第32話 パーティ
まだ正午くらいだろう。一寸早いが、シドのダンジョンを出て探索者ギルドへ向かった。窓口でトークンやドロップアイテムの買い取りをしてもらった後、受付嬢からギルドマスターの執務室へ行くように言われた。
「マリアさんがお呼びのようだよ。長くなるかな。レイチェルとジーンはどうする?」
「あ、では、すみませんが、今日は先に帰ります。ありがとうございました。」
おそらくレイチェルはジーンにお説教するのだろう。残念だが、庇う気はないぞ、ジーン。素直に叱られてきなさい。
「うん、じゃあ気をつけて帰ってね。送っていけなくてごめんよ。」
「いいえ。これからは魔法の勉強もやります。また宜しくお願いします。」
クララと一緒に二階の執務室へ行くとマリアだけではなく、レイゾー、タムラ、ガラハドと濃いメンバーが紅茶を飲みながら談笑していた。
「やあ、来たね。シドのダンジョンはどうだった?さすがに胡麻はまだ見つからないよね。」
「旦那、気が早いって。そう簡単に見つかるかい。ラビリンスに入るより商人と交渉した方が早いだろうに。」
「はは、まあ、そうだね。しかし、新しい食材の仕入れは頼むよ。この街に冒険者を呼び込むためには、美味い食事だよ。」
取調室の二人は上機嫌のようだ。
「お疲れ様。ページ公と話したように、どうやって冒険者を増やすか、受け入れ態勢の相談をしていたのよ。」
「マリアがいいアイデアを出してくれてな。手続きは冒険者ギルドでやるようになるが、この街には空き家が多いんだ。それをコテージとして活用する。ただ、人手も足りないもんでよ。そこんとこもマリアが考えてくれてな。マリアが作ったアーティファクトを受け取りに来たってのもあるんだ。」
マリア、ガラハドの二人もなんのかんの仲が良い。アルコールが入ると、酔ってくだ撒いてるイメージだが。
「あ、アーティファクトって、もしかして?」
クララが食いつく。
「そう、ルンバ君よ。4号の調子はどう? 今のところ、私の家のオリジナルと、ここの1号しか稼働実績ないから。掃きムラとかない?ちゃんと動いてる?」
「ええ、もう凄く良く働きます。まだ飛ぶのは試してないですが。あんな立派なアーティファクトを作れるなんて、マリアさんは天才ですね。」
聞けばルンバ君2号は冒険者ギルドで、3号はレストラン取調室で使用するそうだ。そして5号以降も作成して冒険者たちの宿泊施設の掃除をさせる計画だと。
「アーティファクトじゃなくマジックアイテムだったら、もっと良かったんだけど、さすがに無理ねえ。」
ん? マジックアイテムだったら? そういえば。
ここで挙手。質問してみる。
「あー、すみません、質問です。」
「はい、クッキー君、なんですか?」
先日と似たようなやり取りだが。
「勉強不足ですみません。アーティファクトとマジックアイテムの違いを教えてください。」
「あら、勉強熱心ね。分からないことがあれば、放置せず質問する。良い事よ。
アーティファクトはね、魔力がないと使えないの。魔法使いじゃなくても魔力そのものを持っている人なら使えるけどね。クララやガラハドなら。
マジックアイテムというのは、魔力を持っていなくても使えるわ。誰でもね。でもアーティファクトに比べると見劣りするかな。使い捨てになってしまう物も多いわ。分かりやすい例を出すと、体力を回復するポーションの類ね。魔物を倒した後にドロップするトークンも正確にはマジックアイテムの一種。あれを持っていれば、マナに換えて魔法を使うこともできる。いざって時には役に立つから覚えておくといいわ。ただし色が合わないと駄目よ。」
「へえ。色々とあるんですね。ありがとうございます。」
すると、今度はガラハドからアドバイスがあった。
「マナってのは、大地と海と空のエネルギーだ。ラビリンスの中ってのは、マナが溢れてる。掃いて捨てるくらいに豊富だ。だからこそ魔物たちにも影響があって、マナプールが幾つもあり、オーバーランなんてものが起きたりもする。
