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撃てるんデス! ~自衛官の異世界魔法戦記~  作者: 井出 弾正 (いで だんじょう)
第5章 戦役
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第51話 対峙

前回 あらすじ。

サキのストーンゴーレムが破壊された場所にて、タロスを呼び出した。

 魔法の道具は大きく二分される。誰でも使えるマジックアイテムと、魔力を持つ者にしか扱えないアーティファクト。アーティファクトの中でも生物のように自律的に動き回ることができる物はアーティファクトクリーチャーと呼ばれる。ゴーレムもその一つだが、サキが操る自動人形(オートマトン)も当て嵌まる。

 別の分類の仕方もあり、乗り物として移動手段などに使われる物をビークルと呼ぶ。オズボーンの飛行船フェザーライトにマリアが作った箒のルンバ君がそれだ。そして、ここでも『タロス』は該当する。


 冒険者の領域渡り(フィールドウォーク)のポータルと同じような『ハッチ』が開き、それを通るとタロスの『コックピット』へ入ることになる。雛壇のような高低差を付け菱形に並んだ座席があり、後ろの高い席にサキが座る。


「クッキーは二段目の右の席だ。シーナはひとまず左の席に着いてくれ。本来は四人で動かすが、今日はいない。基本的な動きはタロスに任せよう。何かあれば私がやる。」

「お、おう。四人揃わないけど、まあ、訓練だな。」

「そうだ。クッキーは魔法攻撃担当だ。もし私のストーンゴーレムを倒した大型と遭遇すれば、そのまま戦闘になる可能性が高い。そのときには効率よく魔法を使ってみせろ。恐竜がいることも忘れるな。」


 いちおう前もって説明は受けたが。タロスはボディの中にマナを貯めこんでいて、それを使ってコックピットにいる魔法使いが使う魔法を増幅する。早い話が、魔法がパワーアップする。ミスリル製のボディの口、胸、肘、膝、掌、拳、爪先、踵の十四ヵ所にトークンの大きな結晶が埋め込まれており、そこを起点として魔法攻撃を発動する。操縦は俺の担当ではないので、操縦手のマチコの動きを邪魔しないようにするには、口の部分から火力を撃つことが多くなるのだろう。

 サキは、大型のゴーレムや恐竜と戦闘になるならば、それを千載一遇の機会として魔法を試し、今後の格闘戦との連携に備えよと言っているわけだ。そのうちマチコの格闘の癖を憶えれば十四ヵ所のトークンの大結晶のどこからでもタイミングを見計らって火力を撃てる。


「シーナは道案内をしてくれれば十分だ。視点が高いから、それだけ注意してくれ。」

「あ、はい。分かりました。」


 タロスがゆっくり歩き出した。そして少しづつ歩行速度が上がっていく。意外と揺れない。二足歩行しているなら、もっと突き上げるような上下動があって苦しいのかと想像していた。


「あれ?思ったよりも乗り心地がいいな。」

「ああ。当然空間魔法で調整されている。タロスは人間の十倍の身長。質量なら五千倍くらいだ。そんな中で人間が振り回されたら正気でいられないだろう。マチコは『空中殺法』とやらで飛んだり跳ねたり忙しいからな。」


 主力戦車も見た目よりは乗り心地良いが。まあ、キャタピラーは一点で支えるものではないからな。むしろ荒れた地面ではタイヤで走る装輪装甲車などより安定していたりする。問題はシートが硬いということ。


 感心したのは、その抑えられた振動から地面の状況などが分かるのだ。これも空間魔法のお陰らしい。爪先と踵に埋め込まれた大粒のトークンの結晶がこの点でも役に立っているそうだ。


 タロスの歩みが進むと、動いている大きな物に近づいていると感じた。


「サキ、前方に何かいる! 地面が揺れてる。」

「分かるか? さすがだな。やはり君はタロスのクルーとしての資質を持っているようだ。君を連れてきたクララに感謝せねばな。」


 壁面全てがモニター画面のような物なのだが、タロスが歩を進めていくと、その画面に大きな人型の後ろ姿が見えて来た。銀色のずんぐりした体形。厚い胸板に長い腕。首が短く猫背に見える。その向こうにはティラノサウルス・レックスが唸り声をあげていた。

 シーナはバリスタで戦ったのと同じ種の恐竜を見て驚いている。しかしゴーレムはなお大きい。ゴーレムは高さ15メートルほど。レックスは体長10メートル以上あるが、直立しているわけではないので、高さでは半分もない。だからこそ高さ5メートルほどのサキのストーンゴーレムでも恐竜退治できたわけだが。


