第61話 裏切者
前回 あらすじ
クライテン村 奪還作戦開始 マチコの操るタロス 大暴れ
デイヴ・マルムスティン。俺の前にシルヴァホエールにいた精霊魔術士。タロスの砲手だったが、タロスが増幅する魔法のパワーに中てられてしまい、自分の力を過信してパーティを苦しめてしまった未熟者だと聞いている。タロスが大型の魔物に敗北し、パーティが一時離散してタロスの修復をしないといけなくなった原因を作ったと。サキがクビにしたと言っていたような。
クビにされたのなら、その後何をしていようが本人の勝手なのだが、敵方にいるのか?それは拙いんじゃないのか?
「まさか、タロスの情報を流してるんじゃ?」
「あ、あのチャラ男、お姐さんは許さないわよ~。」
「あれは、たしかにデイヴだな。何故あそこにいるのか。捕まえて問い質してみよう。」
三人とも怒っているようだな。サキはまだ冷静だが、女性陣二人は敵に寝返ったとの疑惑で固まっているようだ。
「戦闘中。それどころじゃないですよ。業火!」
インフェルノ。俺が初めて見た魔法。レイゾーが使った火力呪文。火力とは言っても火の精霊魔術ではなく、六芒星魔術の赤と青のマナを使う多色の呪文だ。複数の目標に向かい火柱が飛ぶ。マリアから訊いた話では、レイゾーが使う攻撃魔法は、ほとんど複数の対象を取るものだそうだ。何故かといえば、対象が一つならば剣で斬りつけたほうが早いから。レイゾーの剣は速く鋭い。
だが、俺が魔法使いになりたいと思う切っ掛けとなった呪文だ。ずっと試してみたいと思っていた。ゴーレム三体を足止めするのに丁度良かった。それどころか、ハイルの胴体の表面が赤化して溶け始めている。タロスの増幅の効果だろう。
マチコは気を引き締めたらしい。ちょっと声が低くなった。
「そうね。まずは目の前のゴーレムを倒して、デイヴを問い詰めに行きましょ。」
ハイルVの一体を抱え上げボディスラムで、別の一体に向けて投げつけた。プロレスと違うのは、受け身を取れない角度で頭から落としたことだ。二体の動きを封じた。
しかし、バルナック軍も黙って見ているわけではない。デイヴの周りに駆け付けた兵はいずれも魔法使いである。魔物を召喚した。
魔法陣から高さ5メートル程のトロールが次々と現れた。長い毛に覆われたモンスターは、ただ大きいだけではなく動きが速く、さらに棍棒のような武具を持っている。
南側の陣の指揮を執るケイ卿は早速、弩を構えるように指示し迎え撃つ。この場合の弩は構造としてはセントアイブスのクロスボウと同じだが、金属の板バネを使用しており強力だ。椀力が強くなければ引いて矢をつげない。ボルトと呼ばれる短い矢を用いるが、石を飛ばすこともある。
セントアイブスでは三年前の戦争で働き盛りの男手の多くが戦死してしまい、腕力の弱い者でも扱える半弓や通常の弦を張ったクロスボウが主流となってしまった。またラビリンスに入る探索者も狭い場所での使用を考慮して、威力はあるが嵩張る大弓よりも扱いやすい小さな半弓を好んで使用する。タムラが射手の上級職の狙撃手でありながらテオのダンジョンのオーバーラン防衛戦にて、弓矢を使っての活躍が目立たなかったのも威力の弱い弓を使っていたからだ。
「まだ遠い。近づくまで落ち着いて備えろ。」
ケイは先代の国王にも仕えた老兵だが、経験豊かな名将である。そちらは任せておいて良いだろう。
「サキ、マチコ姐さん、あれいこう。できれば二つ一度に片付けよう。」
「おう、早めにカタをつけて、デイヴを追うか。」
「まかせといて。」
「クッキー、お願い。」
俺が呪文の詠唱を始めると、マチコはハイルを投げたり蹴飛ばしたりで一ヵ所に集め始める。これならば、一つの呪文で一度にゴーレムを葬れる。ところが突進してきたトロールがタロスに体当たり。手に持った棍棒を振り回し、膝の裏側を打ってきた。
