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撃てるんデス! ~自衛官の異世界魔法戦記~  作者: 井出 弾正 (いで だんじょう)
第3章 悪魔
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第29話 血筋

 ミッドガーランドのジェフ王は執務室で頭を抱えていた。3年前に海を挟んだ隣国ウエストガーランドの南端バルナックの領主ユージン・ララーシュタインが侵略してきたおりには、大きな戦争となり、レイゾーらの活躍で終戦を迎えたものの長男の皇太子のスコットや、その親衛隊長の騎士ランスロットを亡くしている。その3年前の戦争の前兆と似た出来事が、今国内のあちこちで起きている。混沌の迷宮ラビリンスオブドゥームから魔物が溢れ出るオーバーランばかりでなく、フィールド上にあるマナプール周辺からも異常が発生すると報告が相次いでいる。また戦争になるとは限らないが、オーバーランが乱発するだけでも大きな問題と言える。

 セントアイブス領から援助の要請があったが、続けて他の土地からもあるだろう。もしもまた戦争になるならば、その前に冒険者ギルドを利用して冒険者を国に集めるよう手配し、少しでも魔物を減らさなければならない。クエストの報酬を上げるのが一番簡単な方法だが、国力が落ちている状況ではどうしようもなく、途方に暮れているのだった。


「陛下。お呼びでしょうか。」


金髪の王子ゴードンと大柄な騎士ガウェインが入室してジェフ王の前に跪く。ジェフ王は面を上げると軽く右手で手招きする。


「まあ、二人とも椅子に掛けなさい。面倒な事が起こっているのは、二人ともよく知っているだろう?」

「はい、陛下。セントアイブスの援助の件については、まだ途中ですが経過をご報告します。武具と建築の職人は5名ほどの派遣が決定し人選の最中です。兵站の提供は難航しておりますが、小麦と薬品を少量ならば捻出できそうです。資金提供は内務省で揉めており進捗がありません。」

「そうか。では、バルナックを含めた隣国の状況については?」

「それは・・・、思わしくありません。」


ガウェインが言葉に詰まる。無理もない。隣国ウエストガーランドがバルナック調査に差し向けた10組もの冒険者パーティが、ほぼ全滅したのだ。そして隣国内でもマナの循環に異常が起きているのは間違いがない。


「ガウェイン、それは私から報告しよう。

 父上。もうお耳に入っているかもしれませんが。空白地帯はとんでもない事になっているようです。冒険者ギルドが調査に派遣した冒険者パーティがほぼ全滅しました。死者58名。2名の騎馬が逃げ帰ったのみ。その2名からの情報では、新種の大型クリーチャーの群れがいるそうで、手も足も出ず調査は一切進まなかったそうです。」


(なるほど。それで皆、私にしっかりと報告しようとしなかったのか。しかし、それでは何も解決せん。)

ジェフ王は小さくため息をついた。


「ふむ、そうか。すまぬが、またお前たちを頼るしかないのかもしれんな。」


ゴードンとガウェインは顔を見合わせた。どうせ放っておくわけにはいかないのだ。


「陛下、なんなりとご命令ください。」

「うむ、では、そうしよう。」


直ぐに返ってきたことで、ガウェインは少し戸惑った。どんな命令だろうかと。


「シルヴァホエールという冒険者パーティを知っているか?大型の獲物狙いのパーティだ。なんでもゴーレムを使役するとか。新種の大型クリーチャーが現れたときには、彼らに働いてもらえないものか。

 英雄のAGI METALを頼りたいところだが、そのAGI METALのいるセントアイブスから援助要請が出てしまっては、どうしようもない。いや、ゴードンもあのパーティの元メンバーではあるのだが。」

「数日前の冒険者ギルドからの情報では、シルヴァホエールは大陸にいるようです。探して参りましょう。」

「ガウェイン、そうしてくれるか。その間、ゴードンは王城を守り、特に魔法兵団の鍛錬の強化をするように。」


 ゴードンとガウェインは執務室を退出したが、足取りは重い。どちらも年々ジェフ王が弱っていくように感じていた。ジェフ王は、(まつりごと)は間違いなくこなすのだが、どうにも覇気がない。3年前、ゴードンの長兄スコットが亡くなって以来、塞ぎがちなのだ。


「父は、兄のスコットには期待していたからな。兄弟の誰よりも優秀だった。国中が、スコットが次期国王ならば、この国は安泰だと思っていた。」

「ジョン様、バージル様とも内務大臣、外務大臣として国を支えてくださっておりますが。それに国防面では、それこそゴードン様がおられます。」

「いや、実務的なことではない。心理的なものだ。国務は義務感使命感から行っているのだろう。生きがいを感じているようには見えない。無邪気なアランが父に甘えているときぐらいしか、父には笑顔がない。」

