第66話 レッド男爵
バルナックの悪魔三男爵のネタは昭和の特撮バロン三部作。
「スーパーロボット レッドバロン」
「スーパーロボット マッハバロン」
「小さなスーパーマン ガンバロン」
サキはタロスのコックピットからデーモンのレッドを見下ろしていた。マチコの雷撃にも耐える様子を見て決心したようだ。タロスとの秘密の会話をする。
「タロス。私も出るとしよう。トロールやサイクロプスを任せても良いか?」
「ハイ。ますたー。」
「普通のゴーレムではないとバレないように気をつけろよ。
対外的には、お前の動きが速いのは、人が乗って直接操っているせいだとなっているからな。私がいなければ動けないとも言ってあるしな。まあ、近くにいて魔力を送っていると言い訳するが。」
「りみったーノ設定ヲシマス。速度ハ20ぱーせんとデドウデショウカ?」
「そうだな。それでいいだろう。では、頼むぞ。」
サキは渡りの能力の門と同じような出入口を開き、タロスのコックピットを出るが、そこはデーモンと俺達の格闘戦の現場近く。立姿勢のレッドに後ろからマチコが飛びつき、両脚でレッドの首と左腕を捉えて内股で締め付ける三角締めを極めている。人間ならば頸動脈を締めているはずだが、悪魔は人間と身体の構造が違うのか、意に介さない。ヤギの頭の角を両手に掴み揺すっている隙に、三人の騎士たちが槍で脚を衝き、俺は火力呪文を背中に撃つが、蝙蝠の羽根が火球を弾いた。
ダンジョンで戦ったデーモンとは格が違うようだ。この際だから訊いてみよう。
「レッド男爵!俺はウィザードのクッキーだ。お前のデーモンとしての位はどのくらいだ?グレーターデーモンか?」
魔族の中でもデーモンとは正真正銘の悪魔のことだ。インプやチャッキーは下位の存在。ガーゴイルなどは中位。夢魔、夜魔、吸血鬼などが高位の存在。デーモンは最も人間に関わりが深く、多くの人間を堕落させてきた存在だが、その強さによって階級が分かれる。上からデーモンロード、アークデーモン、グレーターデーモン、デーモン、ネザーデーモン、レッサーデーモンの順だ。
「アークデーモンだ。爵位を持っているのだぞ。」
「爵位?ああ、そうか。じゃあ、公爵はデーモンロードになるのか。」
「そういうことだ。」
俺は少しでも敵の情報を引き出そうと話しかけみたのだが、ライオネルは注意を引いて隙を作るためにやっていると解釈したようだ。衝槍を脇に抱えレッドの側面から衝きを入れるが、レッドは右手で槍の先を掴み、逆にライオネルを槍ごと投げ飛ばした。俺と騎士が次々に槍を突き入れるが、ことごとく防がれる。
背中を打って藻掻くライオネルにサキが駆け寄り手当のインスタント呪文をかける。サキはライオネルを起こしながらレッドを睨み、立ち上がった。
「そこのでかいヤギ頭。待たせたな。」
「おう、マスターオブパペッツか。エルフだとは聞いていたが。長髪の青っ白い弱そうな男だな。」
「マチコ。離れろ。だいたい、何故サーベルを使わないんだ?まったく。」
「あー、ごめーん。考えるより先に身体が動いちゃうのよー。」
マチコは三角締めを解いて飛び降りると、右手にサーベルを持った。サーベルに何か仕掛けでもあるのだろうか?サキと色違いのお揃いなのだが。
「さて、レッドとやら。一騎打ちといこうか。」
「ええっ、サキ~、そりゃないわよ~。」
「オモチャを取り上げられた子供みたいなことを言うな。」
「我をオモチャ扱いか。」
レッドの目尻が上がった。怒りが滲んでいる。右手を高く挙げ魔法陣が浮かぶと呪文を詠唱し始めた。
「まず邪魔者を一掃してやろう。
巨獣の足音を聞け。死の匂いが近づくたびに感じる恐怖にひれ伏す哀れな子羊たちよ。すぐにニブルヘイムより迎えが来たらん。爆導鎖!」
『邪魔者を一掃』という言葉を聞いてすぐ、これは範囲攻撃だろうと予測した俺は、インスタント呪文で対抗した。
「魔素抑制!」
サキも読んでいたらしい。ほとんど同時にインスタントの魔法結界を発動。
「無双の飲んだくれ!」
俺が詠唱した魔素抑制は一定時間マナの動き、効果すべてを半減させる呪文。自分の魔法も使いにくくなるが、背に腹は代えられない。悪魔の範囲攻撃呪文なんて怖いものをそのまま喰らってたまるか。
