊が先頭で作戦の肝でもあるため、進軍はゆっくりだった。その間にも海戦では、インヴェイド・ゴーレム『ワルター』が巨大な尻尾を左右に振りながら悠々と港湾を泳ぎ回りミッドガーランド水軍の船に爪を立てている。


(あまり時間を掛けてもいられないが。ゴーレムを討つためには魔法使いは温存しなければならない。重装騎士が敵の新兵器にどこまで耐えられるか。)


 トリスタンはアラン王子に話し掛ける。魔法の使いどころについてだ。


「アラン王子は、まだ手を出さずに堪えてください。我々の魔法はゴーレムに対して使用します。人間同士の戦ならば、剣と弓で対処できます。」


 まだ矢が届かない距離だが、バルナックの兵たちは新兵器を撃ってきた。飛んでくるのは、斥候は鉄と知らせたが実際には鉛玉。大楯では防げるが、鎧は貫通する。

 そう。新兵器とは銃だ。アメリカの西部開拓時代に使われたライフルによく似ている。


 大楯ならばなんとか鉛玉を受け留められるので、負傷者を出しながら前進を続け距離を詰め、矢が有効なところまで来た。バルナックの鉄砲隊の頭上に魔法の(やじり)を付けた矢の雨が降り注ぐが、的が近くなったのはバルナックにとっても有利。狙いをつけ易くなったことで大楯の隙間や弓に目標を換える。壮絶な消耗戦となった。


「一般の兵士が魔法使いのような働きをするのか。バルナックの兵は決して多くはないのに。これでは数的有利にはならない。トリスタン、まだ待たなきゃならないのか?」

「王子、まだ向こうにはゴーレムがあるのです。こちらの味方のゴーレムはタロスのみ。その頼みの綱のタロスは今クライテンで作戦行動中です。そのクライテンからこちらに救援に来たブルーノアもおそらくゴーレムによって沈みました。彼ら水軍の無念を晴らすためにも魔法は温存しましょう。」


トリスタンは(はや)るアランを(いさ)め、左右の重装弓騎兵に前進して挟み撃ちにするように指示を出した。日頃の訓練の成果か弓騎兵隊は素早い行動でバルナックの鉄砲隊を取り囲むが、バルナック軍もライフルの弾丸は真っ直ぐにしか飛ばないことを承知しているため紡錘型の陣形に隊列を換えて対応。また、バルナック軍の銃は一回の上下の操作で薬莢の排出と次弾の装填をするレバーアクションというタイプの小銃で連発ができる。戦況はますます泥沼化した。


 ところが、バルナック軍の真ん中から歓声が上がり、蝙蝠のような羽根を持った黒い影が宙に浮かんだ。


「デーモン!重装騎士は防御姿勢をとれ!アーチャーは魔法の(やじり)を使い切ってかまわん。悪魔に向けて撃ちまくれ!」


 弓隊の先頭にいたトリスタン自身も大弓を構え、出来る限りの大きな声で号令を掛けた。トリスタンが(つが)えた矢はグレイのトークンが嵌められた物。当たれば空間魔法が発動する。そして勿論王宮騎士団でも随一の弓の名手は見事に命中させ、悪魔をその場から動けなくさせた。

 しかし、その悪魔、海軍大将のマッハ男爵もソーサリーの呪文を唱えながら飛び上がっていた。黒マナにより無差別に大量の対象を攻撃する禁忌の魔法。


瘴気(ヴェノム・エックス)!」


そしてもう一つ。風を起こすインスタント呪文。


西風ゼファー!」


 ヴェノム・エックスは周囲に毒ガスをばら撒く呪文だが、ゼファーで風を起こし、自軍には害をなさずミッドガーランド軍の方向へ流そうというのである。所謂、魔法のコンビネーション。


 これにより状況は一変した。ライフルの攻撃に辛うじて耐えていた重装の密集部隊(ファランクス)が倒れ、後方の弓隊が銃撃にさらされた。これには、もっとも若くて血気盛んなアラン王子でさえ撤退する以外にないと思わせた。さらには水軍が総崩れ。ブルーノアに続き二隻が大破炎上して沈没。一隻は港の埠頭に着け上陸して地上戦となったが、今頃、乗組員は散り散りに逃げているだろう。残ったもう一隻は小破、火災を起こして煙を上げながら命からがら退散した。


 駄目押しには、バルナックの残った輸送船四隻から、インヴェイド・ゴーレムが陸揚げされた。一体は、港湾で暴れた水中対応の大きな尻尾を持った『ワルター』。あとの三体は地上戦用の装輪型ゴーレム『ティーゲル』。最初に陸揚げされたティーゲルはクラブハウス市内を走り回り、建物を潰して破壊殺戮を尽くしている。


 ジャカランダ最強の一角といわれる騎士トリスタンも、こうなってしまっては手のつけようもなく、領域渡り(フィールドウォーク)の使える者から順次負傷者を連れて帰投するようにと撤退命令を出したのだった。だが、アラン王子は一矢報いたいとトリスタンの指揮を外れ、単独マッハへと斬りかかる。トリスタンは慌ててアランを止めに行った。




 クラブハウスで水軍が蹴散らされ敗戦がほぼ決定となった頃、クライテン村奪還作戦はやっと終焉を迎えられそうだった。サキと火蜥蜴(サラマンダー)ジラースのおかげで三男爵の一柱アークデーモンのレッドをあと一歩のところまで追い詰めて追い払った。被害も大きいが、三体のインヴェイド・ゴーレムを破壊。港と村人は守り切った。とはいえ、レッド男爵は取り逃がしたうえに魔女なんてものが出て来る始末。一旦捕まえたデイヴにも逃げられてしまった。現在、サキを中心に白魔術士、僧侶、衛生兵らによって負傷者の応急手当が行われている。マチコは怪我人の搬送。情けない話だが、俺も要救助者だ。レッド男爵の魔法のダメージを喰らってしまった。


 手当を受け、水を飲んでホッとしているとクララが暗い顔をして戻ってきた。


「クララ、村人の救助お疲れさん。逃げ遅れた人の誘導、できたかい?」


声を掛けると、クララはハッとして顔をあげ、いつもの笑顔に戻る。今度は俺の方を気遣って訊いてくる。


「クッキー、怪我はどう? こっちもたいへんだったでしょ? 」

「ああ、大丈夫だよ。戦果の方は、まあ、いろいろとあるだろうけどね。」

「ええ、そうね。」


すると、救護活動中のサキと、俺の顔を交互に見て言った。やはり何かあったのだろう。


「皆さんにお話しすることがあります。セントアイブスに戻ったら。」


そして、パーシバルから商業都市クラブハウスがたいへんな事になっていると知らされた。王都ジャカランダから魔法通信で情報が寄せられたのだった。



魔法通信があまり使われないのは、制限が多い為。

風や空の魔法が使える魔法使い同士でないと通信できないからです。

それでサキは使い魔のリュウを伝書鳩のようにしています。

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