高さ17メートルのタロスに対しトロールは5メートル程。タロスがヒトならば、トロールは中型犬くらいの比だろうか。犬でも群れになれば脅威となる。片膝を付いたタロスにトロールの群れが飛び掛かってくる。クララは次のトロールの動きを予測し知らせ、サキが防御の呪文を掛け、マチコはトロールの棍棒を掴んで奪う。
だが、トロールの数は益々増えていく。どうやら既に召喚して他の場所にいるトロールを領域渡りでこちらに移動させているらしい。恐竜が出現したときと同じ手法だ。それを今やっているのは、近いうちに攻勢を掛ける計画でもあったのに違いない。
「埒があかん。シャリオ計画のあれは動けそうか?」
「はっ、いつでも行けます!」
「よし。では、まだ距離があるので投石器の方から試そう。上手くいけば弩砲を前進させる。」
ケイ侯爵は兵に指示を出し、今回初お目見えの新兵器、馬車に積んだ投石器を稼働する。セントアイブスに入り込んだ恐竜を討伐するため、俺は自分のミニバンのボンネットに取調室の据え置き式弩砲を括り付け、街中に移動させて使用した。それを見たサキから、サキと俺の連名の形でクラン経由で国軍に新しい戦術として具申していた。それが現実となり、国軍に装備されている。セントアイブスでも公邸と冒険者、職人、商人のギルドの連携で生産が進められている。
カタパルトの外観はゴンドラが二つしかない観覧車を小さくしたような物だ。土台の上に二本の柱を立て、その天辺を支点とし二本の腕が回転するようになっている。その片方には錘を取り付け、もう一方の腕の先のスプーンのような器の中に石等を入れる。ロープなどで引っ張り錘の付いた腕を上に挙げれば、錘が下がる反動で、石を飛ばす。バリスタの矢と違うのは、放物線を描いて上に飛ぶため長い距離を飛ばせること。そして壁などの障害物を越えていき上空から攻撃できることだ。
バリスタが主力戦車の滑降砲やライフル砲なら、カタパルトは自走砲の榴弾砲に近い。これまで据え置きか、攻城兵器としては大きな車輪を装備し人海戦術で引っ張って運んでいた物をやや小型にし、二頭立てか四頭立ての馬車で移動できるようにした。
そのシャリオ計画のカタパルトが動き出した。タロスの周りにいるトロールたちが石礫の雨に打たれる。5メートルの巨人といっても百メートル以上の距離を飛んでくる石が当たれば堪ったものではない。トロールの群れはあちこちに散開して逃げ回る。
それを見たサキはクララに指示を出す。俺が呪文を使う隙を作るためだ。
「クララ。出番だ。投石器の石を拾え。」
「はあい、クララ。しばらく交代ね。頼むわよ。」
マチコがタロスの操縦権をクララへ譲る。クララの外側に向いたシートが回り、前を向く。
「はい。アイ ハブ コントロール。やりますよ~。」
投擲武器の扱いに長けたクララは、カタパルトに依って飛んできた石を拾い集め、三体のハイルに向かって投げ、悉く命中させる。頭や足首など歩くバランスを失いそうなところを狙い、追い詰めて一ヵ所へ固まらせる。
俺は、途切れ掛けていた意識を再び集中させ魔力とマナを練り上げるイメージを頭の中に作り上げ、攻撃呪文を撃ち込むタイミングを押し計る。そして、此方から見て三体のハイルの影が重なった。
「魔素粒子加速砲!」
タロスは両脚を踏ん張って立っている。タロスの前面に浮かんだ二重の魔法陣の中の五芒星の頂点が輝き、さらにもう一つ明るい閃光が起こると、三体のゴーレムは轟音とともに消失した。
「ふん。タロスは強いが、ララーシュタインのゴーレムも弱すぎだろ。」
デイヴは目を細め呟く。舌打ちしながら。
X(旧ツイッター)やっております。
@idedanjo