第33話 悪魔祓い
いよいよ6人のフルメンバーのパーティでダンジョンに入ります。
ややイレギュラーな編成ではあるが、英雄のパーティ AGI METAL の六人でテオのダンジョンへ入る。地上のモノリスを通ると、レイゾーが迷宮を効率良く探索するための短縮移動法迷宮渡りの出入り口を開き、8階層へと進む。
「ついでだ。ダンジョンの混沌の活動を少しでも抑えるために、この階層からマナの溜まり場を潰していこう。それから、ガラハドがぶち抜いた壁や床がどうなっているのかも見て行こうよ。」
「なあんだよ。レイゾー、楽しそうじゃねえかよ。人をネタにするなよな。」
「ガラハドをいじる機会って意外とないんだよねえ。飲ませても酔わないしさあ。」
猫の魔獣などの魔物を倒しながら進み、マナプールを壊していく。あまり期待していなかったが、めぼしいドロップアイテムなどはない。
そしてオーバーランのときの攻略戦で開けたという穴は塞がっていた。痕跡すらも分からない。短時間にこれだけ変わるものだろうか。ダンジョンそのものが生き物のように感じる。それとも知能の高い魔物がいて直しているのか。
9階層、10階層と魔物を倒し、マナプールを壊しながら進んでいく。ここでパーティでの自分の立場、役割について考えてみる。
まず、前衛か後衛か。地下迷宮や城塞迷宮などの構築物型の迷宮では、通路を歩くのに横二人か三人が進みやすい。正面左右、それに後方と警戒しながら歩くのには。前後三人ずつで落ち着くのだろう。
かくして前衛には、リーダーであり英雄、吟遊詩人の職能を持ったレイゾーが中心に。左右をガラハド、ガウェインの騎士が固める。今回は、騎士ガウェインの代わりにクララが入っているが、クララも魔物を探したりする索敵能力、罠を回避する能力などに優れ、また奇襲攻撃などを受けても、それを回避する俊敏な動きもできる。前衛向きだ。投擲武器も扱うが、これは前衛後衛を問わない。
そして後衛。狙撃手のタムラ、ガーランド最強と謳われる魔法使いマリア。俺が後衛として人数合わせなのかもしれないが、元々マリアは防御回復を担う僧侶である。攻撃魔法を担当する者がいても良いのだろう。
もしもクララが斥候、遊撃手として偵察や罠の解除に単独先行する場合、必要があれば、俺が前衛に加わる手もある。バランスの良いパーティと言えるのではないか。まあ、前回ダンジョンに入ったレイゾー、ガラハド、マリアの三人だけで最強のパーティなのだが。
バランスはともかくとして、おそらく俺だけが足を引っ張るレベルだ。魔法使いとして、どれだけ働けるのか?賢者マリアの足下にも及ぶまい。
土の精霊ノームのオキナと契約したことで、精霊魔術の精度は上がっているのだろうが、今は混沌の迷宮の中だ。外よりもマナが豊富にある。今後のためにも、精霊たちの力を借りる精霊魔術より、マナを消費する五芒星魔術、六芒星魔術を試したい。とくに今は六色のマナを使う六芒星魔術だ。まだ十色のマナを使う五芒星魔術は使いこなせないだろう。オーバーランの防衛戦では、タムラの魔法の矢の呪文破魔矢六連弾を見せてもらったが、あれはマルチカラースペルと言って、六色のマナを一度に使う高難度なものだ。
赤(R)のマナを使うインスタント呪文として衝撃、焚き付けという二つは習得しているが、どれだけ役に立つのだろうか。こうなれば、初めて使う呪文でも、積極的に試していくしかないか。前衛で盾になるのではなく、後衛から魔法を使って人を守る方法を身に付けようと決めたばかりだったはず。相手の妨害をするカウンター呪文を中心に試していく。
「捻り!」
クズリの群れが現われたとき、群れの先頭にいる個体が動き出すタイミングを計って呪文で前のめりに転ばせた。二頭目は躓いてくれたが、あとの個体は横になった同族の身体をひょいひょいと飛び越える。
「焚き付け《キンドル》!」
後続を怯ませるために続いて火力呪文をお見舞いするが、レイゾーの剣はとんでもんなく速かった。俺の魔法なんてあってもなくてもどうでもいいと言わんばかりにクズリの群れを薙ぎ払う。ガラハドが弾き飛ばしたクリーチャーは、群れの他の個体を巻き込み、壁に打ち付けられて倒れていく。タムラの矢は獰猛な野獣の眉間に刺さり、クララは踊るように軽快に動いている。
「良くやってるわ。クッキー。その調子よ。」
マリアから、まさかの声掛け。ここで褒められるとは。
「状況判断がしっかりしているわね。自分の力量をしっかり把握して背伸びをせず、やるべきことをやっているわ。パーティを後方から支える魔法使いとして正しい姿ね。地の精霊に頼っていないのも正解だわ。」
「うん。このパーティの将来が楽しみになってきたね。」