一方、サキの方は防御力と回避能力を同時に上げる魔法。今、この場にいるのはエース級の騎士とマチコ、俺。クララは村人が残っていないか探しているし、リュウは上空にいる。避け切ること、最悪当たっても急所でなければなんとかできると考えたのだろう。
大きな爆発音が数え切れなかったが十から二十ほど続き、風圧に揉まれる。爆発が次にどこへ続くのか分からず、避けることができず丸まって手で頭を覆い堪えるしかなかった。
マチコはアーティファクト土石流の靴の効果で地滑りのようなものを起こし離れた場所へ逃げていた。サキは余裕で躱し、ガウェインも無事健在。ライオネルは先程のダメージが残っていたのか避け切れず後方へ弾き飛ばされ、ファーガスも片膝を付いて腹を押さえ顔は下に向いている。
俺自身は爆発音で耳鳴りと頭痛がして、目が回り状況を把握するのも大変な有様だった。
「うう、抑えられなかったか。みんなは?」
「クッキー、寝ていろ。あとは私がやる。ガウェイン卿はマチコと一緒に騎士たちを助けていただきましょうか。悪魔祓いは私の専門なので。」
俺は首だけまわしてサキとレッドを見た。何が始まるというのだろう。ガウェインがライオネル、マチコがファーガスを担いで移動しようとするのが分かった。
では、俺は魔法で自分自身の回復をしよう。しかし、自分でマナの働きを半減させてしまいマナを使用するペンタグラムやヘキサグラムは効果が薄いので、精霊魔術で何とかしなければ。火と水を同時に使う魔法で体温と血流の調整をする呪文がある。
「湖上の煙!」
身体の痛みが少し退いた。上半身を起こすと南側の陣を仕切る騎士ケイが俺を助けに来てくれた。塹壕を越えて出てきたようだ。ありがたい。
「ケイ卿。忝いです。」
「大丈夫か。無理して喋るな。一旦退こう。」
ケイは俺を肩に担ぎ後方へ向かい、レッドとサキから距離を取って俺を庇うように大楯を立ててくれた。サキが気になるので、アイテム保管庫から半弓を取り出し、立ち上がって大楯から身体を半分出してレッドを狙う。円い穴が開いた鏃には緑色のマナのトークンを嵌めてある。
レッドは両手の爪を熊手のように伸ばして刃物として振り回し、サキはそれをサーベルで捌いていた。サキは身長190センチを超えるものの相手は5メートル近い悪魔。呼吸も乱さずあっさりと爪を避けているようには見えるが、有利なわけがない。タイマン張って大丈夫なのかよ?
「魔除けの蛇!」
心配していたが、杞憂だったらしい。サキが呪文を詠唱すると途端にレッドが苦しみ始めた。これはチャンスと思い俺は矢を放った。レッドの腰に矢が刺さると、緑色のトークンの効果が発揮される。癖の強い植物の弦のような物がレッドの脚に巻き付き歩行の自由を奪う。
サキはすかさずその脚をサーベルで貫いた。するとサキはまた別の呪文を唱える。
「石の遺跡!」
レッドの脚が固まって石化する。押している!いい状況だ。
しかし、デーモンには蝙蝠の羽根がある。黒い羽根を上下に動かし飛び上がると、矢のお返しとばかりに、こちらに火力を撃ってきた。反射的に大楯の影にしゃがみ込み、地の魔法で壁を作るが、その壁はいとも簡単に吹き飛ばされた。ケイ共々爆風にあおられて転がり、自陣の塹壕近くまで行ってやっと止まった。
姿勢を直しレッドに視線を向けるが、もう元の場所にいない。もっと高く羽ばたいてガウェインやマチコにも上から火力を撃ちこんでいる。防いではいるが。ファーガスを抱えたマチコは雷撃が使えない。こちらでなんとかしなければ。
思いつくのは魔法の矢。追尾機能があり、ほぼ確実に当たる。だが、使ったことはないし、今はマナの効力が落ちている。精霊魔術か!そうだ!
「ジラース!頼む。力を貸してくれ!」
「おう、いるぞ。任せておけ。」
加護を授けてくれている火の精霊火蜥蜴がクルリと身体を回しながら宙に浮いている。自分の尻尾を掴んで輪になったと思ったら、そのまま火の輪としてレッドに向かって行った。
今回のネタ。コルピクラーニ はフィンランドのフォークメタルバンドの名前から。
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