第52話 対ゴーレム戦
前回あらすじ
恐竜と戦っていたゴーレムが、タロスに襲い掛かってきた。応戦中。
タロスの低い位置で回し地面に擦り付けるジャイアントスイングが敵のインヴェイド・ゴーレム『ハイル』の後頭部や肩を削る。タロスが踏み荒らす地面もハイルが叩きつけられるその周辺も削られ、ドーナツ状に抉られた。固い地層や岩に当たる度に火花が散り、ハイルの頭部は黒から次第に赤く変色していく。
「ああ~、目が回ります~。」
「シーナ、もう少し我慢してくれ。タロス、そろそろいいぞ。」
やはりシーナにはキツイだろうな。この世界では乗り物酔いなんて経験もほとんどないだろうし。俺は戦車の超信地旋回でグルグル回るのは馴れているが。超信地旋回とは、左右の履帯を逆に回し車体の中心を軸にその場で方向転換することだ。スピンターンとも言う。
サキの合図でタロスはハイルを投げた。弧を描いて巨体が飛び、甲高い大きな音を立てて頭から落ち、地面が凹みハイルが沈み込む。
「畜生め。タロスが強力なのは分かってたがよ。キマイラにやられたダメージがまだあるだろうに。あんなに強いのかよ。ミイラみたいな見た目でよお。」
デイヴが悔しがるが、力量差に半分呆れている。試作第一号のインヴェイド・ゴーレムでは、この程度なのか?通常ならば、ゴーレムを操れれば戦争はそれだけで勝てそうなものだが、タロスを駆るシルヴァホエールがいては、ララーシュタインの野望には大きな障害となるだろう。そのためにララーシュタインはデイヴをスパイとして送り込み、タロスを活動不能に追い込んだのだが、タロスの復帰が早いうえに、ゴーレムの戦力も期待したほどでなかった。
「立て。ハイル!お前の長い腕は何のためだ?」
脚を開き腕を挙げボクサーのように構えたハイルはストレートのパンチを打つ。タロスがブロックしようとするが、ハイルの前腕がピストンのように伸び、タロスのボディを捉えた。
「火葬!」
ハイルの拳の衝撃が伝わった瞬間、俺はインスタント呪文を叩き込んだ。同じインスタント呪文でもショックより必要な魔力は多く、その分だけ強い。ショックが通常弾ならば、インシネレートはナパーム弾のようなもの。長時間燃え、ゾンビなど不死系のモンスターならば再生させないといった副作用を持っている。ジャイアントスイングで加熱されているならば追い討ちしようと思ったからだ。
さすがミスリル製。タロスはハイルのパンチを受けても、ほとんどダメージがない。動きの鈍くなったハイルの攻撃をタロス、サキはリズムにのって捌いていく。
「クッキー、呪文の詠唱を始めろ。あの大技だ。上手くタイミングを取ってくれよ。」
「了解!
遠い世界で静かに眠れ。汝の使命はここで終わる。争いを止め平穏を求める声に耳を傾け、目を閉じよ・・・」
サキは直接タロスを操縦してハイルの伸縮するパンチを全て躱し、ローキックで脚を払いハイルの動きを止めた。ハイルがよろめくと、一歩飛び退いて間合いを取った。
「今だ!」
「・・・魔素粒子加速砲!」
俺が呪文の詠唱を完了するとタロスの口の部分がキラリと一瞬光り、ハイルの上半身が消え去った。
「よし、いいぞ!クッキー!」
腰から上の部分を失ったハイルは仰向けに倒れた。下半身だけでもバタバタと動くのだが、ここでサキが、白魔導士が使うソーサリー呪文を唱えた。
「形を成す物は混沌に。土は土に還元し、自然の摂理に従い創造主にお返し申す。打ち壊し!」
地面が液状化したように柔らかくなり、ハイルの下半身が沈み始めた。草原が底なし沼にでも変わったかと思われるような光景。やがてハイルは見えなくなり、地面は固くなった。
「え?なんだ?凄い呪文だな。」
「これはな、用の済んだゴーレムやアーティファクトを処分するために使われる呪文の一つだ。まだ執念深く動いてはいたが、ゴーレムとしては『死んだ』と『天使』が判断したのだろう。廃品回収してくれたよ。おそらく鉄や銅でできたゴーレムだと思うが、あれで鉱石に戻るわけだ。」
「魔法って、奥深いなあ。俺も魔法使いなんだけど。」
「まあ、おいおい憶えるさ。それよりも凄いのは、君のマナコレダーだな。あれが止めを刺したんだ。」
面食らったのはデイヴである。こんなにあっさりと勝負がつくとは思わなかった。
「しまった。残骸すら残らないんじゃ運用データとして片手落ちだ。それにしても、強力な魔法使いがいるじゃないか。新しいメンバーか?やっかいだぞ。」
デイヴは、さらにクララとマチコが乗っておらず、まだタロスが本当の実力を出していないことも知らない。タロスのゴーレムとしては通常では考えられない学習能力のことを把握していなかった。マチコさながらの格闘能力の高さから、デイヴは、マチコもクララも今この場に、タロスのコックピットにいるものと思い込んでいた。四人のパーティメンバーが揃うことで、タロスの能力はさらに高まるはずだ。
それは、隠れて観察していた三柱のデーモンにとっても同じだった。ララーシュタインが造るインヴェイド・ゴーレムがあれば、軽くミッドガーランドを蹂躙し侵略は成せるものと考えていた。デーモンからしたら鼻持ちならないデイヴの敗北については、それ見たことかとあざ笑いながら、一方ではタロスに驚愕し、戦力差のあり過ぎるインヴェイド・ゴーレムで対戦したデイヴに同情もしていた。このデーモンたちはララーシュタインに対しては一切の嘘偽りなく見たままのことを報告するので、デイヴが不利になるようなことはない。
今回のゴーレム同士の戦いは、ララーシュタインのゴーレム開発、侵略戦争の戦略戦術の錬成を加速していくことになるだろう。バルナック軍にとっては、タロスをどう抑えるか、避けるか。インヴェイド・ゴーレムをタロスに当てるのかどうか。
タロスをヨツンヘイムに送還する前に、サキは相手のゴーレムを操っていた主人を探すため、また、恐竜やその他の脅威がないか警戒するため、マナの流れを探知する魔法魔力探知を使った。一時的にマナを視覚化する風の精霊魔術マナファインダーや、マナを集める呪文魔素窯と同じく風を象徴する青のマナを応用したもの。
反応が四つ。そのうちマナから組織されるモノが三つ。魔物の類だ。そしてもう一つは人間。憶えのある反応だった。
(これは、まさか、デイヴ? だとすれば、ゴーレムにこだわりがあるのか、私達に対するわだかまりか?あちらから攻撃してきたからな。あまり良いことではないな。)
サキは考え込んでいた。『敵』とあらば、今戦って仕留めておくべきだろうか。
「クッキー。シーナ。まだ敵がいるようだ。タロスの外に出たら、すぐに戦うことになるかもしれん。」
「おう。望むところだ。」
「はい。私だって冒険者ですよ。レンジャーですので、足手纏いにはなりません。」
話しているうちに反応が無くなった。領域渡りを使って移動したようだ。