第6話 講習
魔法については Magic The Gathering をかなり参考にして設定しております。
リチャード・ガーフィールドさんって、ホントに凄い人だと思います。
クララの所属するパーティ『シルヴァホエール』はモンスター討伐を中心に活躍し、なかでも大型モンスターを得意としている。リーダーの召喚術師が巨大な泥人形を呼び出し使役するからだ。しかも最も頼りにしているゴーレムは機体として術者のパーティが乗り込んで操作できるという特別な物で、ドゥームの迷宮から発生したモンスターが人里や町を襲うのを何度も阻み、人々から感謝されている。ただし一カ月前のクエストでキマイラと対峙した際に、そのゴーレムが破損、活動を止めている。また4人パーティのうちの一人が脱退。現在は残ったメンバーでゴーレムの修復にあたっている。
ゴーレムは粘土や石、金属などで作られた自動人形。知能はないが、制約を守って運用すれば主人の命令に従順だ。制約を破ると狂暴化するが、それを止める方法はある。
ゴーレムを造るためには、土を捏ねるなどして形を作ったあとに額に『emeth(真理)』という文字を書き込むか、書かれた紙などを張り付けると完成するのだが、この文字を消す、紙を剥がすなどの行為で、ゴーレムは動きを止める。さらには『emeth』のeだけを消し『meth』とすると『死』という意味になり、そのゴーレムは土に還る。
さらに、クララたち『シルヴァ・ホエール』の使うゴーレム『タロス』は特別で、魔法を活かせるように魔法と親和性の高い希少金属ミスリルで作られた上に、体内に魔法のエネルギーであるマナを封じ込め、そのマナが漏れないよう棘状の栓をしてある。その棘を抜いてしまえば、マナが抜け出し魔法の効果も落ちる。
創造者は弱点を二つも持つことはないと考えたため、額の emeth の文字とマナを詰め込んだ容器の栓である棘を一緒にした。ところが、キマイラ討伐の際に強烈な酸によりミスリルのボディは溶け、棘も抜け落ちてしまった。タロスのマナは漏れ出し、自動人形としても機能不全となった。
クララは単に鉱石と言っていたが、探しているのは希少金属ミスリルの鉱石だ。タロスのボディの修復と新しい棘の素材。ミスリルはマナの濃度の高い場所で採掘される。マナの溜まり場は自然の中にも存在するが、大抵は到達困難な険しい場所であり、ダンジョンの中などの方が、いっそ分かりやすい。マナプールで鉱石といえば、希少金属だと誰もが考えるだろう。
数年ぶりに帰郷したクララだが、故郷を懐かしむよりも冒険者パーティのことを第一に考えているのだろう。クララを知っているタムラが、まず口を開く。
「店の従業員には指示を出しておいた。マナプールの情報を集めて、店のお客さん方にも注文や会計のときに聞きこむように。しかし、まだ報告がない。自分で探さなきゃならないんじゃないか。クララの情報はどこからだ? 誰にこの近くで鉱石が採れるなんて訊いたんだ? 」
「元うちのパーティメンバーのデイヴっていう精霊魔術士から。」
「こんなこと言っちゃいけねえかも知れんが、信用できる情報か? ソーサラーのデイヴなんて名前は聞かねえ。この町に来たことあるのか?」
「信用できるかといえば、なんとも言えないのよぅ。もともと鉱石を探さないといけないのも、そのデイヴが絡んでることだから。」
「元のメンバーってのは、そういうことか。」
クララは下を向いて黙ってしまった。元のメンバーをあまり悪く言いたくもないのだろう。
「まあ、時間はかかるだろうけどね、自分でダンジョンの探索するんなら、応援するよ。うちの従業員に手伝わせてもいいよ。クッキーなら。ただし、クッキーは明日からはしばらく探索者ギルド、冒険者ギルドに通って講習だ。」
礼三が提案する。俺も協力することにやぶさかでない。が、講習・・・。
「え!? 」
「人手貸して貰えるんですかぁ? もちろんお礼はします。レイゾーさん、ありがとうございます。クッキーさん、宜しくお願いします。」
