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撃てるんデス! ~自衛官の異世界魔法戦記~  作者: 井出 弾正 (いで だんじょう)
第5章 戦役
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第64話 作戦敗け

前回あらすじ

クライテン村奪還作戦の中で裏切者と思われるデイヴを捕らえたが。

奪還作戦そのものが、敵軍の囮に引っ掛かった結果だった。

 ミッドガーランド水軍北西方面艦群。陸続きの隣国ノースガーランドとガーランド海峡を挟んだウエストガーランドを牽制するため、大小二十隻の艦船から成る国防の要。その旗艦(フラッグシップ)ブルーノアの船長アグラヴェインは、ミッドガーランド王城騎士団の団長で軍の総指揮官ガウェインの弟である。


 クライテン奪還作戦では、漁船に乗って村を脱出してくる村人を保護し、またクライテン港の外側を包囲し港に残るバルナック軍の輸送船二隻を足止め、また海上を封鎖してバルナックからの援軍が来ないように睨みを利かせるのが任務であった。主要な戦力、大型のガレオン船十隻を派遣していた。


 クライテン奪還作戦は夜明けとともに攻撃開始だが、その前段階として夜明け前に十数隻の漁船を迎え入れ、船団の海上での編隊も組み上がった。巨大なゴーレムを操る冒険者パーティ、つまりは俺たちシルヴァホエールの参戦が伝わっていたこともあり、船団の誰もが作戦の成功を信じて待っていた。


 しかし、そこへ魔法通信でとんでもない知らせが入った。商業都市クラブハウスの港にバルナック軍の船団が現われたというのだ。


「なんだと!そんな馬鹿なことがあるものか。どうして今まで気付かなかった?」


非常事態宣言と救難の要請。クラブハウスは軍港ではないので、水軍の常駐は最低限の治安維持程度のものでしかない。さらに拙いのは、大きな商船が入れる港は深さも十分にあり大型の軍船も入港可能。バルナック軍が上陸できてしまう。


 それにしてもミッドガーランド島とウエストガーランド島との間のこのガーランド海峡は幅が狭く、40km程しかない。水平線、地平線の視認できるのは16km先までだ。船が帆を張っていれば、その高さもあるので、さらに3kmくらい先まで見えるはず。海峡の真ん中を北西方面艦群は通ってきた。一隻だけならば、見逃すこともあるだろうが、十隻のガレオン船が2~3kmの間隔を取り並走してきた。どの船も気付かないなど、あるはずがない。

 バルナックは元々ウエストガーランドの一地方であり、ウエストガーランド島の南端。そのバルナックとクラブハウスの中間くらいの位置にクライテンがあり、北のリマー港からクライテンへ来たミッドガーランド北西方面艦群とバルナックからクラブハウスへ向かうバルナック軍とは、どこかで鉢合わせする。それがなかったのは、考えられる理由としては、先に動いていたバルナック軍がクラブハウス近海のどこかで魔法でも使い隠れていたか。もしくは、バルナックを出て時計回りにウエストガーランド島を大きく迂回して北側から海峡に入ったかだ。


 いずれにしてもミッドガーランド軍は完全に裏をかかれた。救難信号を無視はできず、クライテン奪還作戦を放棄もできない。アラグヴェインは船団を二つに分けた。漁民を保護した後方部隊の輸送船を含む五隻をクライテン近海に残し、旗艦ブルーノアはじめ五隻がクラブハウスへ転進した。


 月が三つあり潮汐の複雑なこの世界では、天気が変わり易い。ブルーノアが舵を切ると細かい雨が降り始めた。




 風と時空間の魔法による通信で王都ジャカランダにも戦況は報告されている。商業都市クラブハウスからバルナックの軍船が来航したとの情報が王城を騒がせていた。ただでさえ三体の空飛ぶゴーレム『メッサー』の奇襲を受け、上を下へのお騒ぎなのだが、クラブハウスを見捨てたとなれば、ジェフ王、グレイシー王家の国民からの支持は下がり、騎士団としても名誉を傷つけられることになる。


「翼の付いたゴーレムは、とりあえず魔法兵団と弓隊で応戦しろ。爵位を持った騎士は全員、城内の大聖堂ホールに集まるよう触れを出せ。」


トリスタンが側近に命じる。トリスタンは年齢からするとガウェインやケイよりも若いため今回の作戦の指揮官とはなっていないが、「最強の騎士」との誉れ高く、王城の守りを任されている。今王都に残されている戦力から選出してクラブハウスへ増援を出さねばならない。


「最初からクライテン村ではなくクラブハウスを狙っていたということだな。ゴーレムを上陸させるための大きな港が欲しかったのだ。」

「戦略に関しては、敵の軍師が一枚上のようです。しかし、私が自ら軍を率いてクラブハウスからバルナックを追い出してみせましょう。」

「クラブハウスからは街道を通れば、このジャカランダへも攻め込まれるな。」

「クラブハウスが陥落すれば、そうなりますが。そうはさせません。」

「スコットやラーンスロットがいてくれれば・・・。」

「それはおっしゃらないでください、陛下。」


 ジェフ王とトリスタンが軍議の前に段取っているが、ジェフ王はすっかり気弱になっている。ジェフ王も元は前王アルトリウスに仕えた屈強な騎士の一人なのだが。


(陛下もお年を召したということだろうか。)


