第42話 際会
主要キャラがだいたい出揃ってきました。
王都ジャカランダの王城ではAGI METALのマリア、クララ、フェザーライトのメイ・オズボーンとミッドガーランドのジェフ王、四人の王子、騎士団からトリスタン、パーシバルが参加して自己紹介も軽々に情報の擦り合わせが行われていた。
取り仕切るのは第二王子のジョン。ミッドガーランドの国務大臣。
「かつてウエストガーランドの一部、バルナック領だった地域だが。旧領主のドルゲ・ララーシュタインの長男ユージン・ララーシュタインが3年前の戦争を起こした。そして今まで存在を知られていなかった三男のドルゲ2世がまた戦争を仕掛けてきた。」
ジョンの発言に対してジェフ王が応える。
「概要では、そうであるな。現況は、どうなっている?」
「セントアイブスの西、海岸近くに領域渡りで攻め込んできたようです。そのほとんどが東へ向かったと思われるのですが、知能の低いクリーチャーが空腹を満たすために動いているようですから、半島中に散らばっているかもしれません。AGI METAL のレイゾーとガラハドが陸棲のクリーチャー退治をしておりますが、ララーシュタインが送り込んできたクリーチャーの数は不明です。二人で手に負えないかもしれません。それから空を飛ぶものは、一体の悪魔とマンティコアと他の全てがこのジャカランダに来たものとは思いますが、言い切れません。」
「私と叔父は商売のために飛行船でクラブハウスを訪れましたが、そちらは海獣のような大型クリーチャーが多数とヒョロリと背の高い悪魔がいました。叔父が対応しています。その悪魔が、別動隊がジャカランダにいると発言しましたので、私は叔父をクラブハウスに置いて飛行船でジャカランダまで来たわけです。」
これにはマリアとメイが答えた。そしてマリアの上申が続く。
「セントアイブスの西の砦でうちの後衛職のタムラとクッキーが応戦に参加しています。砦はなんとかなるでしょう。やはり散らばってしまっているかもしれないクリーチャーを処理できるかが問題なのでは?放っておけば人を喰います。」
「うむ。トリスタン、パーシバル、騎士団から選抜してパトロールと討伐の部隊を編成するように。偵察だけならばギルドを通して冒険者にクエストを出しても良いだろう。
ジョンは国務大臣として国中の領主に注意喚起せよ。バージルは外務大臣として諸外国にバルナックから宣戦布告と軍事侵攻があったことを知らせ、会見や軍事同盟の準備を進めるのだ。」
ジェフ王はテキパキと指示を出す。名君と謳われるだけある。
金髪の騎士パーシバルも仕事が早い。末の王子アランも続く。
「ガウェイン団長が王都を離れている今、トリスタンが城を守るべきだろう。私が討伐に出よう。部隊の編成だけ手伝ってくれないか。」
「あー、僕も討伐部隊に立候補するよ。」
それを聞いたマリアが問う。
「ガウェインは王都を留守にしているの?今何処に?」
それには第四王子ゴードンが返答する。
「今は大陸ですよ。バルナックの様子がおかしいことは情報としてしばらく前から入っていたので、シルヴァホエールという冒険者パーティに協力を求めるために探しに行っています。」
マリアとクララが顔を見合わせる。続いてクララとメイも。そして遠慮気味に右手を挙げるクララ。
「あのう。それ、私が所属するパーティです。」
「「ええっ!」」
四人の王子と騎士らは驚き、ジョンとバージルが声を上げる。
「なんだって!?」
「誰か、大陸へ赴きガウェイン卿を連れ戻してこい!」
「あ~、あたしはセントアイブスの生まれで、里帰り中だったので別行動しているのですけれど、うちのパーティに御用というのは、やはり・・・?」
シルヴァホエールにクエストの指名依頼となれば、もちろん大型モンスターの討伐。今の状況ならば恐竜や、それを送り込んできた悪魔が乗っていたマンティコアなどだろう。もちろん悪魔も含めて。