「ああっ、あの時と同じバケモノ! サキさん、あの二つを比べるとゴーレムがどれだけ大きいか分かりますね。」

「そうだな。しかしタロスよりは少し小さいようだ。様子を見てみようか。」


 レックスが大きく口を開きゴーレムに襲い掛かり、ゴーレムは左腕をあげて防ごうとするが、そのまま腕を噛まれた。しかしレックスは文字通り歯が立たない。レックスは歯ぎしりして首を振るが質量で勝るゴーレムはびくともしない。ゴーレムは右の拳をレックスの左顔面に叩きつけ、右足を半歩下げると続けて右のハイキック。その後は両手を交互に出しパンチの応酬。


「単純な攻撃だな。遅いし。相手が恐竜だから通じるんだろうな。」

「ああ、その通りだな。クッキー。あれの目的が何か、探らないといかんな。とりあえず恐竜退治をしてくれているようだが。私のストーンゴーレムが恐竜と同様の扱いを受けただけなら、さほどはない。だが、もし敵意があれば、それなりの対応をしなければならんな。」

「誰か主人(マスター)がいるんだよな?」



 ララーシュタインのインヴェイド・ゴーレムの第一号『ハイル』を操るデイヴは200メートル程離れた大木の枝の上にいた。そして『ハイル』の後方に見覚えのある白銀色のゴーレムを枝葉の隙間から視認。


「なんだ、ありゃあ。人間みたいに包帯巻いてやがる。上半身はほとんど隠れてるけどタロスだよなあ。」


デイヴは少し思案して、断定した。


「いやあ、あんなのが、そうそういるもんじゃない。あれはタロスだ。」


 デイヴがララーシュタインから受けた命令は恐竜の討伐。そしてインヴェイド・ゴーレムの運用データの取得。恐竜が相手ではあまり有益なデータではないと思った矢先、ストーンゴーレムがいたので、深く考えず戦わせて破壊した。それを今、少し後悔している。あのストーンゴーレムがサキの手駒だということを考慮しなかった。サキの駒を壊したことでタロスが出て来たのだと察した。


 もともとパワーが違ううえに、ビークルとしてマスターが乗り込んで直接操作するタロスは通常のゴーレムにはできない迅速で正確な動きをする。ララーシュタイン軍のインヴェイド・ゴーレムは最初から兵器として造られたとはいえ、まだやっと試作の一体目が動きだした段階。分が悪い。

しかし、『ハイル』がどこまで通用するか、タロスと遣り合ってみたいという欲もある。ララーシュタインにはデータ収集のためにやったと伝えれば言い訳にはなるだろう。


「ハイル、回頭しろ。ミスリルゴーレムの『タロス』がいる。バルナック軍にとって大きな障害となり得る。始末しろ。」


インヴェイド・ゴーレム『ハイル』は向きを変え、拳を握り、軽く膝を折り走り出した。



 俺たちは、このゴーレムがララーシュタインの侵略の手先であるとは、このときには知る由もないが、タロスを敵として捉えたであろうことは判った。


「クッキー。交戦だ。」

「了解。衝撃(ショック)!」


タロスの口からインスタントの火力呪文が飛び、敵ゴーレムの顔面にヒット。どれほどのダメージを与えたかは分からないが、頭を突かれたように後ろにひっくり返って天を仰ぐ形にしてやった。そしてハイルの顔は煤で黒くなっている。タロスは魔法との親和性が高く呪文の攻撃力が上がると説明されていたのだが、予想以上だ。まさか15メートルもあるゴーレムを俺のインスタント呪文が弾き飛ばすとは思わなかった。

 間髪入れずにサキがタロスに命令する。判断が速い。


「タロス、ストンピングだ。」


タロスが進み出て、膝を上げハイルの腹を踏みつける。二度、三度。地響きが聴こえる。ゴーレムの戦闘というのは、とんでもない迫力がある。初めて戦車に乗ったときよりも怖い。だが、いける。


「タロス、ジャイアントスイング。ゴーレム同士の対戦で打撃技は、ほとんど無益だからな。」


タロスはハイルの両足を掴んで両脇に挟み、自分の身体を回転させる。遠心力でハイルを振り回し始めた。これは地味にバランス感覚が要求される。タロスの運動能力の高さが窺える難しい動きだ。


「よし、背中と後頭部を引き摺ってやれ。」


わざと綺麗に持ち上げず、低い位置で振り回し敵ゴーレムの後背部を地面に擦り付け、摩擦熱や擦過傷でダメージを与えるという技だ。


「う、うわ。エグい!」

「タロスはマチコの動きを学習しているからな。」

「マチコ姐さん、怖えッス。」

次回 初のゴーレム同士のバトルの決着は、どうなる?

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