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撃てるんデス! ~自衛官の異世界魔法戦記~  作者: 井出 弾正 (いで だんじょう)
第5章 戦役
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第57話 試食会

 取調室の試食会へ行く前に四人揃って職人ギルドへ寄った。窓口では挨拶もそこそこに紹介された工房へ。

 クランSLASHからの提案という形で、タムラ、マリア、サキ、俺が考え付いたアイデアを騎士団、国軍へ伝えており、そのために必要な武具、道具の制作をしてもらっている。四つの案を出しているが、そのうちの一つは俺から。陣地形成に関する事で日本の戦国時代の築城方法を参考に。もう一つはサキと俺が共同で立案した。この『シャリオ計画』は特に大掛かりなものになるので、自分で使うものではないが様子を見にきたわけだ。


 まずは陣地形成に関しては、土嚢の積み方を工夫して攻撃をし易くする部材作りの確認。これは、すぐに済んだ。木枠の寸法と頑丈さを確かめただけだ。部材よりも実際の陣地の出来の良し悪しが重要なので、結局は工作部隊のブライアンや土木建築の職人たちの頑張りに期待するしかない。


 そして『シャリオ計画』。これはシャリオの名前のとおりのものではないが、他に良いネーミングが思いつかなかった。まあ、いいだろう。

 本来のシャリオ、またはチャリオットとは、古代の戦争に使われた戦闘用馬車。日本語では単に『戦車』と訳される。二頭または四頭の馬に二輪の馬車を引かせ、御者ともう一人か二人の槍や弓で武装した兵士を乗せる。小回りなどの機動力の面では普通に馬を駆る騎兵に劣るが、例え直線的な動きでも高速で移動する馬車から矢が飛んでくるのは脅威だろう。馬車の前面側面に剣や鎌などの刃物を付けて敵兵の隊列に突っ込むといった戦術もある。

 ただ、名前のとおりでないのは、これは恐竜などの大型のクリーチャー、モンスターに備える兵器であることだ。此処セント・アイブスのような小さい街では、ほとんどいないが、王城の騎士団などの国軍には重騎弓兵がいる。通常のシャリオよりも重騎弓兵のほうが強い。シャリオでは、横方向の揺れや旋回に弱いので機動性でどうしても差が付くからだ。

 サキと俺が考えたのは『戦車』というよりも『自走砲』だろうな。二輪ではなく四輪の馬車を使う。その四輪馬車の基本骨格(シャーシー)と荷台作製の進捗状況を見せてもらった。足回りの安定性が何よりも大事になる。頑丈に作ってもらわねばならない。


 タムラとマリアのアイデアは鍛冶による部分が多いので見るだけは見てきたが、何も口は出さなかった。刃が外側に付いた鎌のような鉄板や、中央に穴が開いた(やじり)。そして鍛冶仕事の後にも、職人技の要る細工や呪術師(エンチャンター)による魔法の効果付与の工程がある。複雑な仕事を大急ぎでやってもらっているのだった。



 さて。昼になりレストラン取調室に入店した。今日は新メニューの試食会のため、一般客はなく貸し切り状態。もっとも、この世界では食事は朝夕の一日二食が基本なので普段から昼間には客はそう多くはない。よく商談や冒険者のブリーフィングには使われるが。

 続々と試食会に参加する面子が集まってくるが、錚々たる顔ぶれだ。この街、いや半島の守備を担う騎士団のトップや重要な公職のほぼ全員。

 上座は空けてあるが、上座に向かって右側に俺たちクランのメンバー。上座に近い席からサキ、ガラハド、マリア、タムラ、マチコ、クララ、俺。それにオズマ、メイ。冒険者ギルド、探索者ギルドの管理職。

俺たちの向かい側には、領主公邸の守りを固める騎士や臣下。団長のロジャーを筆頭に騎士団の隊長級、魔法兵団の団長や政務官。

 出入口近い下座には評価ランクの高い冒険者パーティのリーダーたち。おそらくこの侵略戦争からの街の防衛に加担してくれるのだろう。まあ、内心には稼ぎや名誉などの欲があるのかもしれないが、なにも悪いことではない。