「あとのメンバーは合流する予定で、おそらくセントアイブスに向かっている途中だと思います。ただ、あの、いつものゴーレムが使えない状況ですので、大型の獲物の討伐のご依頼は、今は受けられないかも知れないんです。」
ここで待ってましたとばかりにメイが話し出す。
「あら。クララ。それなら多分大丈夫よ。そのために私達ミッドガーランドに来たんだから。タロスに必要な鉱石を採取して来たわよ。それから移動中に船内で製銑加工もしてるから、すぐに作業できるわよ。」
「本当?助かるわ、メイちゃん。帰省がてら鉱石を探してたのよ。でもなかなか見つからなくて。ミスリルって本当に珍しいのよね。」
第四王子ゴードンがメイに質問する。
「失礼、メイさん。オズボーンという姓はもしかしてオズマ・オズボーンと関係が?」
「オズマ・オズボーンなら、私の叔父です。職業としては冒険者と貿易商と船乗りですが、鍛冶師でもありますし、職能は魔導士と呪詛師です。私はその助手。戦争となれば、何かお役に立てる面はあるかと思います。」
「メイちゃん。やっぱりオズマさんは有名人みたいね。
私達のゴーレム、使えるようになりそうです。パーティに合流できればリーダーのサキに相談してみますので。」
マリアはガーランド最強の魔法使いなどと呼ばれることもあるが、オズマはユーロックス最強の魔法使いと呼ばれる。マリアは正確には攻撃魔法も使える僧侶、賢者なのだが、魔法の道を突き進む者としてやはり興味がある。
「メイさん。私とクララと一緒にクラブハウス経由でセントアイブスに行ってもらえるかしら?」
「はい。わがままな叔父も文句は言わないと思います。それが目的なんですから。」
フェザーライトはセントアイブスを目指し飛び立つ。途中クラブハウスまでは騎士パーシバル卿たちの恐竜討伐部隊も乗せて。
馬上のサキとマチコはミニバンがティラノサウルスに突っ込む様を見て息を呑んだ。リュウとオートマトンを使いとしてセントアイブスの街に恐竜に警戒するように促したのだが、相手が大型のクリーチャーとはいえ、こんな戦い方をしているとは思わなかった。それだけ戦闘が厳しかったのだろうが、自動車を使うとはグローブからの異世界人に間違いはない。自動車があるだけでも驚きだ。
そして、この街に異世界人といえば、英雄レイゾーか、クララからの報告にあるクッキーかタムラ。その三人のうちの誰か。となれば、クッキーであろう。
街の西側から入ったサキとマチコは恐竜の後ろ側におり、南側から恐竜に当てた車の左側が見える位置。車の右の運転席から飛び降りたクッキーの姿は、そのときには見えていなかった。車が突っ込んだ後にガソリンに引火して炎上したときに、その炎の明かりで照らされ転がっている男の姿を初めて視認した。
「無茶な戦い方するわねえ。でも嫌いじゃないわ。」
「たしかに無茶だが。だからと言って他の方法もないだろう。限られた条件の中で効果的な手段を講じた結果だな。リュウに時間を稼げば助太刀に入ると伝えさせたが、当てにはできなかったろうし、な。」
「あの頑丈そうな男、クララが伝えて来た『クッキー』よね。」
サキが使いに出したオートマトンの一体が、その男、つまり俺を抱き起こす。膝や肘に擦過傷。あとは左の足首に痛みがある。治癒や回復系の魔法が使えるか試してみたいが、魔力はすっからかんだ。痛みは我慢。立ち上がると二人の人が乗った馬が駆け寄ってきた。馬を降りるとすぐ話し掛けてきた。
「君はクッキーだな?駆けつけるのが遅くてすまん。助太刀にならなかったな。私はサキ。サキ・ヴィシュヌ。」
聞き覚えのある渋みのある低い声だった。そうか、リュウの主だ。
「あ、リュウの声。それじゃあ、クララのパーティの方ですね。リーダーのサキさん。それとマチコさん?初めまして。朽木了です。」
「うふふふーん。ヨロシクねえ~。」
フェザーライトのモデルはMTGのラースサイクルに登場するウェザーライト号。