第47話 アラクネー
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ダンジョンの階段室を出た途端、甘い匂いが漂った。砂糖を焦がしたような、カラメルとは違う。焦げ臭い苦い物が混ざったようだった。
偵察行動にでたクララがすぐに戻ってきた。かなり慌てている。クララらしくない。
「やだわー。なんか気持ち悪いのがいますー。」
「クララ、報告は具体的に。」
サキは落ち着いている。
「人の上半身に蜘蛛の下半身。しかもかなり大きいのが、複数。とりあえず5匹か、もっといます。」
「女性型か?」
「はい。」
「ふむ、それはアラクネーだな。かなり恐ろしい奴だ。元は人間で呪いを受けたと言われているが。ほぼ100パーセント人間を襲ってくる。人間を恨んでいるとか。」
「え~、元々人間なんですか?気持ち悪いなんて言って申し訳なかったです。でも恨んでるなんて、やだわ~。」
あまり知りたくない情報ではあるな。弱点を訊いてみよう。
「サキ、何か攻略法は?」
「粘着質の糸には気をつけないといけない。捕まったとき切るために刃物はあったほうがいいな。」
「クッキーは援護してくれるかしら。お姐さんがやっつけてあげるわよ~。」
マチコの言動は頼もしいが、本当に大丈夫なのか? 話しているうちに八本脚がゾロゾロと歩いてきた。近づいてくると、やはり異様だ。乳房丸出しの女性だが、そんなことより不気味さのほうが圧倒的に勝る。一匹と目が合った。敵意むき出しだ。これ以上近づけたくはない。魔法を撃っておこう。特に火に弱いわけでもなさそうだが、広範囲に効くし、蜘蛛の糸も焼き切れるのではないかと期待して。
「火炎放射! 」
先程と同様の呪文で、アラクネー相手にどれだけ効果があるかは疑問だが、マチコの指示通りの援護にはなるはず。
火炎が収まるかどうかといううちにマチコが走り出し、先頭の一匹に飛び掛かる。首根っこを掴んだまま背に回り、左手でアラクネーの左手首を持ってアラクネーの首下に巻き付けたかと思うと、自分の右腕も右側からアラクネーの首に回す。そしてアラクネーの左手首を引き、左手から右手に持ち替えると、アラクネーは自身の左腕とマチコの右腕で時計回りに首を絞める形になる。マチコは空いた左手をアラクネーの首と左腕の隙間に差し込み、右腕に力を込めると固定。一瞬の出来事だった。首と腕が両方一度に極まるプロレス技。定番のフィニッシュホールドだそうだ。
「さあ、毒蛇締めよ!どこまで耐える? 」
「う、うわ! すげえ! 」
「蜘蛛だろうが何だろうが、頭や上半身が人間のモンスターはね、口や鼻から肺呼吸してるのよ。首を絞めれば窒息して死ぬわ。そしてこれはプロレスの試合ではなく実戦。エンターテインメントじゃないの。」
アラクネーの顔色が瞬く間に青くなっていき、マチコが力を入れると蜘蛛の脚も痙攣したが、マチコはそのまま強く捻り、鈍い音と共に首をへし折った。
「うわっ、ボキッつったぞ。」
「ほら、クッキー! ボケっとしないの! 」
「はい! そうでした! 」
火力呪文を数発撃った後、ブロードソードを腰の鞘に戻しストレージャーから出した槍に持ち替えた。上半身は人間と同じ。それならば、喉を突けば倒せるはず。銃剣道での基本的な戦い方でいける。
八本の脚で壁や天井まで動きまわるので捉えるのは厄介だが、インスタント呪文で牽制しながらジリジリと追い詰める。あちらも八本の脚と二本の腕で攻撃してくるが槍で捌いてアラクネーの腕を裂き、肩を突き、やがて喉に刃を立てた。
サキとクララもサーベル、手槍で応戦している。隙をついて、それぞれ石化魔法、水のエレメントのダガーでの大量出血によって蜘蛛を仕留めた。マチコは、この間にもう二匹、関節技で上半身を攻めて屠っている。