 そして、領主のページ公と王都ジャカランダからの使者としてガウェイン卿が入店し上座に着くとレイゾーもページ公の隣に座った。下座の冒険者たちは、さすがに緊張している様子。タムラが合図すると新メニューが運ばれてくる。日本人の俺にとっては、新メニューとはどんなものか想像に難くない。と、高を括っていたが、半分当たり、半分はずれ。『ソースカツ丼』と『焼きそば』だった。そうきたか。トンカツだと思っていた。まあ、トンカツとごはんの間にキャベツの千切りはあるし、焼きそばにもキャベツと豚肉が入っているが。ページ公に召し上がっていただくにはジャンクっぽくないんだろうか。まあ、グローブの世界の風習なんて知らんわな。美味しければいいのか。ラーメン食う領主様だからね。


 レイゾーとページ公の挨拶も終わり、皆ピルスナーのグラスを持って乾杯すると、飲むよりも食べる方に一生懸命だ。加熱されたソースの香りには勝てまい。いや、勝ち負けではないが。冒険者のリーダーたちなどはもう必死に食べている。


「一人でこんなに美味いもん食ってたらメンバーに恨まれるなあ。」

「おう、そうだな。明日にでもメンバー連れて食べにこないとよお。後が怖え。」

「未知の料理だ。自慢したいけど、自慢したら怒られるよねえ。」


 俺も一ヶ月程、サクサクの衣の揚げ物や中濃ソースを味わってはいなかったので、嬉しい限りだ。食べながら何故トンカツ定食ではないのかと考えたら、思い出した。初めて此処で食べさせてもらったときに味噌がないと話したのだった。レイゾーもタムラも料理に妥協しないので、味噌汁のない定食は許せないのだろうな。おそらく漬物などの副食も。しかし、ここは単品のトンカツとライスのメニューを具申するぞ。


 マチコが作った料理でないと、肉などはほとんど食べないというサキもしっかり食べている。この店の食材調達係としてホッとした。


「ギルド職員にまた飯おごってくれとか、たかられそうだなあ。値段はどんくらいだ?」

「いいんじゃない?これが街の名物として有名になれば冒険者が増えるわよ。ギルドマスターとして喜びなさい。」


 ガラハドは要らぬ心配をしている。逃げればいいのに。マリアとは対照的。


 席が並んだタムラとマチコは早速料理の話題で盛り上がっている。


「食器の問題もあって、なかなか定食はできねえんだよなあ。ソースカツ丼ならカツ丼と同じ丼だから。味噌汁に合う椀を新しく発注せにゃならん。沢庵だって小皿がない。」


食器の話をしているのかと思えば、調理法や材料へと話題は飛び、


「冒険者で移動が多いから、今までやらなかったけど、あたし味噌でも漬物でも発酵食品には煩いし、当然作れるわよ。あれって究極の健康食品じゃないの。」


そこからどんどん発展し、最後には


「おおい、了よ。胡麻に追加で、大豆探してこーい。味噌カツでも味噌ラーメンでも作ってやっからー。」

「豆腐に枝豆も食べられるわよー。」


仕事が増えた。まあ、遣り甲斐のある仕事ではある。

オズマとメイはといえば。やはり食事は気に入っている。オズマは食いっぷりが良い。


「マーベラス!おい、メイ。」

「皆まで言うな。言われなくっても、レシピ教わってくるわよ。」


 この一見豪快なモジャ頭の長身色黒おじさんは、姪には弱いらしい。ずっと笑顔で食べていたクララが耳元で囁く。おいおい、俺、そういうの弱いから。


「ミソカツにミソラーメン?クッキーの故郷の料理、あたしも食べてみたい。ね、クッキー、貴方の故郷に行ってみたい。」

「あ、うん。クララが一緒なら、何処へでも。」


 試食会はとても好評。二つとも取調室の正式なメニューに加わる事が決まり、食事を通じて立場の違う人たちも打ち解けたようだ。

 それから食後の紅茶が運ばれてくるとレイゾーとサキが立ち上がり、大事な話し合いがあると告げた。いよいよ侵略者からこの街を守るための会議だ。


昔、三菱にシャリオって車がありましたね。RVRの胴体が長いヤツ。


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