「クッキー、講習は全部及第点でストレートに終わらせるんだぞー。補習は無しで。履修するコースは僕が選んで申し込んでおくからね。それが終わらないと、役に立てないぞ。講習が済んだら、クララとレイドを組むってことで、鉱石探しだ。」
「わ、わかりました。」
この綺麗なお嬢さんとレイドを組むなら大歓迎なんだが。胡麻の調達はどうした? いや、それより講習が気になる。
「すみません、礼三さん。講習っていうのは?」
「ああ、そのままの意味だよ。ギルドでは、初心者から中級者に向けた講習をやってる。迷宮を探索する探索者は特に職業としては定住して副業にやる人が多いからね。ノウハウをギルドで教えることが沢山あるんだよ。冒険者はフィールドでかなりの距離を移動するから、専業が多いんだけど、貿易をする人もいる。探索も含まれるから、シーカーとしての技術は持っていることが前提だけど、自然の中でのサバイバル術とか、野営の仕方、それに大型の獲物や群れに囲まれたときの対応、おまけに不測の事態に備えて軍に徴用されたときの軍事教練もある。まあ、それぞれに蓄積された知識や技術はあるんだね。」
「なるほど。自衛隊の訓練に近いような。」
頑張れば大丈夫なんじゃないかと思えてきた。それなりに体力と根性はあるつもりだ。
「職能としてのコースも入れておくよ。魔法の知識をつけないとね。」
それは少し不安もあるが、礼三さんが使った火の魔法を見た限りでの自分の考えとしては、魔法とは言ってみれば飛び道具、自衛隊員にとっての89式小銃、戦車乗りにとっては滑腔砲みたいなものだろう。まあ、勿論それだけではないだろうが。弓矢など使ったことがないので、その代わりとして、このモンスターがウヨウヨしている世界では使えるものは使わなければ。自衛官として人を守るどころではなく、自分の身も守れない。
かくして、探索者、冒険者の各ギルドへ数日通うことになった。職業としての基本講習は、どちらかといえば、この世界での生活習慣を学ぶためのものだった。中世のヨーロッパに似ていること、通常の迷宮、混沌の迷宮との違い、それを生活の一部として受け入れる知恵や危険性が分かった。探索や狩猟での戦利品が生活の糧になり、また税金やギルドへの上納金、行政サービスの仕組みも説明された。三つの月により方角が分かること、潮汐が複雑になり天候が変わり易いこと、また信仰として3が神聖な数字であるなど興味深かった。
そして職能ごとの講習。戦士、弓使い、魔導士、黒魔術士の四つ。すっかり失念していたが、弓矢も使えるようだ。前の二つに関しては、武具の扱いはあるものの、肉体労働なので陸上自衛官としてどうにでもなった。剣や盾、弓は技術なので一朝一夕には身につかない。日頃の鍛錬と実戦経験だそうだ。しかし、弓はかなり成績優秀らしい。
複雑なのは魔法。大きく4系統あるとか。精霊魔術、四極魔術、六芒星魔術、五芒星魔術。あとに行くほど複雑なのだが。どうやら俺の場合ダイヤグラムの半分を除けば、どれも使えるようになれる可能性があり、滅多にいない逸材なのだと。なんか、おだてられてない?後で壺を売られたりしない?まあ、うれしいけど。へんに大きな期待を掛けられるかも。
魔法の習得は座学や実験も多いが、瞑想やイメージトレーニングを随分やった。精霊魔術、四極魔術を使うには、実体のない精霊に好かれなければならない。また、ダイヤグラムの半分と六芒星魔術、五芒星魔術は目には見えない魔法のエネルギー、マナを感覚として掴めるようになると効率的に運用できるとか。よく分からないんですけど。
「マナには、シアン、マゼンタ、黄色、赤、青、緑、白、黒、グレー、クリアーの十色があって、それぞれ特徴が異なる。普通は分からないが、特殊な呪文や魔道具を使うと、色の着いた小さなガラス玉みたいに見えるようになる。」
教官に虫眼鏡のような道具を通して見せてもらったが、砂粒、いや、工芸のビーズのような物か。半分透き通り、風に揺れるかのように宙に浮いていた。
やがて野外での実践的な講習になり、地味にも思える生活上に使う魔法やら、魔物を狩猟するための呪文やらを憶えていった。
印刷や色彩学をご存知の方ならば、マナの十色ってネタ、簡単に分かりますよね。