フィールドでは、マナが極端に少ないところもあってなあ。すると五芒星魔術やヘキサグラムが使えないこともあるんだ。そうなると、精霊なんかの力を借りる魔法、精霊魔術や四極魔術を使うことになる。それともなければ、今マリアが言ったようにトークンをマナに換えたり、アイテムを使ったりな。
フィールドでは、地下迷宮や城塞迷宮と違って広いから、大型の魔物がいることも多くなる。魔法に頼りたい場面が多くなるのに、ちょっと矛盾するよな。だからこそ、探索者と冒険者で職業を分けているんだ。」
「あ、それだと、冒険者には、意外とウィザードって少ないんじゃないですか?探索者のほうがウィザードとして活躍できる。」
「ところが。強力な攻撃呪文を狭い場所で使うと味方を巻き込むんだ。調子に乗ると仲間が死ぬ。それに精霊魔術しか使えないソーサラーだと、結局インスタント呪文は弱くてあまり役に立たないから、いざって時にツブシが利かない。だから冒険者でも探索者でもあまりウィザードの立場は変わらねえんだよ。」
魔法の話題になったついでにシドのダンジョンで精霊と契約したことを話した。ジーンの加護も含めて全て明かしたが、レイゾー、マリアの二人がとくに褒めてくれた。
それには裏があって、テオのダンジョンの11階層の悪魔討伐に俺とクララを参加させようとしていた。任せろって言ってなかったっけ?
クララは目的があって一時帰郷しているだけだが、俺のほうは完全にセントアイブスの街を守る戦力として見積もっているそうだ。まあ、それは自衛官なんだから、人や街、国を守る専門職ですよ。使命です。文句ありません。ただ、クララのパーティに移籍ってことはどうするか。いっそ、そのシルヴァホエールというパーティがこのセントアイブスを拠点としたら良いのではないだろうか。大物狙いのパーティなんだよな。テオのダンジョンのオーバーランでも大物の魔物がいたぞ。
クララがひそひそと耳打ちしてきた。考えが読まれたのだろう。
「シルヴァホエールのことは、まだ黙っていてくださいね。もうすぐ、うちのメンバーがこの街に来ますから、そのおりに。」
マリアは鋭い。ひょっとして聞こえただろうか。どんな魔法があるか分からない。
「なあに、内緒話?二人が仲いいのは分かったわよ?」
「あ、いえ、ジーン君のことですよ。」
「そのこともしっかり考えましょう。光の精霊に加護を受けたのならば、この街の誇りだわ。じっくり育てないと。今のところ探索者なんだから、私が考えるわ。」
そして俺の顔を見ると魔法の講習のことに話を振る。魔法に関してならミッドガーランドで第一人者なのだ。まかせようと思う。
「クッキー、私が教えた魔法陣を作る練習はやってる?できるようになったら私の処へ来るようにも言ったわね。とりあえず、そのときにはジーン君を連れていらっしゃい。」
「分かりました。まだやんちゃ坊主ですけどね。」
「やんちゃ坊主。それなら、貴方と仲いいでしょう?」
「ぷっ!」
こら、笑うな、クララ!
「ジーン君に槍を持たせたらクッキーと一緒に魔物に突撃しますよ。」
(あら、やっぱり。『クッキーさん』が『クッキー』になっているわね。)
これはマリアだけでなく、その場の全員が気付いていたのだが。
「まあ、なにはともあれ、明日は AGI METAL で、テオのダンジョンの悪魔祓いだ。クララも来てくれるよね?
ガウェインの代わりにクララが入るが、久しぶりに6人のフルメンバーで AGI METAL の活動をする。僕とガラハド、クララで前衛。マリア、タムさん、クッキーで後衛を頼むよ。タムさんは弓の調整をするよね?クッキーにも弓を持たせたいところだけど、魔法の練習を兼ねて弓無しでね。できるだけ前に出ず、魔法で対応してくれ。
それから、単に悪魔退治するだけじゃない。悪魔が蔓延る理由を探るからね。杞憂なら良いが、3年前の戦争の名残か、また別の何かがあるのかもしれない。
初の顔ぶれでもある。気を引き締めて行こう。」
レイゾーが締めた。明日は悪魔との戦いである。
次回、再びダンジョンへ。レッサーデーモンと戦いに行きます。