「おう、おかげで、ここまで楽に進めてるぜ。」
この調子で良いのかと不安だったので、豪傑三人の言葉が自信になった。自分の能力に偏りがあるのは分かっている。地味でも堅実な呪文からこなしていこう。
いよいよ11階層に入る。また前回とは様子が異なるかもしれない。後ろを振り返ったクララと目が合った。
やはり、と言うべきか。足を踏み入れた途端に耳障りな音が響く。
「メエエエエエ!」
「グエエエエ!」
ヤギの悲鳴のような大声が、侵入者がいると知らせるのだろう。
薄暗い階層だが、レイゾーが光の精霊を召喚して、すぐに辺りは明るくなった。レイゾーは光の精霊と契約しているか、加護を受けているということだろうか。
そして明るくなると、レッサーデーモン達の姿が闇の中から浮かび上がり、さらに騒がしくなった。奇怪な声を発するのはレッサーデーモンだけではなく、インプやグレムリンにゴブリンの群れも混ざっていた。とんでもない数が集まっている。アニメが始まる時間にテレビの前に群がる子供のような状態だ。
「ゴブリンもいるのか。脆弱な魔物だが、数が多いね。クララは後衛にさがって。クッキーは代わりに前衛。なんとしてもクララを守るんだよ。後衛の真ん中はマリア。ガラハドはマリアを頼む。僕が突貫して魔法で広範囲攻撃していくから、撃ち漏らしたらタムさんが片付けてくれ。」
ゴブリンは人間の子供くらいの知能を持ち、弱い魔物だがその分繁殖力が高く、人間の若い女性を襲い子を産ませる。生まれた子供はゴブリンである。レイゾーはまず悪魔を退治するよりもクララとマリアを守ることを優先した。
「オキナ、頼む。クララを守ってくれ。」
「ほおい。出番じゃな。任しとけ。魔力はもらうがな。お嬢ちゃん、あんたもヤンマを呼びなされ。役に立つはずじゃ。」
俺が契約した地の精霊ノームのオキナを召喚し、ストレージャーから短槍を出すと、レイゾーは火の呪文を詠唱する。
「業火!」
初めて会ったときに使っていた火の魔法。しかし、あの時よりも強力だ。幾つも大きな火種が悪魔や魔物を焼いていく。
そして片手半剣を右手に持って魔物の群れに飛び込み、右手では剣を薙ぎ払い、左手ではグレムリンの首根っこを掴み、走りつつゴブリンを踏みつける。
ガラハドはストレージャーから取り出した二振りの手斧を投げつけると、しゃがみ込み石畳の床に拳を叩き込む。床に大きな亀裂が走り、その先にいたゴブリンたちが裂け目に落ちていった。
武装したゴブリンたちの弓矢を躱すため、クララが水のダガーで霧を作ってスモークとしているとオキナが土の壁を作って盾としてパーティを守り、その隙間を飛び回るヤンマは四枚の銀色の羽根の切っ先と真空となった風の渦で魔物を切り裂く。
圧倒的とも思えた数の差をものともせず、下級の悪魔の使いであろう魔物たちを次々に倒していく。すると、呪文の詠唱の隙ができた。上下に重なった五芒星の魔法陣が浮かび上がった。マリアの駄目押し。
「幾ら重ねようとも無益な言葉。言葉の数だけ犬死に無駄死に。地獄の山並み。針の山!」
数万本の針が頭、胴体、手足へ飛び、魔物たちを串刺しにし背中側へ貫通した。壁際にいた魔物などは石壁に張り付けにされている。まさに一網打尽。わずかなレッサーデーモンだけが生き残った。
「このあいだの短縮形とは違い、フルフレーズを詠唱したわ。効き目は倍くらいかしら。皆がソーサリー呪文を使う隙を作ってくれた。パーティの強みね。
さて、生き残ったレッサーデーモンたち。貴方達はそれほど利口じゃなくても人の言葉くらい解するのは、分かっているわ。わざと急所から針を外してあげたんだから、大人しく言うことを聴きなさい。」
あまりの強さに俺もクララも驚いて言葉が出ない。オキナもヤンマも黙っている。ガラハド、タムラは半分にやけ顔だ。こうなると分かっていたのだろう。
で、レイゾーだが。ボヤキが始まった。
「あー、やっぱりこうなったか。いちおうパーティのリーダーとしては、クララのためにも安全策をとったんだけど、マリア強過ぎ。僕が活躍する機会はないのかなあ。出番欲しいなあ。」
「はい、そこ!愚痴らない!」
「えー、だってソロのないギタリストみたいなもんだしー。」
「訳の分からないこと言わないの!」
この後、成す術もなく恐怖に立ち尽くすレッサーデーモンたちへガーランド最強と謳われる魔法使いからの尋問が始まる。このダンジョンに悪魔たちが湧いて出る理由が明らかになるのだろうか。
「ザ☆ウルトラマン」ウルトラマンジョーニアスの光線技で
ウルトラニードルっていうのがあったと思ったんですが、調べても出てこない。
どうやら思い違いのようですねえ。