第63話 捕縛
クライテン奪還作戦 ララーシュタインのインヴェイド・ゴーレム三体を撃破。
村へ突っ込みます。
クッキーの前任者、デイヴとは?
タロスを出た俺とクララはクライテン村へ駆け込む。当然矢が飛んでくるが、それは地の魔法で壁を作り防いだ。地の精霊ノームのオキナとの契約のお陰で精霊魔術のパワーが段違いになっている。
「いくぞ、オキナ!微震!」
局地的な地震を起こし足下にダメージを与える範囲攻撃呪文で敵の攻撃を封じる。日本人の俺にはたいしたことはないが、この世界の住人はパニックだ。塹壕が崩れるところもあり、敵兵が半身生き埋めで生首のようになっていた。
クララがダガーを投げバルナック兵を倒すと風のダガーの精霊の力の効果で手元に飛んで戻ってくる。それをまた投げの繰り返しで突破口を開き、進んでいくと数名の魔法兵団を見つけた。領域渡りの門がおよそ人数分並び、トロールが続々と出てくる。
「じゃあ、次はこれだ。業火!」
幾つもの火球を飛ばす六芒星魔法のインスタント呪文。今回が二回目。なんとか物にできただろうか。トロールたちの顔面目掛け飛ばした火力が勢いよく緑色の皮膚を焼き巨体を弾き倒す。デイヴってのは、どいつだろうかと魔法兵団を睨むと、背後からマチコの声とともに轟音が響いた。
「甘いわよ、クッキー。元を絶たないとね!落雷の鞭!」
雷撃の手甲を使った攻撃。バルナック軍魔法兵団の一人は焼き過ぎたステーキのように丸焦げになりプスプスと煙をあげている。その周りには何人もが魚河岸に並んだマグロのように倒れていた。人が雷に撃たれたのだ。おそらく心臓は止まっている。ある意味で地獄絵図だ。
残った立ち尽くす人影の中にクララがデイヴを見つけた。火のダガーを右手に持ち走る。
「見つけましたよ、デイヴ!」
「よお、俺を追いかけてきたのか?デートしてやってもいいぜ?」
「バルナック軍の中にいるのは、どういうことです?答えなさい!」
クララは火の属性のダガーを投げつけた。ダガーは火球となったが、デイヴの持った円盾に弾かれた。なるほど、彼がデイヴか。それなりに端正な顔立ちをしているが、眉間に皺を寄せ人相が悪く見えるな。顔は憶えた。
「あっぶねえなあ。それが愛する男に対する態度かい?」
「黙りなさい!」
なんだか俺の方が気分悪くなってきた。こいつ絶対捕まえよう。ストレージャーから短槍を出しクララよりも前へ出た。
「なんだよ、邪魔くせえな。」
「クララにちょっかい出すなよ。チャラ男。」
短槍で上から下へ唐竹状に円盾を叩き落としてやった。そのタイミングで、またクララは地属性のダガーを投げるが、それをデイヴはブロードソードで防いだ。
風の属性のダガーの効果でクララが二本のダガーを手許に戻すと、周りにいる魔法兵が火力呪文を撃ってきた。そうはさせない。俺は防御系の呪文はあまり得意ではないが、それなら別の方法でやるまで。
「偏向!」
俺はペンタグラムのインスタント呪文で、敵の火力呪文の対象を切り替え、跳ね返した。バルナック軍の火力呪文が、自分たちのトロールの方へ飛ぶ。側面から不意打ちのような火力呪文を喰らったトロールたちは掠れた唸り声を上げて倒れ、煙となって消えていく。
「デイヴ!お姐さんは許さないわよー!
クッキー、しゃがんで!」
「はい!」
俺が片膝を着いてしゃがむと背後から走ってきたマチコは、陸上競技の三段跳びのような動きで跳ね、俺の背中を踏み台にしてさらに高くジャンプ。そのままの勢いで俺が向かい合っていたデイヴの頭をも超えた。
(え、キックか何か狙ってたんじゃないのか?失敗?)
と思っていると、飛び越えながら自分自身は逆さまになりデイヴの後ろから腰にしがみ付き、勢いを活かしてデイヴを捕まえたまま前回転。デイヴの両脚が上がったままの状態で後頭部と両肩は地面に着き、脇が開いた両腕をマチコの脚が押さえつけて極めた。
「回転エビ固めよ。観念なさい。」
「くっそおおお!放せええ!」
「放せと言われて放す馬鹿いないわよ。」
デイヴは首が前に曲がっている形になっているので、呼吸も苦しいはず。腕は動かせず、脚をバタバタさせたところでどうしようもない。マチコの一本勝ちだ。
このままマチコが極め技で固めておくのは、人材の無駄使い。俺は地の精霊のノームを呼び、デイヴを逃がさないように念を押す。
「オキナ、そいつを捕まえておいてくれ。」
「ほいほい。それくらいはお安い御用じゃな。」
長い髭を撫でながら現れた身長1メートルもない老人姿の精霊は、ゴニョゴニョと小言で呪文を唱えると、地属性らしく植物の根のような物が地面から這い出して、デイヴを雁字搦めにする。デイヴが動けないと確認すると「ハイホー!」と言い残し、姿を消した。
サキが、クッキーには人は殺せないと言っていたことをずっと念頭に置いているマチコは、俺にトロールの相手をしろと指示を出し、クララには逃げ遅れた村人がいないか探させ、自分自身は人間のバルナック兵をなぎ倒していく。
しかし、そう上手く事は運ばない。村の中心部から、また新手が出てくるうえに、味方の騎士団たちも苦戦していた。
トロールは動きが素早いうえに棍棒や戦棍といったシンプルな打撃武器を持っている。一体が倒れれば、別の一体が、その武器を拾い投げてくる。ミッドガーランド軍としては、弩弓砲や投石器を活用しているのだが、トロールによって投擲される打撃武器は、むしろ質量では投石器で飛ばされる石弾よりも大きいのである。特に戦棍の頭部は重く、先が尖った物もあるため厄介だった。重装板金鎧を着込んだ騎士でさえ、当たれば一溜りもない。というよりもプレートアーマーに対しては、かえって剣よりも打撃武器が有効である。また、その打撃武器は投石器などをも破壊した。
タロスならば無敵の強さを発揮したが、毛むくじゃらの魔物の数が多すぎた。その数も減るどころか増えていく。
指揮官であるガウェインは召喚しているか、渡りなどの能力か、魔法か。他の場所から移動させて来る魔法使いを斃し、トロールの数を抑えるしかないと考えた。その為に北側の陣地からライオネル卿に攻め込むように命じていたのだが、それを待ちきれない。ファーガス卿と数騎を引き連れ、自らも村の中へ突入する。
「ファーガス、手柄が欲しいだろう。軍旗は他の者に任せ、槍を持て。」
「おおっ、待ってました。暴れてやりますよ。」
騎士団でもエース級の猛者たちが南側の陣地から飛び出した。元AGI METALのメンバーでもあるガウェインの実力がどれ程なのか、俺も興味がある。騎馬には追い付けないが、トロールと戦いながらだ。遠目にでも活躍が見られるだろう。俺もマチコも村の中心部へ向かって走り出した。
次回は騎士たちの活躍になります。