「さすが。マチコ姐さん。人型のモンスターなら敵なしですね~。」
「褒めても何も出ないわよ。まあ、クララもよくやってるわね。」
ここで予想外のことが起こった。女性陣二人が称え合っていると、頭上から粘着性の糸で編まれた網が落ちてきた。見上げるとアラクネーの生き残りが天井を這っていた。まだいたか。クララとマチコは網に捕まり身動きがとれない。
「しまった! 蜘蛛の糸だ! 」
サキがサーベルを振り、網を切りにかかるが、二人を助けるには時間が掛かりそうだ。三人から魔物を離さなければ危ない。俺は頭上のアラクネーに火力呪文を撃つ。
「火霊波! 」
避けられてしまった。壁が焦げた。大柄なモンスターだが、八本の長い脚は意外と動きが速い。まずは目眩ましが有効か?続いて火花の呪文を唱えながら槍を繰り出す。これも防がれたが、なんとかクララとマチコから遠ざけることはできた。
衝撃の呪文を使っても半分は当たらず、当たっても効果の大きい呪文ではない。使い易さ優先のインスタント呪文だけに。避けられないように追尾機能のある魔法の矢の呪文を使えばいいのか。しかし、俺は今まで使った事がない。どれだけダメージを与えられるかという火力、相性の組み合わせと、相手の隙を作る方法に絞って魔法を選んできた。
主力戦車の大砲というのは、基本的に砲弾を真っ直ぐ飛ばすものだ。自走砲ならば弧を描いて飛び、障害物や地平線の向こうまで遠くに飛ばす長距離砲なのだが。
それにしても、追尾式はない。自爆攻撃型のドローンならばそうか。81式短SAMのような地対空誘導弾を使う防空部隊にいれば良かったのか?それとも航空自衛隊に入っていれば?
いや。魔法の矢とは一寸違うが、確実に当てられる魔法を知っている。難易度が高いのだが、今それを試してみるか。自分にできるか分からないが、迷ってはいられない。失敗したら突撃するのみ。超高等魔術の二重の魔法陣を創出し、持っていた槍を地面に刺して両手を拳にして前に突き出す。暴言を吐きながら威嚇するアラクネーの首に意識を集中。
「遠い世界で静かに眠れ。汝の使命はここで終わる。争いを止め平穏を求める声に耳を傾け、目を閉じよ。魔素粒子加速砲! 」
十色全てのマナを使用するマルチカラーの呪文。亜光速まで加速したマナの粒子が対象に目掛けて飛ぶ。追尾式ではないが、発動した時点で狙った目標へとんでもない速さで向かって行くため避けようがない。
白い閃光がパパッと輝いたかと思うとアラクネーの首が吹き飛んだ。残った胴体もすぐさまマナに還元されて四散していく。その背後の壁にも大穴が開いた。しかも一枚ではない。壁を幾つもぶち抜いて新しい通路を作ってしまった。マナを飛ばしても、止めることまで意識していなかったせいだろう。
後ろに人が居なくて良かった。軽く胸をなでおろしつつ反省していると、なんとサキに褒められた。
「おお、素晴らしいじゃないか、クッキー。これはいいぞ。クララ、いい人材をよく捕まえて来たな。」
「はい。私も鼻が高いです。へへへ~。」
「やるじゃない。これならいけるわね。タロスで大暴れできそうだわ。」
蜘蛛の網をダガーで切り裂きつつ、クララがデレている。マチコも認めてくれたようだ。
結果オーライということにしておこうかと思ったとき、破れた壁から何かが入ってきた。四つ足の獣のようだが、姿勢が低い。おもむろに話し出した。
「やれやれ、騒がしいと思ったら人間に亜人か。それでアラクネーが機嫌を損ねたのだな。」
マナコレダーのネタは
特撮 スーパーロボット マッハバロン の必殺武器 マッハコレダー から。
これはトップをねらえ!のガンバスターのバスターコレダーなんかのネタにもなってますね。