「はい。それは・・・私にも分かっております。せめて陛下を悩ませる心配事は取り去りましょう。すぐにシルヴァホエールを探して参ります。」

「む。頼む。父だけではない。民のため、国のためでもある。」


 ガウェインは騎士団から魔法使い(マジックユーザー)斥候(スカウト)数人を引き連れシルヴァホエールを探しだすために王都から出掛けて行った。




 そして、そのシルヴァホエールのメンバーの一人は俺と一緒にいるのだった。クララは希少金属(ミスリル)を、俺は取調室の食材を探す目的があり、探索者ギルドの窓口とも相談の結果、西にあるシドのダンジョンを探索することにした。このシドのダンジョンも最近は要注意であるとの報告が上がっている。何か変化があれば、これまでになかったドロップアイテムが手に入るかもしれないし、街を守るためには探索を進めたほうが良い。


 シドのダンジョンの入口まで来ると、騎士団が塹壕を掘り土嚢を積んで陣地を造っていた。土嚢が早速役に立っているようだが、喜んでいられない。こんな物は使わずに済めば其れに越したことはない。またオーバーランの可能性があり、それに備えているということに他ならない。


 騎士団から話しかけられテオのダンジョンでの防衛戦や土嚢の件で誉めそやされるが、一つ困ったことがあった。レイチェルとジーンの姉弟が後を付いてきたのだ。


「クッキーの兄ちゃん、こんちは。」

「あら、かわいい子たちね。こんにちは。『取調室』で会いましたよね。」


 テオのダンジョンの2階層で助けた子たちだ。一緒にダンジョンに入りたいと言う。そういえば、クララは詳しく知らないんだよな。軽く経緯を説明した。

 レイチェルが言うには、取調室で貝や海藻を買ってもらって助かっているし感謝しているが、将来のことを考えると探索者としての活動もしていきたいと。今はシドのダンジョンでも異常があるようで危険が伴うので、やめさせたいが。どう説得しようか思案していると、クララが二人にレジスターカードを提示させている。


「二人とも評価ランクはGですか。それだとクエストはろくなものを受けられないですね。ギルドのお世話になるにもお金が要りますし。まずはトークンやドロップアイテムを狙って地道に狩りをするくらいしかないです。」

「うん。ご両親がいなくなって、凌ぐために探索者になったからね。初心者講習とか受けてないよなあ。」

「じゃあ、あたしたちでやってあげましょう。勿論無料ですよ。

 それに。この子たちに興味があります。クッキーさん、レジスターカードの備考欄を見てください。」


 クララに促され二人のレジスターカードを覗いてみると職能(クラス)は前衛の基本職の一つ、兵士(ソルジャー)だが、備考欄には白魔術士(ホワイトマジシャン)と記入されている。魔法を覚えられるのか。姉弟揃って。血筋なのだろうか。


「ね。磨けば光りますよぅ。高材疾足(こうざいしっそく)ですね。それに誰だって最初は初心者です。危険だからなんて言ってたら何も始められません。」


クララは二人の頭を撫でながら話す。二人とも嫌がるそぶりはない。むしろ嬉しそうだ。


「確かに。それもそうだな。」

「二人とも装備は最低限でも一通りの革製の防具、それにブロードソードですね。あたしが前衛の中央です。二人は両脇に。クッキーさんは後衛で魔法に専念してくださいね。」

「え、いや、俺が前衛に。」

「それでは二人が成長しませんよ。クッキーさんも魔導士(ウィザード)として頑張らないといけませんしね。この子たち二人ともあたしが守りますから大丈夫です。」


 クララはストレージャーから手槍を取り出して構えて見せる。隙が無い。それだけでなく振り回しても速い。くるくると回せばバトントワリングのような滑らかな動きだ。レイチェルとジーンが目を丸くして拍手している。


「あたし、こう見えてもAランクの遊撃手(レンジャー)なんですよ。規模の小さいダンジョンなんて単独でクリアーできるんです。

 クッキーさんは、攻撃魔法ばかりじゃなく後衛から二人を助ける術を考えてください。もし、またレッサーデーモンのような魔物(モンスター)が現われたら、そのときにはクッキーさんの魔法が頼りなんですからぁ。皆さん切磋琢磨です。」


 クララに押し切られてしまったが。たしかに魔法の練習はしたいし、浅い階層の活動に制限して二人に付かず離れずで、いざとなれば前に出れば良いか。四人でシドのダンジョンに入ることにした。ギルドの講習の座学で習ったものの、これまでに使ってこなかった支援用の呪文を使えるのか試行錯誤することになるのだろう。


学園もの、スポーツものでもない限り、登場人物が同世代ばかりというのは不自然だと思っています。

これからも子供も老人も登場させたいですね。

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