 ジェフ王は五人の王子と一人の王女を授かった。だが、最も優秀で期待の大きかった長男スコットが三年前にこの世を去り、気落ちしてしまった。ラーンスロットは、ジェフ王と同じく前王に仕えた騎士で、ジェフが王位に就く前からの騎士団長であり、その後は兼任としてスコット王子の守役だった。名君と評判のジェフ王は、しっかりと国務をこなすが、古参の騎士たちには時々寂しい表情を見せることがある。


 大聖堂ホールに騎士たちがぞろぞろと集まり始め、ジェフ王とトリスタン、側近たちが執務室から大聖堂へ移動しようとした時に、にわかに城外が活気づき騒がしくなった。ゴードン王子が親衛隊を引き連れ城壁の上に立ち、ゴーレムと戦い始めたからだ。


(ひる)むな!栄光のミッドガーランド騎士団に敗北などはない!私は三年前には、かの英雄・坂上礼三と共に戦った。あの時に比べたら、こんなものは困難のうちに入らない!」


 グレイシー王家の四男ゴードンは、元AGI METALのメンバーである。三年前の戦争が始まる前、功を焦った宮廷魔導士たちの先走りで、レイゾーたち四人の異世界人を大魔法でグローブから、このユーロックスへ転移させたのだが、その四人と彼の兄スコット、スコットの守役ラーンスロットの六人が、AGI METALの第一期の顔ぶれだ。

 兄スコットとラーンスロットの死後、代わりにガウェインと一緒にパーティに加わり、その後ジェフ王に連れ戻された。短い期間ではあるが、AGI METALの後衛職として活躍した魔法剣士。魔法の知識と運動神経の良さで騎士たちからも一目置かれる存在。


 ゴードンは投げ槍(ジャベリン)を大量に運び込み、穂先に魔力を込める。エンチャントによる効果を槍に与えているわけだ。


「大弓は効かず、弩弓砲(バリスタ)は追いつけない。ならば、これだ。」


 羽根つきゴーレムは我が物顔で飛び回っているが、ゴードンは姿勢を低く上体を後ろに仰け反らせると、その一体に向けて助走もなしにジャベリンを投げつけた。ゴーレム『メッサー』は甘く見て避けようともしないが、そのジャベリンが翼にヒット。金属とはいえ、薄い膜のような翼に槍が刺さると穂先が爆ぜた。

 ゴーレムが地に落ちると、その轟音をかき消すように歓声が上がり、剣の柄を盾に打ち付ける威嚇音がする。その打音はやがてリズムを取り、手拍子も重なりこだまして兵たちの士気が上がった。魔法兵団はゴードンを真似て攻撃補助呪文を用いて兵を助け、戦況は保ち直していくのだった。




 そして、クライテン村の奪還作戦はといえば、トロールの数があまりに多い。しかしトロールごときにタロスが倒されることはありえない。作戦に参加している軍も少しづつ新しい武器や戦術に慣れてきたのか、だんだん押している。


 俺はクララ、マチコと一緒に村の中心部に踏み込むと、ガウェイン、ファーガス、ライオネルといったフルプレートアーマーに身を包んだ騎士たちがトロールよりも大きな魔物と戦っていた。騎馬の扱いになれたガウェイン、ライオネルは馬上で長槍を振るっているが、平民上がりのファーガスは馬を降り、槍を頭上で回している。

 大きな魔物とは、一つ目巨人(サイクロプス)。鉄の杭のような武具を持った三体の一つ目が背中合わせになり、三方にいる騎士と衝きあっていた。その真ん中には、もう一体。一つ目ではなく、ヤギの頭に黒い身体。コウモリの羽根と細い尻尾。デーモンだった。


マチコがデーモンを見ると、ミミズクのリュウを呼ぶ。おそらくこの悪魔が、今回の作戦の肝なのだろう。リュウがどこからともなく飛んできて傍らに舞い降りた。


「リュウ、サキに繋いで。おそらくコイツが本命よ。」


リュウがサキの声で話し出す。リュウの地声ではない、もっと低く落ち着いた声だ。


「恐竜退治で会ったデーモンとは別の個体だ。オズマやクララの話から察すると、おそらく三男爵とかいう輩の一匹だろうな。」


するとデーモンが話し出した。


「ほう。貴様、マスターオブパペッツか?私はレッド。その三男爵の頭目だ。貴様、マッハから、我々の敵にはまわるなと忠告を受けたのではなかったのか?」

「敵もなにも。私からすれば、お前たちは駆除の対象でしかない。」

「フッフフ。言いよるわ。そんなフクロウなんぞに憑依(ひょうい)していないで出てこい。捻り潰してやろう。」


 レッドが指をパチンと鳴らすとサイクロプスたちが咆哮し、杭を大きく振り回してライオネルとファーガスを弾き飛ばした。ライオネルの馬は血を流して倒れ、ファーガスの鎧は胸のプレートが裂けた。周囲を固めていた騎士たちも数名が倒れている。ガウェインだけは杭を受け流した。


「私はバルナック軍の陸軍を預かる身だ。宣戦布告のときには、陸海空三軍全体の指揮とバルナックからクリーチャーを送り込む役目だったのでな。少々運動不足であったわ。ここいらで発散させてもらおうか。」


レッドは、マッハよりもサイクロプスよりもさらに大きな身体で、首を捻りながら指をポキポキと鳴らしている。あれは顔に「喧嘩上等」と書いてあるな。


これまでレッド男爵は出番が少なかったので、次回は活躍なるか?

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